教育連載コラム―未来への戦略-

新型コロナウイルスによるICT教育格差への対応 – クイーンズランド州におけるオンライン教育の事例

新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の影響で、世界で14億人以上の子どもたちが学校に通えない! 3月16日の時点で56ヵ国が休校やそれに準じる措置を取っているが、それがあっという間に157ヵ国となった。これは先月の国連の定例記者会見で出された時点であるが、まだ増えるだろう。実際アメリカではほとんどの州がなんらかの休校措置を取っている。[1]
東京都も都立学校を大型連休明けまで休校することを決定した。学校も新型コロナウイルスとの長い戦いが始まった。[2]
今後は教育を受ける権利のある子どもたちの学習環境をどう担保するかが重要だ。その対策によってはオンライン教育におけるICT教育格差が懸念される。

クイーンズランド州の生徒たちのオンライン教育事例
オーストラリアは州によって休校措置の対応が異なるが、筆者が何回か調査に訪れたクイーンズランド州でも、学校休校に向け舵を取った。ただ完全なクローズではなく、学校に行きたい児童・生徒がいれば受け入れている。
前回のこの記事の続きとして、オーストラリアのクイーンズランド州在住の生徒たちのインタビューから、学校における新型コロナウイルスの学習対策を見ていく。

事例1:高校1年生 ミリーさん
最初のインタビューは、ミリーさん。10年生(高校1年生[3])だ。保護者は、「休校になった時はやはり感染のことも心配だしホッとしました」と言った。
高1のための推奨スケジュールがあるため、休校になっても朝起きて、ほとんどの生徒が決められたスケジュール通りに行動している。毎朝、各教科の先生から、スクールウェブサイトにメッセージがあるそうだ。

ブリスベン・ガールズ・グラマー・スクールのウェブサイト。右上にミリーさんの写真もあり、おはようミリーさんと書かれている(学校から許可済)


この日は校長先生からのビデオメッセージがあった。この画面の上の「Remote Learning」のところが、クリックして休校時に家で勉強する場所。保護者専用のページもあって、成績表はそこから親がダウンロードする。
ミリーさんは毎日スクールウェブサイトにログインする(写真参照)。その中にフォルダーがあり、ワークシートに取り組んで、書いたものをスクリーンショットをし、宿題のプリントをメールで送る。動画を撮影してのせている先生もいる。通常授業さながらに、黒板の前に立っていつもと同じように授業をする先生もいる。

この学校にはハウスと呼ばれる学年を超えたクラス編成もあり、そこではインスタグラムで動画を流して情報をやりとりする先生もいるという。
ミリーさんは、
「ちょっと困るのは化学の実験です。実験ができないので、すでにあるデータを使ってやるしかありません。先生が実験している様子を動画で見せてくれるけど、家にいると自分で実験ができないので。」
困ったこともあるという。
「宿題を出さないと、先生から連絡が来ます。先生はウェブサイトにアップロードされている課題をダウンロードしたかどうかチェックしているんです。もちろん、課題をやっていないと新学期は授業についていけないので、先生としては普段と変わらないように気配りしているんですよね。カウンセリングで心の相談をネット上で受けられるようにもなっています。」

インタビューに答えてくれたミリーさんとお父さん(2020年3月29日日本から筆者撮影)


ここクイーンズランド州では、全ての教科で毎日パソコンを使っているので1人1台のパソコンを所有しているという。教科書も全てクラウド上にあるのでパソコンだけを持っていくスタイルだ。ミリーさんは、「自分がまだ産まれていなかったSARSの時にもクイーンズランド州では休校措置となったそう。当時から働いている教師によれば、その時に比べれば今はテクノロジーが発達し、すごく色々なことができるという話だった」とのことだった。
先生方が色々と工夫できるチャンスだ。
最後に心配なことはありますか、と聞くと
「この状態はおそらく半年くらいは続くのではないかと思っています。最悪なのは学年のやり直しになってしまうのではということ。まさかそれはないと思っていますが。授業も色々な方法でやるのだと思います、例えば先生方はZoomなんかも検討しているみたいですよ」
と述べている。

事例2:高校2年生のチェリーさん、中学2年生のルィーズさん
次は、レッドクリフステイトスクールに通っている可愛い姉妹、チェリーさんとルィーズさん。姉のチェリーさんは11年生(日本だと高2)で、妹のルィーズさんは8年生(日本だと中2)だ。

チェリーさん、ルィーズさん姉妹


2人は公立の学校[4]に徒歩8分ほどで通学している。3年前まで3年間、日本に居たことがあるという。チェリーさんとルィーズさんはその時小学生だったが、帰国してから生活は激変したという。
ルィーズさんの通学カバンの中身は毎日、お母さんの作ってくれたお弁当と水だけ。紙の教科書は持ち帰りが禁止だからだ。

一方、お姉さんのチェリーさんは帰国後すぐに、学校に指定された範囲のパソコンを家庭で購入した。タブレット端末は禁止。ノートパソコンで、ある程度のスペックの指定がある。
チェリーさんは「教科書が無いかわりにパソコンが重たい。オーストラリアではどこの学校でもWi-Fiがあるので授業は基本、パソコンを開いて教科書を見たり資料をダウンロードしたりして行う。毎日、毎時間使うのでICT教育が前提なんです」という。学校では数学など週1程度のミニテストもパソコンで行うとのこと。
急なICT教育にシフトして大変だったのか聞くと
「何も変わらないですよ。家にいても、パソコンを使ってリアルタイムな時間にオンラインで学習しなければならないし。そうでなければ授業についていけないです。」とのこと。

