教育連載コラム―未来への戦略-

VRで価値を可視化する-記憶を紡ぎ復興に生かすICT【前編】

今回は沖縄の「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」を発起人として仕掛けて構築し、デンソーITラボラトリーのシニアリサーチャーであり東京工業大学特任准教授として研究室や授業も受け持つ、川上 玲 (かわかみ れい)さんにインタビューを行った。


みんなの首里城デジタル復元プロジェクト | Shuri Castle Digital Reconstruction
https://www.our-shurijo.org/


このプロジェクトは色々な場所で話題となり、テレビでも放映され、今もなお反響が続いている。(下記の番組はNHK Worldで放送されたもの。英語の番組ではあるが、プロジェクトに協力した方々の肉声は日本語でお聞きいただける。)


– Shuri Castle: Rebirth in 3D | NHK WORLD-JAPAN On Demand
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/ondemand/video/3004690/ (※現在は公開終了)


作られた首里城の3次元モデルは中高生による首里城ガイドで使われているそうだ(下記)。


【事例インタビュー】焼失した首里城をVRで復元。修学旅行生向けVRガイドまでの軌跡 〜興南アクト部〜 | ハコスコ
https://hacosco.com/blog/konan_act-vrguide/

上松:川上さんとは情報処理学会の編集委員会の会議でご一緒させていただいていますね。確か、コロナ前は化学会館から東京大学やラボへ移動され、2人のお子様のお母さまでもあり、公私ともにお忙しく活躍されていらっしゃるご様子でしたね。「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」はそういった中でのビッグな素晴らしいプロジェクトですが、色々と大変だったのではと思います。

川上:この首里城が消失したニュースを知ったのは、韓国で開催された国際会議に参加していた時でした。国際会議ではワークショップをオーガナイズしたりメイン会議に参加したりしていて、その時にスマートフォンのニュースで知りました。その後、空港に向かうために地下鉄に乗っている際に改めてゆっくりその状況を知り、とても驚きました。さらに、地元の子どもたちがショックを受け、朝食が食べられないとか登校できないということもあったと知りました。
この年の11月は子どもも小さく手がかかっている時期で、私自身がすごく多くの方に助けてもらいながら生活していた時期でもありました。自分自身、国費で優遇され国際学会に行った身でありながら、一方でこんなに苦しんでいる子どもに何もできないということで心を痛めていました。そこで何かできないのかな、と思っていたんです。
国際会議で私がオーガナイズしていたワークショップはたまたま文化財の保存に関するものでした。また、メイン会場では2009年に発表された写真から3次元復元をする論文が10年賞をとっていました。
その時は、すばらしい論文だったな、ということを思い出して眺めていただけだったのですが、帰国後に「これを使って、色々な人から写真を頂いて3次元モデルを構築したら、地元の方に少しは役立つのかな」と思ったのがきっかけでした。

上松:なんだか感動して泣けてくるエピソードです。金浦空港への移動の時間にそのようなことを考えられていたとは。私も海外に行くとそういったインスピレーションが働く時がありますね。
ちなみに韓国では政府機関が主催するカンファレンスで招待講演をさせてもらったり、国際カンファレンスに参加したこともあり優遇されたのでそういった気持ちはわかります。20年前に査読が通って発表した初めての海外発表は韓国でした。それは自腹でしたが。そういった時に何気なく見た発表や論文がアイデアに結びつくことがありました。しかし川上さんはそれを実現されたんですね。

川上:普通は現地に行って、ドローンを飛ばしたり、あるいは地上から4Kのビデオなどで撮影したりして、構造物の復元をやるんですね。そういったテクニックはかなり確立されているので、それで美しいものを再現しても、私がやる意味はあまりないなと思ったんですよね。
色々な人から集めたデータは、人間らしさとか手あかのついた記憶のコレクション。つまり、1人1人の記憶を集めることに価値がありそうだと思って、やっている面もあるんです。

インタビュー後編では、「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」の反響と、プロジェクトを通して得た気づき、ICTの活用と未来についてお届けします。

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GIGAスクール構想で変わる授業の形-アウトプット型の学びと教員の役割とは

