教育連載コラム―未来への戦略-

新型コロナウイルス対応にみるデンマークのオンライン授業

新型コロナウィルスにより、休校が増えた日本ではオンライン授業について早急な対応に追われている学校も少なくない。デンマークでも新型コロナウイルスの感染拡大によりロックダウンが行われた。その後、一ヶ月ぶりの4月15日に学校が再開し、小学生たちの学校に通う姿が見られた。

デンマークの街並み


筆者が何回か訪れたデンマークでお世話になり、ともに国際大学GLOCOMの客員研究員であり、現在、ロスキレ大学の准教授の安岡美佳さんにインタビューを行った。
安岡さんは小学校1年生と5年生のお母さまでもあり、北欧研究所の所長もしている。

インフラがあったからオンライン教育がすぐにできた
筆者が数年前に訪れたデンマークの学校は、どこも無線LANがありICT教育が当たり前のように行われていた。今回ロックダウンした時の対応はどんな感じだったのだろうか。
安岡さんによると
「ロックダウンが始まった3月16日には、小学校5年生と1年生のところに、担任教師から自宅学習指示のメールが届きました。もともと学校と父母、担任と生徒のやりとりは全てデジタルです。デンマーク国内全ての小学生、特に3年生以上は全員、毎日、自分でIDとパスワードでログインし、1日の授業のスケジュールを見たり宿題を確認します。
今の5年生の娘のクラスでは、基本的な先生の指示はGoogleドライブで共有され、提出もオンラインです。また、日々の授業でも、カーンアカデミーや民間のデジタル教材やオンライン教材を使っています。つまり、そもそも30%のオンラインであった授業が、このロックダウンで100%になったということ。インフラがあったから、家でもオンライン学習がすぐに始められたんですよね。」
とのこと。

オンラインでもアクティブラーニングの概念を入れる
安岡さんは
「デンマークは基本的に普段から授業はアクティブラーニングで行われます。日本でやっているような一斉授業で、先生の話にペースを合わせてということは行いません。個人の興味や力量に合わせてグループワークをする授業方法が一般的なんです。
例えばカーンアカデミーなどを使っていて、すごく進んでいる児童もいます。おおざっぱに、4月・5月はこれをやりなさい、という内容が出されます。なので、すごく進んでいる児童もいます。例えば小学校5年生ですでに中学生の数学をやっている人もいます。もちろん、わからないというと先生のところに行って聞くこともできます。」
「例えば教室では、先生が授業をしているところに、聞いているのはたった5人だけれども、後ろの方では進度が同じくらいの子どもたちが数学の協働学習をしているグループが2、3あったりします。で、よくみると、別の先生1人と児童1人が教室の隅っこで授業をしたりしているんです。」
という。

筆者もデンマーク郊外の学校に行って授業を見学したことを思い出した。数年前から宿題もSNSを使って友人と全てネット上でやりとりしながら協働学習をしていたのだった。
安岡さんは、このようにオンラインでもアクティブラーニングの概念を入れることの重要性について述べているが、その方法の1つとしてPBL(プロジェクトベースドラーニング)の概念も踏まえたエッセイも書いている。

]
参考: 2.ロスキレ大学PPLとオールボー大学PBL
https://note.com/happinesstech/n/ndb59d7c12a78

デンマークの子どもたち


21世紀型の教育観
「基本成績はつけないんです。中学校くらいのレベルでの卒業試験はありますけど、その内容も暗記をすればよいというものではなく、勉強のやり方を知っていればできる内容の試験です。例えば、捕鯨について調べ考え、主張を論理的に構成して、プレゼンする。そもそもそれが21世紀型スキルですよね。
もちろん、記憶学習を完全に否定するわけではありません。子どもの頃はけっこう記憶力があるので暗記は基礎学力向上に役立つと思っています。ただ、デンマークの人たちが新型コロナウイルスに対応しやすいのは、自分で考える力、変化への対応力が身についているのかもしれません。今の社会で必要な能力の向上に教育が貢献していると思います。」
と述べていた。
ロックダウン前の対応も柔軟だった。筆者が訪れた時に、テスト時にトイレに行ってもスマートフォンを持っていても良いというのに驚いた。
試験内容はどのサイトをみたらよいかを調べておけばよく、研究計画書を書くような内容であった。

「デンマークで初めて感染者が見つかったのが2月27日だったと思うのですが、それまでは、日本のクルーズの話も少し出ていた程度で対岸の火事。政府の手洗いをしましょうという広報が2月27日にようやく出ました。
しかしその後、3月11日に翌週16日月曜日からの、教育機関・公共機関の閉鎖が決まったのですが、児童は12日、13日までは来ても良いということになりました。つまり、いきなりロックダウンというのはなく、11日から次の月曜日の16日まで、猶予期間というか準備期間があったんです。
親も月曜日から家で仕事ができる環境を整える時間になり、また、先生がオンライン学習の準備をする時間となりました。」
とのことだった。
いきなり休校というのではなく、先生方の準備も考えた対策だったということがわかった。
ところで数年前にデンマークでは現金でバスに乗れないほどITが進んでいるという印象が筆者にはあった。
また、この記事( https://japan-indepth.jp/?p=39047 )にもあるように、デンマークではスマートフォンを扱う高齢者を見ることが少なくないと書いてあるのだが。

「はい、デンマークは1960年代からオフィスのオンライン化にともない、女性の進出が図られました。特にオフィス事務やコンピュータなどの分野です。なのでその時代にオフィスにいた女性が今、高齢となってもICTやスマートフォンを使いこなしているのではと思います。」
酪農国といったイメージとは逆のスマート社会のデンマーク。
安岡さんは最後に一言
「教育が何よりも重要です。その国の基本的な国民の能力に関わることなので」
と語った。
まさに困難になった時でも色々な能力を醸成していけば何事にも対応できるのだと思った。

オンライン授業の配信では、どうしても一斉授業で自分の知識を伝えねば、と思いがちだが、安岡さんはアクティブラーニングの概念を持ちつつオンラインでもできる方法があると言う。目から鱗だった( URL:https://note.com/happinesstech )。
筆者がデンマークに訪れた際、デザインという概念が日本と大きく違うことを学んだ。文化的には日本と違う観点は少なくない。デンマークについての詳細についても安岡さんは紹介している。