学校は休校とはいえ、行きたい場合は行ってもよいそうで、ルィーズさんも休校となってから1週間ほど行っていた。一方、お姉さんのチェリーさんはそもそも試験期間だったので、休校になる前から試験科目のためだけに学校に行っていた。
「オンライン授業に切り替わったタイミングで、これは学校でなくても大丈夫だな、と思って自宅学習に切り替えた。」という。しかし、日本のように宿題が多くないので最近は暇になってきたという。

お母さんへのインタビュー
2人のお母さんにもインタビューした。
「家では集中できないから無理かなと思ったんですよね。でも学ぶ時間にきちんと学べるのは嬉しいです。朝、『学校始まるよ』といって、学校の始業時間と同時に自宅の椅子に着席しているようです。時間通りに、その時間中は座っていないとならなくて、チェックされます。そうでないと無効になる厳しさなんですよ。後からリカバリーすることはできないので。時間通りに起きて着席しなければならないのは大変ですね。
ただ、休校になっても学校に行ってもOKというのは良いですね。学校側としては、学校に来ない生徒もしっかりと、オンラインで出されている科目の宿題に取り組むようにと言っています。
学校のウェブサイトからログインするので、出席は授業開始時間に先生がチェックするだけだけれど、娘たちはちゃんと最後までオンラインで参加し学習しています。でも、友達がちゃんと最後まで受けているのかわからないですね。もちろん出席はちゃんとチェックするし、送られてきた課題を提出してもチェックはされるけれど科目によってまちまちです。
やることは何にもないから、続けてやってくれるのは、有難い。結局、母としては行ってほしかったけれども、課題は先までどんどんやってもよいとのことだったし、オンラインでやってもらってよかった。」
三者面談のことをペアレントインタビューと言い、実際には子どもは参加してもしなくても、どちらでもよいそうだ。クラウド上のデータを見て、オンラインで自分の子どもと全体の成績を比較してアドバイスを受ける。担任でなくどの教科の先生とも面談でき、面談の予約は全てネット上でできるという。
ICT教育の唯一の問題点は、授業中にバッテリーが足りないと大変なことになる点だ、とのことだった。お母さんは最後に、日本の給食のことを栄養バランスが整っていると褒めてくださった。

事例3:高校2年生 トレヴァー君
最後に、11年生(日本でいうところの高校2年生)のトレヴァー君にインタビューした。毎日クイーンズランド州レッドクリフ半島の北側から自転車で15分以上かけて私立の男女共学の高校[5]に通っている。
入学時に学校指定のパソコンが支給され、これは授業料の中に含まれているという。日常的に生徒用のポータルにログインし勉強をしている。しかしゲームをするスペックではないので、自宅にも自分専用のパソコンを持っている。

「宿題はWord文書で全て書く。そしてTeams[6]を使ってやりとりしている。クラウド上のポータルから宿題をダウンロードして学習している」という。]

学校支給のパソコン。タッチパネルとしても使うことができる


「正直、最初休校と聞いた時には嬉しかった。こちらではイースターに合わせた休みがあと1週間ほどで始まるので、ちょっと休みが早くなって良かったな~って感じました。」という。
「宿題もメールで来るし、課題もクラウド上のポータルにあるから毎日見ています。その授業時間中にダウンロードしないと先生がチェックするし、課題がその時間内に終わらなければまたチェックされる。だから別に学校が休みでも大丈夫と思った。友人とのやりとりは主にゲームソフトでコミュニケーションが取れているので。」と言う。

インスタグラムやツイッターはしていない。しかし1日中ずーっと家にいるとだんだん心境に変化が起きてきたという。
「友人と一緒にバスケットとかできなくて、運動不足を感じてきました。早く学校が始まって欲しい。」とのこと。今は運動不足解消のため家の周りで軽いジョギングをしているという。
最後に、インタビューに応じてくれた生徒たちは、たとえオンライン学習に切り替わっても、学校で日常的にICT教育が行われていれば抵抗が少ないことがわかる。もちろん、ただオンラインにするだけでなく先生のサポートも大事だ。
まだICT教育に切り替わっていない学校は、例えば、学校のホームページなどを活用し色々な形で学習を担保する必要があると感じた。
日々変わる状況、公式の最新情報を
状況は日々更新される。今後、クイーンズランド州独自の学校含む措置が実施されることが予想されるため、ウェブサイト(州保健省コロナウイルス特設ホームページ)や報道等から最新の情報[7]を参考にすることが望ましい。
文部科学省のガイドラインはこちら(2020年4月1日)

文部科学省「Ⅱ.新型コロナウイルス感染症に対応した臨時休業の実施に関するガイドライン」の改訂について(通知)
https://www.mext.go.jp/content/20200401-mxt_kouhou02-000004520_03.pdf
参考サイト
[1]https://www.edweek.org/ew/section/multimedia/map-coronavirus-and-school-closures.html
[2]https://www.jiji.com/jc/article?k=2020040101098 (現在は掲載終了)
[3]ブリスベンガールズグラマースクール
https://www.bggs.qld.edu.au/
[4] https://redcliffeshs.eq.edu.au/
[5]Southern Cross Catholic College
https://sccc.qld.edu.au/
[6] Teams:Microsoftのグループチャットソフトウェア。日本でも一部の高校や高専で使われている。
https://products.office.com/ja-jp/microsoft-teams/group-chat-software
[7]https://www.qld.gov.au/health/conditions/health-alerts/coronavirus-covid-19