GIGAスクール構想により子どもたちがPCやタブレット端末を1人1台持つという時代になり、これからデジタル教科書が使われることになる。今後、全ての教科書はPDF化し、デジタル教科書のコンテンツも揃ってくる。そして、それらを支えるクラウドプラットフォームの話も出てくるだろう。
今回は、7年前に古河市のICT機器環境を整えた立役者、平井 聡一郎先生に機器整備からデジタル教科書の活用までについて話を伺った。

デジタル教科書の問題
上松:先生が関わった古河市の事例ですが、その当時はICT機器整備がまだ一般的ではなかったですから大変だったのではと感じますが、いかがでしたか?
平井:そうですね。まず、あの時はセルラータイプのタブレットの大規模導入というのが日本で初めてのことだったので、色々とクリアしなければならないことが多く、メーカーやベンダーとの交渉が大変でした。でもおかげで1人1台ずつ端末を使える環境や、クラウドプラットフォームのモデルも構築することができました。これが、今のGIGAスクール構想のベースになっています。
上松:では、そういった知見を踏まえて何か、今後のデジタル教科書の導入に向けての問題はありますでしょうか。
平井:これからは、通信環境が課題になると思います。なぜなら、デジタル教科書はクラウドベースで運用されますからね。
今回、GIGAスクール構想により各学校にWi-Fiが整備されることになりました。デジタル教科書を家庭でも活用するとなると、端末の自宅への持ち帰りが必須となり、LTEが注目されるでしょう。LTE対応の端末であれば、学校でも家でも、場所を問わず使えます。例えば図書館でも大丈夫ですね。
しかしWi-Fiの場合、設備のない家庭もある。また、日本はまだまだ公共Wi-Fiの整備が遅れています。そうなるとモバイルルーターを使用することとなり、管理面での問題が出てきます。
また、学校から外への回線が脆弱なため、校内は万全でも結局は繋がりづらい、という学校も出てくることが懸念されています。活用という本筋の点でも、先進校はともかく、普通の学校ではどう活用していくかのイメージが持てていないのが現状でしょう。
上松:先生方からは、1人1台の端末をどう授業で使ったらよいかわからないという声もありますよね。
平井:それは自治体や教育委員会の問題ですね。国は方向性の大枠は示しています。それを地域の実態や機器環境に応じて現場に落とし込むことが必要です。現状では活用を見据えた導入計画がない、つまり、なんのために使うかというビジョンのない導入計画だったということです。
結局ICT機器導入は、授業を変えるためのきっかけにすぎません。つまり、これまでの教師主導の教授型の授業から、学習者主体でアウトプットを目指す授業に変えていくことが必要になります。そのためにICT機器や授業を支援するアプリが必要になるわけです。

GIGAスクール構想は機器整備が目的ではなく、新学習指導要領による授業改革を実現するための環境整備であるということを、教育委員会や学校が認識することが重要となります。

先生はあくまで能動的な学習のサポートをする立場に
上松:デバイスは調べ学習などにしか使えない、という声も聞きます。
平井:そもそも「調べ学習」という言葉がよくないですね。だって調べ学習では目的が見えません。何が目的なのか明確に示されないから、単に調べることが目標になってしまうことが一番良くないと思います。つまり対面による学びは、先生が教え込むという一方通行の授業から、探求型に転換していくということです。
もちろん、アウトプットの垂れ流しも同様に良くないと思います。垂れ流しの象徴が「はい拍手!」です。これを条件反射的に言わせている授業を見ることがあります。また、「いいですか?」、「いいです!」と一斉に言わせたりというのも同じですね。以前、答えが間違っているのに気づかず「いいです!」と一斉に言わせた先生がいて驚きました。授業を管理したがる先生にこういった傾向はあります。先生はファシリテーターであり、子どもの後ろから学習をサポートするようにしないと。
授業を見ていると、先生と発表する子どもとが1対1で対話しているような授業もあります。これではダメなんです。子どもたち同士でやりとりしないといけないですね。発表というアウトプットの後には、他の子どものフィードバックが必要です。誰かのフィードバックはアウトプットした子にとってはインプットになります。こうなると対話的な学びというのは、先生が黒板の前に立ってしゃべってるだけではできませんね。

平井:そもそも黒板の前は、子どもたちがアウトプットするステージなんです。ですから、そこには教卓とか先生の机とかいらないですね。酷い学校だと教卓の脇が先生の荷物置き場になっていることがあります。それから、窓際の前に先生の机があるのは邪魔になりますね。そこには電子黒板を置いて欲しいです。外からの光が画面に反射しづらいので、そこは電子黒板の定位置。そこから自由に動かせばいいんです。となると先生の机は後ろで十分、子どもたちが前に行かないとね。
上松:シンガポールで見た授業で、先生が教室の後ろにいて学習の様子を見守っているという光景が思い出されました。児童生徒が対話的になることを阻止せず、考えさせることが授業の中心になっていましたね。学習者同士で問題解決をしている様子が印象に残っています。他の国ではどうでしょうか?