安岡美佳 氏
Mika Yasuoka-Jensen
Associate Professor
Roskilde University
ロスキレ大学アソシエイトプロフェッサー、北欧研究所代表
慶應大学で図書館情報学学士を取得後、京都大学大学院情報学研究科にて社会情報学を専攻し修士号を取得。東京大学工学系研究科先端学際工学博士課程を経て、コペンハーゲンIT大学より博士号を取得。京都大学大学院情報学研究科Global COE研究員などを経て現職。現在は「情報システムのための参加型デザイン」への関心から派生し、北欧のデザイン全般、社会構造や人生観、政治形態にも関心を持ち、参加型デザインから北欧を研究。また、近年は、参加型デザインから派生したイノベーションが生まれる場「リビングラボ」の研究、人を幸せにするテクノロジの研究を実施している。

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新型コロナウイルスによるICT教育格差への対応 – クイーンズランド州におけるオンライン教育の事例

新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の影響で、世界で14億人以上の子どもたちが学校に通えない! 3月16日の時点で56ヵ国が休校やそれに準じる措置を取っているが、それがあっという間に157ヵ国となった。これは先月の国連の定例記者会見で出された時点であるが、まだ増えるだろう。実際アメリカではほとんどの州がなんらかの休校措置を取っている。[1]
東京都も都立学校を大型連休明けまで休校することを決定した。学校も新型コロナウイルスとの長い戦いが始まった。[2]
今後は教育を受ける権利のある子どもたちの学習環境をどう担保するかが重要だ。その対策によってはオンライン教育におけるICT教育格差が懸念される。

クイーンズランド州の生徒たちのオンライン教育事例
オーストラリアは州によって休校措置の対応が異なるが、筆者が何回か調査に訪れたクイーンズランド州でも、学校休校に向け舵を取った。ただ完全なクローズではなく、学校に行きたい児童・生徒がいれば受け入れている。
前回のこの記事の続きとして、オーストラリアのクイーンズランド州在住の生徒たちのインタビューから、学校における新型コロナウイルスの学習対策を見ていく。

事例1:高校1年生 ミリーさん
最初のインタビューは、ミリーさん。10年生(高校1年生[3])だ。保護者は、「休校になった時はやはり感染のことも心配だしホッとしました」と言った。
高1のための推奨スケジュールがあるため、休校になっても朝起きて、ほとんどの生徒が決められたスケジュール通りに行動している。毎朝、各教科の先生から、スクールウェブサイトにメッセージがあるそうだ。

ブリスベン・ガールズ・グラマー・スクールのウェブサイト。右上にミリーさんの写真もあり、おはようミリーさんと書かれている(学校から許可済)


この日は校長先生からのビデオメッセージがあった。この画面の上の「Remote Learning」のところが、クリックして休校時に家で勉強する場所。保護者専用のページもあって、成績表はそこから親がダウンロードする。
ミリーさんは毎日スクールウェブサイトにログインする(写真参照)。その中にフォルダーがあり、ワークシートに取り組んで、書いたものをスクリーンショットをし、宿題のプリントをメールで送る。動画を撮影してのせている先生もいる。通常授業さながらに、黒板の前に立っていつもと同じように授業をする先生もいる。

この学校にはハウスと呼ばれる学年を超えたクラス編成もあり、そこではインスタグラムで動画を流して情報をやりとりする先生もいるという。
ミリーさんは、
「ちょっと困るのは化学の実験です。実験ができないので、すでにあるデータを使ってやるしかありません。先生が実験している様子を動画で見せてくれるけど、家にいると自分で実験ができないので。」
困ったこともあるという。
「宿題を出さないと、先生から連絡が来ます。先生はウェブサイトにアップロードされている課題をダウンロードしたかどうかチェックしているんです。もちろん、課題をやっていないと新学期は授業についていけないので、先生としては普段と変わらないように気配りしているんですよね。カウンセリングで心の相談をネット上で受けられるようにもなっています。」

インタビューに答えてくれたミリーさんとお父さん(2020年3月29日日本から筆者撮影)


ここクイーンズランド州では、全ての教科で毎日パソコンを使っているので1人1台のパソコンを所有しているという。教科書も全てクラウド上にあるのでパソコンだけを持っていくスタイルだ。ミリーさんは、「自分がまだ産まれていなかったSARSの時にもクイーンズランド州では休校措置となったそう。当時から働いている教師によれば、その時に比べれば今はテクノロジーが発達し、すごく色々なことができるという話だった」とのことだった。
先生方が色々と工夫できるチャンスだ。
最後に心配なことはありますか、と聞くと
「この状態はおそらく半年くらいは続くのではないかと思っています。最悪なのは学年のやり直しになってしまうのではということ。まさかそれはないと思っていますが。授業も色々な方法でやるのだと思います、例えば先生方はZoomなんかも検討しているみたいですよ」
と述べている。

事例2:高校2年生のチェリーさん、中学2年生のルィーズさん
次は、レッドクリフステイトスクールに通っている可愛い姉妹、チェリーさんとルィーズさん。姉のチェリーさんは11年生(日本だと高2)で、妹のルィーズさんは8年生(日本だと中2)だ。

チェリーさん、ルィーズさん姉妹


2人は公立の学校[4]に徒歩8分ほどで通学している。3年前まで3年間、日本に居たことがあるという。チェリーさんとルィーズさんはその時小学生だったが、帰国してから生活は激変したという。
ルィーズさんの通学カバンの中身は毎日、お母さんの作ってくれたお弁当と水だけ。紙の教科書は持ち帰りが禁止だからだ。

一方、お姉さんのチェリーさんは帰国後すぐに、学校に指定された範囲のパソコンを家庭で購入した。タブレット端末は禁止。ノートパソコンで、ある程度のスペックの指定がある。
チェリーさんは「教科書が無いかわりにパソコンが重たい。オーストラリアではどこの学校でもWi-Fiがあるので授業は基本、パソコンを開いて教科書を見たり資料をダウンロードしたりして行う。毎日、毎時間使うのでICT教育が前提なんです」という。学校では数学など週1程度のミニテストもパソコンで行うとのこと。
急なICT教育にシフトして大変だったのか聞くと
「何も変わらないですよ。家にいても、パソコンを使ってリアルタイムな時間にオンラインで学習しなければならないし。そうでなければ授業についていけないです。」とのこと。

