教育連載コラム―未来への戦略-

新型コロナウイルスで「オンライン学習格差」が広がる!

新型コロナウイルス(COVID-19)の流行が止まらない。WHO(世界保健機関)からはパンデミックの状態になっているというコメントも出た。日本も感染者数が増えている状態で、企業からはテレワーク、リモートワークという言葉が聞かれ、時差出勤が行われている会社もある。
学校では政府の急な休校要請により、各方面で混乱が起こっている。聞くところ、1人1人に電話をかけ対応している先生方もいるという。1人10分程度としても1クラス30人も居れば、昼間の時間をほとんど費やしてしまう仕事となってしまう。
ところで、既に日本はGIGAスクール構想[1]が1人1台の方針[2]を基に出されている。これに伴い、都道府県単位での調達で端末が導入可能となっている。そもそもこれに沿って速やかに1人1台が実現していたら、休校になっても先生が電話を慌ててかけずに良かった場面もあるかもしれないと思うと、筆者としては悔やまれる。子どもたちの方も、動画でやりとりができればとても嬉しいことだろう。今はそういった時代だ。既に1人1台の自治体もあるが実際にはなかなか進んでいない自治体が多い。
筆者が調査を行ったオーストラリアのクイーンズランド州では、新型コロナウイルス対策として学校の急遽閉鎖があるかもしれないという段階から、オンライン学習になることも想定し、「授業で使っているパソコンを毎日自宅に持ち帰るように」と指示がある高校もあった。小学生の時から1人1台学校の授業で日常的に使っているからできる措置だ。
その後、州政府は数か月の学校閉鎖もあり得ることを示唆している[3]。準備できている学校では休校措置はせずともオンラインで授業をすることができるのだ。しかし1人1台が可能である環境とはいえ、都市部と地方、私立と公立の間でのオンライン学習格差はクイーンズランド州でもまだある。
例えば、大学や私立高校は、時間表通りにリアルタイムで授業を行うことができる一方で、公立の学校では残念ながら、教師がビデオをアップロードするだけ、あるいは、単に宿題をメールで送るだけという学校も出てくる可能性がある。クイーンズランド州は、幼稚園の年少の年齢からタブレット端末を使っているほどICT教育が進んでいる地域だが、このような地域でもオンライン学習格差が起こっているのである。

中国は新型コロナウイルス対策で小学校の授業を国営テレビチャンネルで放送し、中高生は、オンライン学習のプラットフォームを使うという。また、バイドゥとアリババは5000万人に授業を行うことを可能にしたという報道もあった。
フランスでも小中高大学まで全てが休校になったが、いち早く政府がオンライン授業をスタートすると述べ、その速さに近隣諸国が驚いた。モロッコでも同じような政府の動きがある。アメリカはもともと州によっては飛び級の教科は遠隔でかまわないという所もあり、自治体や民間レベルで小学校でもオンライン講座が進んでいる。

さて、アメリカの大学の事例でいえば、ハーバード大学とMITはこのコロナ対策で授業はオンライン講義になった[4]ということだ。これらの大学の事例としても、そもそも毎回の授業を動画でアップしている先生はとても多かったという背景がある。先生によっては授業の前にあらかじめ学生に視聴してもらう反転授業(flipped classroom)もある。

MITにある100ドルパソコン(リーズナブルなICT教育を提供できる)


私が調査を始めた10年前ほどからハーバード大学では9割の先生がプリント類、中には授業の動画等を大学のクラウドにあげていて、一般に開放されていない学生IDとパスワードがあればアクセスできる。もちろん中にはMOOCのように一般の人でも自由に視聴できるオンライン講座もある。10年前は、1割弱のハーバード大学の先生がオンラインで自分の授業を公開することに難色を示しているようだ、と学生たちが話をしていた。
しかし10年経ち、今ではこのような新型コロナ対策でわかるように全ての授業が公開されるようになったのである。ここまで急に変化するのではなくそこに向かうプロセスがあったのだ。

公共図書館でPCを使う人々


日本でも、文部科学省は小学生に向けた学習支援コンテンツを公表している[5]。また、自治体でも色々と休校でも学習できるサイトを用意している。東京都の教育委員会はベーシックドリルを提供している[6]。
一方、民間では、GoogleがGoogle for Educationという遠隔学習支援プログラムを持っている。この特徴は児童生徒だけでなく、先生も学ぶことができるという点である[7]。

こういった緊急事態には「あらかじめその環境を作っておく」というのが功を奏する。災害の多い国であるからこそ色々なものを使いこなせることが必要である。児童生徒はもちろんのこと、先生も、すぐに対応することは困難だ。一方で、2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されるが、アンプラグドでパソコンに触らずにいる状態を続けるわけにはいかない。
感染病だけでなく、温暖化の影響で災害の多いこれからの時代は「生き延びる力」が必要であるとOECDではEdication2030(OECD)[8]の概念を出している。21世紀型スキルの上をいくこの「生き延びる力」をつけるためにもオンライン学習が無くては諸外国に遅れを取りかねないだろう。

学校のオンライン学習において、教育機会をいかに平等に提供するかは課題だろう。1人1台の環境で学習することが可能な環境であれば、学校からの配信も可能で、必要があれば家庭でプリントアウトしたりスクリーンショットを取ったりすることもできる。家にいれば時間割もなく生活の乱れも起こりがちだが、先生とネットで繋がっていれば勉強だけでなく体操をしたりと、子どもたちの生活習慣を改善したりする一助にもなるだろう。
オンラインで繋がることができれば体調が悪くても他の人への感染を恐れずに授業を受けることができる。導入していない自治体があれば、このような事態がある時には一気にオンライン学習格差が起こるだろう。

参考サイト
[1] GIGAスクール構想の実現について:文部科学省
(URL: https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm)
[2] 文部科学大臣からのメッセージ(GIGAスクール構想の実現について)
(PDF: https://www.mext.go.jp/content/20191225-mxt_syoto01_000003278_03.pdf)
[3] Queensland schools weigh months-long closures, reduced lessons
(URL: https://www.brisbanetimes.com.au/national/queensland/queensland-schools-weigh-months-long-closures-reduced-lessons-20200315-p54abr.html)
[4] MIT Tech Review: ハーバード大学とMITもオンライン講義に、新型コロナ対策で
(URL: https://www.technologyreview.jp/nl/harvard-tells-students-not-to-return-from-spring-break/)
[5]高等学校における学習支援コンテンツ(令和2年3月11日時点):文部科学省
(URL: https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/mext_00461.html#zyouhou)
[6]自治体でも東京都の教育委員会には、ベーシックドリルを提供するこのようなサイトがある。
東京ベーシック・ドリル(電子版)/PDF版目次|東京都教育委員会ホームページ
(URL: https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/study_material/improvement/tokyo_basic_drill/about.html)
[7]遠隔学習支援プログラムウェブサイト | Google for Education
(URL: https://edu.google.com/intl/ja/distance-learning/)
[8] OECD教育2030を公表 “生き延びる力”とは|KKS Web:教育家庭新聞ニュース|教育家庭新聞社
(URL: https://www.kknews.co.jp/post_ict/20180305_1b)