平井:インドも行ってきたんですよ。ベンガルール。アガスティアという理数系の民間の研修センターに行ったんですが、そこに面白いポスターが貼ってありました。教師主導からの脱却って万国共通の課題なんだなあって思いました(笑)。
日本だけじゃないんです。だから、日本はだめだなんて悲観することはないんです。世界中の先生と一緒になって教育改革に取り組むんだって気持ちが大切です。確かに北欧は進んでいますが、日本より改革のスタートがちょっと早かっただけです(2、30年くらい)。でも、日本はGIGAスクール構想でICT機器環境が一躍トップクラスに躍り出ました。もともと優秀な日本の先生が、凄い武器を手に入れたんです。これは日本復活ですよ!

インド、民間研修センターのポスター

上松:学校では、わかっている漢字も練習させる場合もありますよね。できている計算を繰り返しやってたりもします。こんなことやってるなら本でも読んでた方がいいですよね。
平井:そこが学びの多様化だと思います。今回の中教審答申でも、「個別化」と「個性化」って示されてます。「一律の学び」からの転換期なんでしょうね。だからこその授業づくりです。
まさに毎日が研究授業ですよ。子どもたちにとってはかけがえのない1時間というけれども、先生にとってもかけがえのない授業なんです。できなかったことができるようになったり、わからなかったことがわかるようになったり、本来授業というものは楽しいものなんです。
対面の授業で、対面でやれるものに絞りこみ、習熟系のものは家で前の日にやっておいて、次の日に課題の探究をすればよい。また、家での学びは授業の復習だけではない。コロナ禍における自宅へのタブレットの持ち帰りは、学校の学びと家の学びが一体になる大きなチャンスです。
上松:では、なぜICT機器の活用は進んでこなかったのでしょうか?
平井:それはパソコン教室が原因です。30クラスある学校でもパソコン教室は1クラスしかない。これでは使いたい時に使えないから、結局は開かずの教室になりました。ですから、GIGAスクール構想のための環境整備とコロナ禍でICTを使わざるを得ない状況というのは、先生方にとっては大変なピンチですが、実は最高のチャンスという見方も出ています。


学校図書館はメディアセンター
上松:海外だとパソコン教室は同じ時期に設置されたけれども、鍵はもちろんかけないし、それどころか廊下や教室の隅にインターネットつなぎ放題のパソコンもあって今ではBYOD(Bring Your Own Device)になっているという時期でした。少なくとも図書館に何台かおいて自由に使わせるべきだったと思います。
平井:フィンランドに行ったんですが、図書館はメディアセンターになっています。
上松:これは素敵ですね。
平井:去年と一昨年、続けて2回行きました。これが公共図書館ですよ。図書館なのに工作室があってレーザーカッタ―があったりミシンがあったり。まるで実験室みたいなところもあります。

平井:クイーンズランドの図書館もそうでしたね。音楽スタジオもあったり生物の標本があったりして。
上松:日本の図書館は変わらないとならないですね。
平井:教科をまたいだプロジェクト学習がありましたね。これからはそういう時代になるでしょう。図書館はメディアセンターとなり、これからの学びを支えるステージにならないとね。


教員の仕事の本質とは何か
上松:教務室も変わらなければならないと思います。フィンランドはとても賑やかでサロンみたいなんですよね。自分の担任の生徒が、他の教科で何をしているのか、聞いたりできるんですよね。日本だとうるさいとか叱られて(笑)。
平井:教科をまたいだ授業をすると、おのずと教務室は先生が集まって、貴重な休み時間や昼休みに教務室で情報交換する場になるんですよ。それが日本では、静かに執務する場所となっていて自分の授業の話をあまりしたがらない先生もいて文化の違いを感じました。
また、日本は学校が担うことが多すぎます。働き方改革とは言われますが、今の仕事をテクノロジーで効率化することに目が向いてます。これでは対症療法です。この点は海外を見習うべきと思います。根本治療は業務を絞り込み、そこに集中することです。では、集中すべき業務とはなにか?ということになりますよね。簡単です。「授業」こそ、教員の仕事の本質です。今こそ、ここに立ち帰り、日本の学びを変えていきましょう。