学校は休校とはいえ、行きたい場合は行ってもよいそうで、ルィーズさんも休校となってから1週間ほど行っていた。一方、お姉さんのチェリーさんはそもそも試験期間だったので、休校になる前から試験科目のためだけに学校に行っていた。
「オンライン授業に切り替わったタイミングで、これは学校でなくても大丈夫だな、と思って自宅学習に切り替えた。」という。しかし、日本のように宿題が多くないので最近は暇になってきたという。

お母さんへのインタビュー
2人のお母さんにもインタビューした。
「家では集中できないから無理かなと思ったんですよね。でも学ぶ時間にきちんと学べるのは嬉しいです。朝、『学校始まるよ』といって、学校の始業時間と同時に自宅の椅子に着席しているようです。時間通りに、その時間中は座っていないとならなくて、チェックされます。そうでないと無効になる厳しさなんですよ。後からリカバリーすることはできないので。時間通りに起きて着席しなければならないのは大変ですね。
ただ、休校になっても学校に行ってもOKというのは良いですね。学校側としては、学校に来ない生徒もしっかりと、オンラインで出されている科目の宿題に取り組むようにと言っています。
学校のウェブサイトからログインするので、出席は授業開始時間に先生がチェックするだけだけれど、娘たちはちゃんと最後までオンラインで参加し学習しています。でも、友達がちゃんと最後まで受けているのかわからないですね。もちろん出席はちゃんとチェックするし、送られてきた課題を提出してもチェックはされるけれど科目によってまちまちです。
やることは何にもないから、続けてやってくれるのは、有難い。結局、母としては行ってほしかったけれども、課題は先までどんどんやってもよいとのことだったし、オンラインでやってもらってよかった。」
三者面談のことをペアレントインタビューと言い、実際には子どもは参加してもしなくても、どちらでもよいそうだ。クラウド上のデータを見て、オンラインで自分の子どもと全体の成績を比較してアドバイスを受ける。担任でなくどの教科の先生とも面談でき、面談の予約は全てネット上でできるという。
ICT教育の唯一の問題点は、授業中にバッテリーが足りないと大変なことになる点だ、とのことだった。お母さんは最後に、日本の給食のことを栄養バランスが整っていると褒めてくださった。

事例3:高校2年生 トレヴァー君
最後に、11年生(日本でいうところの高校2年生)のトレヴァー君にインタビューした。毎日クイーンズランド州レッドクリフ半島の北側から自転車で15分以上かけて私立の男女共学の高校[5]に通っている。
入学時に学校指定のパソコンが支給され、これは授業料の中に含まれているという。日常的に生徒用のポータルにログインし勉強をしている。しかしゲームをするスペックではないので、自宅にも自分専用のパソコンを持っている。

「宿題はWord文書で全て書く。そしてTeams[6]を使ってやりとりしている。クラウド上のポータルから宿題をダウンロードして学習している」という。]

学校支給のパソコン。タッチパネルとしても使うことができる


「正直、最初休校と聞いた時には嬉しかった。こちらではイースターに合わせた休みがあと1週間ほどで始まるので、ちょっと休みが早くなって良かったな~って感じました。」という。
「宿題もメールで来るし、課題もクラウド上のポータルにあるから毎日見ています。その授業時間中にダウンロードしないと先生がチェックするし、課題がその時間内に終わらなければまたチェックされる。だから別に学校が休みでも大丈夫と思った。友人とのやりとりは主にゲームソフトでコミュニケーションが取れているので。」と言う。

インスタグラムやツイッターはしていない。しかし1日中ずーっと家にいるとだんだん心境に変化が起きてきたという。
「友人と一緒にバスケットとかできなくて、運動不足を感じてきました。早く学校が始まって欲しい。」とのこと。今は運動不足解消のため家の周りで軽いジョギングをしているという。
最後に、インタビューに応じてくれた生徒たちは、たとえオンライン学習に切り替わっても、学校で日常的にICT教育が行われていれば抵抗が少ないことがわかる。もちろん、ただオンラインにするだけでなく先生のサポートも大事だ。
まだICT教育に切り替わっていない学校は、例えば、学校のホームページなどを活用し色々な形で学習を担保する必要があると感じた。
日々変わる状況、公式の最新情報を
状況は日々更新される。今後、クイーンズランド州独自の学校含む措置が実施されることが予想されるため、ウェブサイト(州保健省コロナウイルス特設ホームページ)や報道等から最新の情報[7]を参考にすることが望ましい。
文部科学省のガイドラインはこちら(2020年4月1日)

文部科学省「Ⅱ.新型コロナウイルス感染症に対応した臨時休業の実施に関するガイドライン」の改訂について(通知)
https://www.mext.go.jp/content/20200401-mxt_kouhou02-000004520_03.pdf
参考サイト
[1]https://www.edweek.org/ew/section/multimedia/map-coronavirus-and-school-closures.html
[2]https://www.jiji.com/jc/article?k=2020040101098 (現在は掲載終了)
[3]ブリスベンガールズグラマースクール
https://www.bggs.qld.edu.au/
[4] https://redcliffeshs.eq.edu.au/
[5]Southern Cross Catholic College
https://sccc.qld.edu.au/
[6] Teams:Microsoftのグループチャットソフトウェア。日本でも一部の高校や高専で使われている。
https://products.office.com/ja-jp/microsoft-teams/group-chat-software
[7]https://www.qld.gov.au/health/conditions/health-alerts/coronavirus-covid-19

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新型コロナウイルスで「オンライン学習格差」が広がる!

