教育連載コラム―未来への戦略-

新型コロナウイルス対応にみるデンマークのオンライン授業

新型コロナウィルスにより、休校が増えた日本ではオンライン授業について早急な対応に追われている学校も少なくない。デンマークでも新型コロナウイルスの感染拡大によりロックダウンが行われた。その後、一ヶ月ぶりの4月15日に学校が再開し、小学生たちの学校に通う姿が見られた。

デンマークの街並み


筆者が何回か訪れたデンマークでお世話になり、ともに国際大学GLOCOMの客員研究員であり、現在、ロスキレ大学の准教授の安岡美佳さんにインタビューを行った。
安岡さんは小学校1年生と5年生のお母さまでもあり、北欧研究所の所長もしている。

インフラがあったからオンライン教育がすぐにできた
筆者が数年前に訪れたデンマークの学校は、どこも無線LANがありICT教育が当たり前のように行われていた。今回ロックダウンした時の対応はどんな感じだったのだろうか。
安岡さんによると
「ロックダウンが始まった3月16日には、小学校5年生と1年生のところに、担任教師から自宅学習指示のメールが届きました。もともと学校と父母、担任と生徒のやりとりは全てデジタルです。デンマーク国内全ての小学生、特に3年生以上は全員、毎日、自分でIDとパスワードでログインし、1日の授業のスケジュールを見たり宿題を確認します。
今の5年生の娘のクラスでは、基本的な先生の指示はGoogleドライブで共有され、提出もオンラインです。また、日々の授業でも、カーンアカデミーや民間のデジタル教材やオンライン教材を使っています。つまり、そもそも30%のオンラインであった授業が、このロックダウンで100%になったということ。インフラがあったから、家でもオンライン学習がすぐに始められたんですよね。」
とのこと。

オンラインでもアクティブラーニングの概念を入れる
安岡さんは
「デンマークは基本的に普段から授業はアクティブラーニングで行われます。日本でやっているような一斉授業で、先生の話にペースを合わせてということは行いません。個人の興味や力量に合わせてグループワークをする授業方法が一般的なんです。
例えばカーンアカデミーなどを使っていて、すごく進んでいる児童もいます。おおざっぱに、4月・5月はこれをやりなさい、という内容が出されます。なので、すごく進んでいる児童もいます。例えば小学校5年生ですでに中学生の数学をやっている人もいます。もちろん、わからないというと先生のところに行って聞くこともできます。」
「例えば教室では、先生が授業をしているところに、聞いているのはたった5人だけれども、後ろの方では進度が同じくらいの子どもたちが数学の協働学習をしているグループが2、3あったりします。で、よくみると、別の先生1人と児童1人が教室の隅っこで授業をしたりしているんです。」
という。

筆者もデンマーク郊外の学校に行って授業を見学したことを思い出した。数年前から宿題もSNSを使って友人と全てネット上でやりとりしながら協働学習をしていたのだった。
安岡さんは、このようにオンラインでもアクティブラーニングの概念を入れることの重要性について述べているが、その方法の1つとしてPBL(プロジェクトベースドラーニング)の概念も踏まえたエッセイも書いている。

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参考: 2.ロスキレ大学PPLとオールボー大学PBL
https://note.com/happinesstech/n/ndb59d7c12a78

デンマークの子どもたち


21世紀型の教育観
「基本成績はつけないんです。中学校くらいのレベルでの卒業試験はありますけど、その内容も暗記をすればよいというものではなく、勉強のやり方を知っていればできる内容の試験です。例えば、捕鯨について調べ考え、主張を論理的に構成して、プレゼンする。そもそもそれが21世紀型スキルですよね。
もちろん、記憶学習を完全に否定するわけではありません。子どもの頃はけっこう記憶力があるので暗記は基礎学力向上に役立つと思っています。ただ、デンマークの人たちが新型コロナウイルスに対応しやすいのは、自分で考える力、変化への対応力が身についているのかもしれません。今の社会で必要な能力の向上に教育が貢献していると思います。」
と述べていた。
ロックダウン前の対応も柔軟だった。筆者が訪れた時に、テスト時にトイレに行ってもスマートフォンを持っていても良いというのに驚いた。
試験内容はどのサイトをみたらよいかを調べておけばよく、研究計画書を書くような内容であった。

「デンマークで初めて感染者が見つかったのが2月27日だったと思うのですが、それまでは、日本のクルーズの話も少し出ていた程度で対岸の火事。政府の手洗いをしましょうという広報が2月27日にようやく出ました。
しかしその後、3月11日に翌週16日月曜日からの、教育機関・公共機関の閉鎖が決まったのですが、児童は12日、13日までは来ても良いということになりました。つまり、いきなりロックダウンというのはなく、11日から次の月曜日の16日まで、猶予期間というか準備期間があったんです。
親も月曜日から家で仕事ができる環境を整える時間になり、また、先生がオンライン学習の準備をする時間となりました。」
とのことだった。
いきなり休校というのではなく、先生方の準備も考えた対策だったということがわかった。
ところで数年前にデンマークでは現金でバスに乗れないほどITが進んでいるという印象が筆者にはあった。
また、この記事( https://japan-indepth.jp/?p=39047 )にもあるように、デンマークではスマートフォンを扱う高齢者を見ることが少なくないと書いてあるのだが。

「はい、デンマークは1960年代からオフィスのオンライン化にともない、女性の進出が図られました。特にオフィス事務やコンピュータなどの分野です。なのでその時代にオフィスにいた女性が今、高齢となってもICTやスマートフォンを使いこなしているのではと思います。」
酪農国といったイメージとは逆のスマート社会のデンマーク。
安岡さんは最後に一言
「教育が何よりも重要です。その国の基本的な国民の能力に関わることなので」
と語った。
まさに困難になった時でも色々な能力を醸成していけば何事にも対応できるのだと思った。

オンライン授業の配信では、どうしても一斉授業で自分の知識を伝えねば、と思いがちだが、安岡さんはアクティブラーニングの概念を持ちつつオンラインでもできる方法があると言う。目から鱗だった( URL:https://note.com/happinesstech )。
筆者がデンマークに訪れた際、デザインという概念が日本と大きく違うことを学んだ。文化的には日本と違う観点は少なくない。デンマークについての詳細についても安岡さんは紹介している。

安岡美佳 氏
Mika Yasuoka-Jensen
Associate Professor
Roskilde University
ロスキレ大学アソシエイトプロフェッサー、北欧研究所代表
慶應大学で図書館情報学学士を取得後、京都大学大学院情報学研究科にて社会情報学を専攻し修士号を取得。東京大学工学系研究科先端学際工学博士課程を経て、コペンハーゲンIT大学より博士号を取得。京都大学大学院情報学研究科Global COE研究員などを経て現職。現在は「情報システムのための参加型デザイン」への関心から派生し、北欧のデザイン全般、社会構造や人生観、政治形態にも関心を持ち、参加型デザインから北欧を研究。また、近年は、参加型デザインから派生したイノベーションが生まれる場「リビングラボ」の研究、人を幸せにするテクノロジの研究を実施している。