新型コロナウイルス(COVID-19)の流行が止まらない。WHO(世界保健機関)からはパンデミックの状態になっているというコメントも出た。日本も感染者数が増えている状態で、企業からはテレワーク、リモートワークという言葉が聞かれ、時差出勤が行われている会社もある。
学校では政府の急な休校要請により、各方面で混乱が起こっている。聞くところ、1人1人に電話をかけ対応している先生方もいるという。1人10分程度としても1クラス30人も居れば、昼間の時間をほとんど費やしてしまう仕事となってしまう。
ところで、既に日本はGIGAスクール構想[1]が1人1台の方針[2]を基に出されている。これに伴い、都道府県単位での調達で端末が導入可能となっている。そもそもこれに沿って速やかに1人1台が実現していたら、休校になっても先生が電話を慌ててかけずに良かった場面もあるかもしれないと思うと、筆者としては悔やまれる。子どもたちの方も、動画でやりとりができればとても嬉しいことだろう。今はそういった時代だ。既に1人1台の自治体もあるが実際にはなかなか進んでいない自治体が多い。
筆者が調査を行ったオーストラリアのクイーンズランド州では、新型コロナウイルス対策として学校の急遽閉鎖があるかもしれないという段階から、オンライン学習になることも想定し、「授業で使っているパソコンを毎日自宅に持ち帰るように」と指示がある高校もあった。小学生の時から1人1台学校の授業で日常的に使っているからできる措置だ。
その後、州政府は数か月の学校閉鎖もあり得ることを示唆している[3]。準備できている学校では休校措置はせずともオンラインで授業をすることができるのだ。しかし1人1台が可能である環境とはいえ、都市部と地方、私立と公立の間でのオンライン学習格差はクイーンズランド州でもまだある。
例えば、大学や私立高校は、時間表通りにリアルタイムで授業を行うことができる一方で、公立の学校では残念ながら、教師がビデオをアップロードするだけ、あるいは、単に宿題をメールで送るだけという学校も出てくる可能性がある。クイーンズランド州は、幼稚園の年少の年齢からタブレット端末を使っているほどICT教育が進んでいる地域だが、このような地域でもオンライン学習格差が起こっているのである。

中国は新型コロナウイルス対策で小学校の授業を国営テレビチャンネルで放送し、中高生は、オンライン学習のプラットフォームを使うという。また、バイドゥとアリババは5000万人に授業を行うことを可能にしたという報道もあった。
フランスでも小中高大学まで全てが休校になったが、いち早く政府がオンライン授業をスタートすると述べ、その速さに近隣諸国が驚いた。モロッコでも同じような政府の動きがある。アメリカはもともと州によっては飛び級の教科は遠隔でかまわないという所もあり、自治体や民間レベルで小学校でもオンライン講座が進んでいる。

さて、アメリカの大学の事例でいえば、ハーバード大学とMITはこのコロナ対策で授業はオンライン講義になった[4]ということだ。これらの大学の事例としても、そもそも毎回の授業を動画でアップしている先生はとても多かったという背景がある。先生によっては授業の前にあらかじめ学生に視聴してもらう反転授業(flipped classroom)もある。

MITにある100ドルパソコン(リーズナブルなICT教育を提供できる)


私が調査を始めた10年前ほどからハーバード大学では9割の先生がプリント類、中には授業の動画等を大学のクラウドにあげていて、一般に開放されていない学生IDとパスワードがあればアクセスできる。もちろん中にはMOOCのように一般の人でも自由に視聴できるオンライン講座もある。10年前は、1割弱のハーバード大学の先生がオンラインで自分の授業を公開することに難色を示しているようだ、と学生たちが話をしていた。
しかし10年経ち、今ではこのような新型コロナ対策でわかるように全ての授業が公開されるようになったのである。ここまで急に変化するのではなくそこに向かうプロセスがあったのだ。

公共図書館でPCを使う人々


日本でも、文部科学省は小学生に向けた学習支援コンテンツを公表している[5]。また、自治体でも色々と休校でも学習できるサイトを用意している。東京都の教育委員会はベーシックドリルを提供している[6]。
一方、民間では、GoogleがGoogle for Educationという遠隔学習支援プログラムを持っている。この特徴は児童生徒だけでなく、先生も学ぶことができるという点である[7]。

こういった緊急事態には「あらかじめその環境を作っておく」というのが功を奏する。災害の多い国であるからこそ色々なものを使いこなせることが必要である。児童生徒はもちろんのこと、先生も、すぐに対応することは困難だ。一方で、2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されるが、アンプラグドでパソコンに触らずにいる状態を続けるわけにはいかない。
感染病だけでなく、温暖化の影響で災害の多いこれからの時代は「生き延びる力」が必要であるとOECDではEdication2030(OECD)[8]の概念を出している。21世紀型スキルの上をいくこの「生き延びる力」をつけるためにもオンライン学習が無くては諸外国に遅れを取りかねないだろう。

学校のオンライン学習において、教育機会をいかに平等に提供するかは課題だろう。1人1台の環境で学習することが可能な環境であれば、学校からの配信も可能で、必要があれば家庭でプリントアウトしたりスクリーンショットを取ったりすることもできる。家にいれば時間割もなく生活の乱れも起こりがちだが、先生とネットで繋がっていれば勉強だけでなく体操をしたりと、子どもたちの生活習慣を改善したりする一助にもなるだろう。
オンラインで繋がることができれば体調が悪くても他の人への感染を恐れずに授業を受けることができる。導入していない自治体があれば、このような事態がある時には一気にオンライン学習格差が起こるだろう。

参考サイト
[1] GIGAスクール構想の実現について:文部科学省
(URL: https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm)
[2] 文部科学大臣からのメッセージ(GIGAスクール構想の実現について)
(PDF: https://www.mext.go.jp/content/20191225-mxt_syoto01_000003278_03.pdf)
[3] Queensland schools weigh months-long closures, reduced lessons
(URL: https://www.brisbanetimes.com.au/national/queensland/queensland-schools-weigh-months-long-closures-reduced-lessons-20200315-p54abr.html)
[4] MIT Tech Review: ハーバード大学とMITもオンライン講義に、新型コロナ対策で
(URL: https://www.technologyreview.jp/nl/harvard-tells-students-not-to-return-from-spring-break/)
[5]高等学校における学習支援コンテンツ(令和2年3月11日時点):文部科学省
(URL: https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/mext_00461.html#zyouhou)
[6]自治体でも東京都の教育委員会には、ベーシックドリルを提供するこのようなサイトがある。
東京ベーシック・ドリル(電子版)/PDF版目次|東京都教育委員会ホームページ
(URL: https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/study_material/improvement/tokyo_basic_drill/about.html)
[7]遠隔学習支援プログラムウェブサイト | Google for Education
(URL: https://edu.google.com/intl/ja/distance-learning/)
[8] OECD教育2030を公表 “生き延びる力”とは|KKS Web:教育家庭新聞ニュース|教育家庭新聞社
(URL: https://www.kknews.co.jp/post_ict/20180305_1b)

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幼少期からのプログラミング教育 – 親が子へ機器を与えることの大切さ

今回は以前、ご紹介した松田さんの友人で、PCN創設メンバーの一人(下記リンク参照)で「一日一創」をモットーに毎日プログラミングされている、IchigoJam(イチゴジャム)の生みの親、福野泰介さんをご紹介したい。

福野さんがどのようにしてプログラミングに興味を持ったのか、これからのプログラミング教育をどうやっていくのかのヒントが隠されているのではないか。筆者はプログラミングサミットに2回ほど登壇させていただいた関係もあり、今回インタビューをさせていただいた。

福野さんは子どもの頃、ファミコン大好き少年だったそうだ。ただゲームをするだけでなく自分で作ろうと思ったところがすごい。母親は「ゲームは1時間まで」という教育方針だったため、1時間すると、後は外に遊びに行っていたと言う。
この時代のゲームには、例えばスーパーマリオブラザーズなどがあった。しかし、ただゲームで遊ぶだけではなかったという。小学校3年生の時に、ファミリーベーシック(ファミコンゲームを作れる周辺機器)に出会い、母親が新しいもの好きの性格もあって、MSXを買ってくれたのだ。その取扱い説明書を見ながらなんとかやってみたのだという。

あとは、その関連本を読みながら、ポチポチとプログラムを打っていた。本は主に図書館にあり、入門本を借りてきて打ち込んで遊んだそうだ。その後、本屋に売っていたMSXの雑誌を購入し、小5までやっていてだんだんプログラミングが面白くなってきたという。小5から中3の頭まで、買ってもらったMSX2+に夢中だったそうだ。
福野さんは中3の時に転校したが、転校先の学校は中2で修学旅行が終わってしまい、行くことができなかった。そこで親に交渉し、修学旅行の旅費でMSXturboRを買ってもらったのだそう。
その費用も母親が出してくれたという。

自分でプログラムを打ち込み、面白くなるように改造して遊んでいるうちにBASICを0から作ることができるようになった。速度を求めてアセンブラを使い、細々と書くのはめんどくさいからと、中3の頃にはC言語を使うようになった。その後福井高専に入って、学校にあるパソコン(PC98)のC言語コンパイラの圧倒的速さに衝撃を受けたそうだ。
そうこうするうちに、会社を作ったらと周りから言われ、福井大学ベンチャー有限会社シャフトの唯一の非大学生の創業メンバーに。その後、1人で会社を興して研究開発をしつつ、今に至るという。
福野さんは「子どもたちに喜んでもらうのが一番。子どもたちには、世の中にインパクトを与えるような存在になってほしいと思う。たくさんの人に使われるような社会的影響力のある技術を持ち、自分の力で世の中を変えていける子どもたちが増えてほしい。また、今後は各地の高専でも自立した強い人材育成をサポートしたい。高専に向いている小中学生が憧れる、プログラミング好き、ものづくり好き高専生をメンタリングしたい。プログラミングは、好きでたくさんやっているとうまくなると思う。実際、自分よりすごい子どももいるんですよ。」という。
今後は、1時間半でIoTとプログラミングを基礎から学べるカリキュラムを標準化するなど、高専やPCNつながりで全世界に活動範囲を増やしていきたいという。そして3,000円で自分だけのパソコンを始められるIchigoJam(イチゴジャム)をそのはじめの一歩として活用していきたい、と言っていた。

高専の職員がIchigoDyhookでプログラミング
[2020年2月20日長岡工業高等専門学校にて]


好きなことに没頭してきた福野さん。その機器は理解のある母親が買ってくれたものだった。ビル・ゲイツ氏の母親がPTA活動でPCを学校に入れたことは有名な話だが、やはり興味のある子どもに躊躇せず、機器を買って与え、ただゲームをするのではなく創りだすことに興味を持たせた親心が福野さんの活動の一部に生かされているように感じた。

福野泰介さんと筆者

IchigoJam(イチゴジャム)は、シンプルにプログラミングだけができ、自分で組み立てることもできる国産パソコン。660円で買えるキーボードと、microUSBの電源、ご家庭のテレビにつなぐビデオケーブルを揃えれば、自分だけのプログラミングできるパソコンのできあがり!総額3,000円で揃います。
プログラミング言語は、入門用言語として定評あるBASIC。ネットに頼ること無く、印刷して楽しめるIchigoJamプリントや、書籍、雑誌など、自分のペースで学ぶことができるのが特徴です。
https://ichigojam.net/
IchigoDyhook(イチゴダイフク)は、パソコン周辺機器の老舗アイ・オー・データ機器製のIchigoJam(IchigoDake)用周辺機器をぎゅっと集約した、学校向け決定版ともいうべきプログラミングキットです。
単三電池かモバイルバッテリーでも動作でき、ネットも必要なく、限られた授業時間内で、インパクトあるコンピューターサイエンスとしてのプログラミングを体験できる機材に仕上がりました!
(スライド教材はオープンデータ、自由に改変・再利用いただけます「はじめてのプログラミング with IchigoJam (IchigoDyhook) – 神山町イベント」)
https://pcn.club/sp/dyhook/

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地方にもひろがるプログラミング教室

プログラミング教室が5年で6倍に急増したというニュースを見たが、東京都内では、場所によっては10倍という地域もあるそうだ。しかし、地方では子どもが都会に比べて多くないためだけでなく、プログラミング教育のニーズはまだ都内ほどない、という声も聞く。

参考:子ども向け「プログラミング塾」が5年で6倍に急増した理由
https://diamond.jp/articles/-/183276?page=3

いったい地方のプログラミング教室はどんな状況なのだろうか。
そこで、新潟にあるプログラミング教室へその様子を見に行った。筆者が訪れたのは「High Tech新潟(ハイテック新潟)」というプログラミング教室である。そこで授業を見学し、代表者の東條英明先生にも話を伺った。
まず教室に入ると3Dプリンタとカラフルな床があり、机には何台かのパソコンが用意されていた。聞くところ、自分のパソコンを持ってくる生徒さんもいるが、安価で貸し出しもしているし、教室にもしっかり常備してあるということだった。

小学校5年生の男の子が数人、小学校3年生の女の子、中学校2年生の男の子がプログラミングをしていた。驚くことに、それぞれ自分が作りたいものをそれに適した言語を使ってやっていた。Scratch(スクラッチ)、Python(パイソン)である。
教室では同じ時間にScratchプログラミングをしている子、ペンタブで絵を描いている子、C♯の言語で3Dゲームをプログラミングしている子、Arduino(アルデュイーノ)やPythonで電気回路を作っている子など、色々なものづくりに取り組んでいた。

小学校5年生の男の子は「自分がやりたいことを表現できるっていいですよ」と言い、中学校2年生の生徒は「色々とチームで集まってゲームを作りたい」と言っていた。実際に何人かでそういう場を作るということだった。
生徒は近くに住んでいるのは半分くらいで、その他は違う区や遠方から親が送り迎えして来ているということだった。

東條先生は2年前に脱サラをしてプログラミング教室を経営し、今では100名以上の生徒数となり、教室もここだけでなく、新潟の別の場所にも作っている。
東條先生の協力者として、新潟コンピュータ専門学校の学生や海外からのスキルの高い講師も居て国際色豊かだ。
実際、ArduinoやMicro:bitの解説は英語である。それをGoogle翻訳で日本語にして学んでいる。以前Scratchをしていた児童から、「英語版でやっていたら英語に対する抵抗がなくなった」という話を聞いたことがある。いずれ日本語の解説でなく、英語で解説を見ながら自分でプログラミングができるようになりそうな勢いだ。

やり方は様々、個々のニーズに応じた教育ができている教室は成功しているのだろうと思う。これから2020年に必修化になって、学校で学んだ子どもたちがさらにやりたい時の受け皿がますます必要となってきている。そういった中で、地方であってもプログラミング教室の役割は多いにあると感じた。
とはいえ都内に比べ、生徒数は少ない。ここハイテック新潟の教室には生徒5人に先生が3人という恵まれた時間だった。地方の教室の方が先生に接する時間が多く、思う存分学ぶことができる可能性もある。今後は通うことが難しい子どもたちに、遠隔も含めてやっていく必要も出てくるのかもしれない。

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プログラミング教育を変える!ITベンチャーの挑戦【前編】~子どもにものづくりの楽しさを、先生にサポートを~

本コラムでは、プログラミング教材が色々ある中での様々な事例を紹介していきたい。先生方にはもちろんのこと、来年、進学する保護者の皆様にもお伝えしたい。
まず気になっていたのが、中学生・高校生向け IT・プログラミング教育サービス「Life is Tech!」を運営するライフイズテック株式会社。本日はこちらへ訪問した。

ライフイズテック株式会社代表の水野さんと筆者とはご縁があり、一緒に講演で登壇したり、東京大学で行ったキャンプの様子を見せてもらったりしたという経緯がある。当社はIT企業が立ち上げた企業ではなく、もともと教師をしていた水野さんが子どもたちに関わっているというのも魅力的な企業だ。
水野さんは
「日本の教育について良いところももちろんあると思うのですが、もっと進化できるのではないだろうか、もっと環境を用意してやれば伸びるのではないだろうかという思いがありました。暗記中心の学習方法に始まり、諸々、もっと環境を整えたり学習方法を変えたりすれば、子どもたちはどんどんやれるんじゃないか、という思いから会社を立ち上げました。」

会社の立ち上げは2010年。日本のプログラミング教育のために立ち上げたというが、時期という点においては老舗と言えるかもしれない。現在、延べ4万人、世界で2番目の規模になっており、現在は1万人くらいが習いにきているそう。常時、スクールにも約750人が通っているという。
水野さんは言う。
「このスクールでアプリが200個ほど作られています。100時間以上の指導者研修を経た大学生が中学生に教える仕組みとなっていて、500人程度います。200人くらい応募がある中から選抜をして、それから100時間の研修をさせています。リーダーシップの育成プログラム(=リーダーズ)です。
今応募している大学生も、昔は中学校で学んだ学生です。技術の継承に加えファシリテーションなど、5日間で成功体験に結びつけないとなりません。チームリーダーになるための研修で受かった子だけが、子どもたちに教えることができるのです。
大学生を育成し中高生に教える仕組みを作り、自治体と連携して40の自治体向けに展開することで、地方の子も親の年収に関わらず学習できるようにしています。企業と連携して最先端のコンテンツを使うこともあります。VRなどもありますよ。
さらに拡げて、先生向けのキャンプも行いました。前回は30人の先生が参加し、中高生が学んでいる隣で、中高生の学びも見ながらという方式で実施しました。」

水野さんはガーナの大統領にも会ったそう。教育は100年の計というが、ICT教育に力を入れるガーナはこれから先を見越しているようだ。
水野さんは、Pythonとスクラッチの間の言語、いわゆる「ネクストスクラッチ」によって、プログラミングでものを作る楽しさを学べる教材を充実させたいという。

「まずはオンラインで学べる環境を作りたいです。最近ではアメリカのロサンジェルスに会社を作りました。あとはグローバルにキャンプを実施することを考えています。実際、オックスフォードでキャンプを行っています。
今やりたいのはオンラインとリアルの両方。僕は教育を変えて、子どもたちが全員、わかりあい、自分の得意なところもわかって一緒に勉強しあうということを実現したいのです。
いつか学校を作りたいですね、そこで先生の研修をもっとやりたいです。どんな時期にどんなタイミングでやれるのかを知りたいですし、子どものニーズと能力と目標にあったものが必要だと思います。先生方の働き方を変えたいし、それはやはりテクノロジーを中心にして変えていきたいです。」
素敵な未来を描いている水野さん。今までも25億円の資金調達をしてMozerのシステムを作っている。次回は教材をどのようなコンセプトで作られたのかも含め紹介していく。

教育連載コラム―未来への戦略-

アクセシビリティの必要性 ―PCは1人1台の時代、全ての人にICTを使いやすく―

去る11月22日、全国の小学5年生から中学3年生が“パソコンを1人1台ずつ使える環境”を整備する案が検討されていることが分かった。聞くところによると、4,000億円の予算がつく可能性もあるという。
日本もいよいよ、海外の先進国並みに1人1台使える日が来るのかと思うと、長年、海外の様子を見てきた立場からは感慨深い。
しかし喜んでばかりはいられない。パソコンの授業は教える側のスキルも必要である。これまでの教授法とは異なるやり方も必要になる。パソコンの破損やセキュリティ、インターネット、著作権の理解などハードルがいくつもある。
このような中で障がいを持つ子どもたちに対しては、アクセシビリティ対応が求められると東洋大学名誉教授の山田肇先生は述べている。

「「次へ」のボタン1つでも使いにくいものがあります。こういう細かい点にも配慮が必要です。目の障がいと言っても全盲、弱視や色の識別など色々と異なりますが、そういう子どものため、サイトにちょっと細工をするのも役に立ちます」
アクセシビリティについて詳しい山田肇先生にインタビューしたところ、そんな細工が施された三菱鉛筆の公式サイト( https://www.mpuni.co.jp/ )を見せてくださった。

ファシリティジャポンは視覚・動作・認識など多様な障がいを持つ人々が使いやすいウェブ環境を提供している。この会社のサイトを開き( https://www.facil-iti.jp/ )、「子どもには少ないですが」と断りつつ、
「“白内障”を選択してみてください」
「セットした瞬間に三菱鉛筆サイトの表示が変わります」
と言われました。

こちらは「白内障」症状に合わせた見え方。画面が黒地になり、テキストも大きくなっている。
筆者がクリックするととても見やすく変化した。ファシリティジャポンを使えば、ディスレクシア(失読症)の子どもたち用の表示もできるようになる。

ファシリティジャポンWebサイトより
世界中で会議や仕事をこなし、色々な情報をキャッチしている山田先生に日本の今後のICTの在り方について伺った。
「日本の学校では、教員によるスマートフォンの持ち込みまで厳しく規制されている。本来行うべき教員への指導徹底を避け、スマホ禁止という安易な決定をするのだから、子どもが勉強にスマートフォンを使う時代はもっと先になってしまう。未だに紙ベースが多く、電子行政でも遅れを取っている」という。
学校からICTを使いこなせるようになることが、リテラシーの向上につながると感じた。

ところで山田先生は情報通信政策フォーラム(ICPF)理事長、行政改革推進会議歳出改革ワーキンググループ委員、高齢社会対応国際標準化の日本代表、科学技術振興機構社会技術研究開発センターでの研究開発領域総括、ドラえもんと一緒に本を書いたりなど、東洋大学名誉教授だけでなく、いくつもの肩書を持っていて様々な活動をされている。

これらの仕事について、マルチでどのように対応されているのか、働き方についても質問してみた。
「ICTの力を使えば、いつでも、どこでも仕事ができるのです(笑)」
やはりそうか!という回答だった。いつでもどこでもICTの力をフル活用されている山田先生。実際、国内外関係なくいつでも山田先生にはアクセス可能で、仕事をご一緒しているととても勉強になる。1人1台になれば、子どもたちも効率よい学習が可能となることだろう。

左より、筆者、和歌山県の仁坂知事、山田先生
最後に、ICPFサイト( http://icpf.jp/ )にはプログラミング教育に関する調査研究レポートが公開されている。これらは今後のプログラミング教育のために参照していただきたい。
(レポートは青のバナーを、リーフレット(簡易版)は橙色のバナーをクリックしてください)

教育連載コラム―未来への戦略-

「きのくにICT教育」の取り組み【後編】―ネットでいつでもどこでも。和歌山から地方創生の時代―

こちらの写真は2019年10月27日に訪問した企業、クオリティソフト株式会社の様子。
場所は和歌山県の景勝地、南紀白浜。羽田空港からわずか1時間で最寄りの空港に着く。クオリティソフト株式会社は東京本部以外に松本や大阪、名古屋にもオフィスを持っているが、2016年、白浜町に本店所在地を移転した。

会社の広さは敷地5530坪、建物750坪。ドローンを飛ばし放題だなと思ったら、やはりドローンスクールもやっていた。
雄大な海沿いの高台に建つオフィスにはプールや温室、バーベキュー場もある。果樹園や農園にもトライ中で、さしずめDASH村のようだ。

2階は宿泊施設(約50名)とコワーキングスペース。ここでは、ハッカソンだけでなく婚活イベントまでやっており、人気イベントなのだそう。

筆者は和歌山県のICT教育アドバイザーを勤めており、また熱中小学校というプロジェクトの講演を行った関係で訪問の機会をいただき、クオリティソフト株式会社の浦聖治 代表取締役社長へ単独インタビューを行った。
浦社長は
「日本には豊かな自然があり、ここ白浜町もそう。そもそもIT産業が地方を盛り立て『海の白浜・山の松本』として働き場所に選択肢のある、そういった会社を目指したい」
という。

1984年にできた当社はセキュリティソリューションの会社で、マッキントッシュ、いわゆるMacが出た1ヶ月後に、Mac が手本としたXerox の Star Workstation の日本語化のために作られた会社である。
Macと縁がある会社でKeyServer配布用ソフトの発売を開始し、1998年からQND Plusを発売した。クラウドから安心安全を提供するためのセキュリティサービスに関しては7割近いシェアを持っている。
もともとはライセンス管理からIT資産管理に移り、エンドポイントセキュリティに移っている。どこにいても安心して効率よく仕事ができるという点においてエンパワーメントすることを研究中であるという。
概念としては“どこでもオフィス”の上を行く、“どこでも机”、となることを考えているという。

南紀白浜、海の風景


浦社長は以前アメリカに住んでおり、帰国した際に
「日本はこんなに豊かな自然があるのに、長時間のラッシュで遠距離通勤をしている。狭い家に住んでいる。しかし和歌山に帰ってきて改めて思ったことは、太陽、水、豊富な緑、木々の豊かさ。日本こそ自然の豊かさを示せる国なのにもったいない、と考えた。地方に住むことが世界に豊かさを示せるのではないだろうか。ITの世界にいる自分たちが牽引して地方の時代を作ろう」
という考えに至ったという。
「雇用をいかに生み出すか、ということがイノベーション。ここは温泉がたくさんあるのでイノベーション・スプリングスと言う名前にした。」
という。
イノベーション・スプリングスのコンセプトは、色々な人が集まる異業者交流である。
「一般的な交流は、話をして1時間くらいお酒を飲むくらい。ここでは宿泊してコミュニケーションを取り、地域課題を洗い出していく」
という。

来訪者からヒントを得たドローンスピーカーがある。防災やアナウンサー、電池の開発者などが持っている課題を話しながら、ドローンに特殊なスピーカーをつけた“アナウンサードローン”を作って販売をスタートした。“アナウンサードローン”が発するアナウンスは28ヵ国語に翻訳されるという。
ひきこもりハッカソンも開催し、ネットでも参加OKということだったが意外に参加者が集まったという。いつでもどこでも安全に仕事ができる環境を生み出すことは、いつでもどこでも安心安全なネット環境のもとで学習ができることに繋がる。
ここではスタートアップウィークエンドが開催されもう3回目となった。ここでイノベーションを生み出したい!という浦社長の意気込みは、会社の展望の可能性を大きく感じ取ることができた。

教育連載コラム―未来への戦略-

「きのくにICT教育」の取り組み【前編】ープログラミング教育必修化に先駆ける和歌山県

2018年5月に、和歌山県の仁坂吉伸(にさか よしのぶ)知事が記者会見を行った。仁坂知事は、文部科学省の新学習指導要領を先取りし、和歌山県内の小学校・中学校・高校で、系統的にICT教育を行っていくと述べた。
具体的には2019年度から、なんと、和歌山県内すべての公立小・中・高で、独自のカリキュラムと学習内容に基づくプログラミング教育を始めるというものだった。
読者の皆さんもご存じのように、日本では2020年度よりプログラミング教育が必修化されるが、それよりも1年早いスタートということになる。
また、児童・生徒がより高度な技術を学べるよう、県内のICT企業と連携するとのこと。例えば、中学校・高校のクラブ活動に県内企業の技術者を講師として呼んだり、ICT指導員を派遣したりといったことも計画として含まれている。
仁坂知事は強いリーダーシップを発揮し、このICT教育に関する計画のため、県の予算約1億8,100万円を計上した。また、全国からアドバイザーを集めた。
筆者は光栄なことに、2018年度から「和歌山県ICT教育アドバイザー」に就任させていただき、各種会議への参加や、実際の現場である授業の視察などを行っている。
今回はその内容をご報告したい。
ICT教育アドバイザーや県内のIT企業、教育委員会などが集まった会議の場では、和歌山県が抱えている課題が提示された。例えば、“少子高齢化” や “人材不足” である。
和歌山県はこのような課題の解決を進めるために、専門的な知識・技術の習得を支援し、将来、IT分野でリーダーとなり得るような人材を輩出することを目指している。
筆者は、このような課題は他県にもあるため転用できると感じた。

この和歌山県の取り組みは「きのくにICT教育」と名づけられている。
他県に先駆け、コンピュータ等の情報機器の操作・活用方法の習得や、プログラミング的思考の育成を体系的に行い、発達段階に沿って教育のカリキュラムを開発し、実践を行うだけではなく、教員研修も行うという目標を掲げている。
「きのくにICT教育」では、
「身近な生活の中でコンピュータが使われるようになった今、子供たちがその仕組みを知り、使うことが大切である。コンピュータを活用する能力が求められる社会において、プログラミング教育に取り組む必要があるのは自明の理。やるべきことにはすぐ積極的に取り組み、子供の能力・可能性を引き出す」
ということが語られている。

仁坂知事が述べたように、2019年度から県内の公立小・中・高全校でICT教育が行われるが、それより前の2018年度においては、まずモデル校6校で授業案を検証することになった。
和歌山県の取り組みは後編でも紹介する。

【ICT教育の様子:串本町立潮岬小学校】

【ICT教育の様子:有田市立保田中学校】

公開資料
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/501100/ictforum.html
https://www.pref.wakayama.lg.jp/bcms/chiji/press/300522/300522_2.pdf

教育連載コラム―未来への戦略-

花火とプログラミング【後編】- IoTで変化した花火師たちのフューチャースキル

前回の記事に引き続き「花火とプログラミング」について、新潟県小千谷市片貝町にある有限会社片貝煙火工業さんに取材した内容をお届けしたい。

次に、花火師の松葉大作さんにインタビューを行った。松葉さんは鳥取県出身で花火師を目指して東京に勤務しながら、なんと全国の花火大会を2年間回った結果、「片貝の花火が一番だったのでここに住みたい」と決めたという。
「ちょうど大曲花火大会のプログラミングを終えたので見てください」と言って、打ち上げ花火用の「ファイヤーワークスシミュレーション( FWsim)」というソフトを見せてくださった。筆者は音楽と映像を観ながら、これが大曲の花火大会であがるのかと思うとわくわくした。ちなみに、片貝煙火工業さんが使われているものはこれとは違う国内のソフトで、プログラムをメインの機器に転送するために特別開発されたものだそうだ。

最後に、小学校からパソコンを使うことについてどう感じているのかを聞くと、松葉さんは
「パソコン、私は触らせた方が良いと思ってます。自分が中学生の時に、学校にあったパソコンのタイピングゲームに夢中になり、休み時間によくやっていたのを思い出します。そのお陰?か今でもタッチタイピングは体が覚えているようで、工場でお見せしたパソコンでの仕事もはかどっております。」と言う。

さて、花火師になりたいと鳥取から出てきた松葉さん。まさか毎日コンピュータの前でプログラミングをすることは想定していなかったことだろう。筆者もIoT時代の花火師たちとプログラミングとの関係について取材し、花火師であってもコンピュータを使いこなすフューチャースキルが求められる時代となっていると感じた。