オンラインインタビューの様子

平井 聡一郎 氏

平井 聡一郎 氏
(株)情報通信総合研究所 ICTリサーチコンサルティング部 特別研究員。
茨城県の公立小中学校で教諭、教頭、校長を22年間、県市町の教育委員会指導主事を11年間務めたのち現職。現在、茨城大学非常勤講師、文部科学省ICT活用教育アドバイザー、総務省地域情報化アドバイザー及び複数の市町村の教育アドバイザーを務める。また、全国の自治体、学校におけるICT機器導入から活用までのコンサルティング、プログラミング教育、オンライン授業等の推進にも取り組んでいる。

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【書籍紹介】『小学校にオンライン教育がやってきた!』が発売!!


近年、学校でのコミュニケーションの新たな回路となるオンライン教育は、学びの世界を広げるだけでなく、学びを止めないための大事なものとなってきています。特にコロナ禍では避けることのできないものとなってきました。
そこで、今回は筆者の新刊「小学校にオンライン教育がやってきた!」が発売されますのでご紹介させていただきます。

この本は、「小学校でオンライン教育をするというのはどういうことなのだろう」、「いつもの授業でオンライン教育をプラスする方法はどのようなもので、どういった効果があるのだろう」、そして「学校にICTを導入するとどのようなことが起きるのだろう」という疑問に答えるものとして発売されました。
この本を読むことでオンライン教育のスタイルを色々なさまざまな面から多角的に知ることができるようになっています。Withコロナの時代、海外事例からも学ぶことのできる入門書でもあります。
目次はこのようになっています。

もしこの中で興味がある内容があれば、ぜひ、ご覧になってください。
さまざまな事例も掲載しています。


・「学びを止めない」を前提とした事例
・試験制度をオンラインにした事例
・オンライン教育でもアクティブラーニング
・オンライン教育で新型コロナウイルスでも 休校しなかった事例
・新教科「Computing」を入れる事例
・ニュージーランドの小学校の教科 「デジタル・テクノロジー」


このような事例以外に
4章では、「オンライン教育 Q&A」、また、「各教科でオンラインにトライするアイデア」もあり、さらに「簡略用語集」もあります。オンライン教育の用語を確認する時に便利です。
価格も1200円プラス税と、筆者が言うのもおこがましいのですがとてもお買い得です。
詳細はこちらです。

三省堂|小学校にオンライン教育がやってきた!
https://www.sanseido-publ.co.jp/publ/gen/gen6edu/pschonlinedu/

Amazonでも購入可能です。

今は「1人1台で使う」「GIGAスクール構想」という政府の方針が教育の場でのキーワードになってきました。新型コロナウイルスが第3波と呼ばれ、緊急事態宣言が発令された地域もある中、喫緊の課題としてどうオンライン教育を学校に組み入れるのかの手立てとなりましたら幸いです。

ちなみにこの本は「小学校にプログラミングがやってきた!超入門編」の姉妹品ならぬ姉妹本のような装丁となっています。

ご興味がありましたらぜひこちらもお買い求めいただくと良いと思います。
三省堂|小学校にプログラミングがやってきた! 超入門編
https://www.sanseido-publ.co.jp/publ/gen/gen6edu/pschprgmcome/


こちらの本は、プログラミングとはなんだろう、プログラムを学ぶとどのようなよいことがあるのだろう、プログラムを作る方法としてどのような作り方があるのだろう、そしてプログラミングを学ぶのにはどのようにするのがよいのだろう、という疑問に答えるものです。ぜひご覧ください。

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ワーケーションとICT教育【後編】自律性、自主性を持てる子どもたちの未来に必要な学び


今回の後編では、前回に引き続き竹内義晴さんへのインタビュー内容をご紹介する。ワーケーションなど働き方の変化に伴い、教育現場で大切になってくるものとは一体どのようなものだろうか。

自分らしく働くために
上松:教育についても自律して自主性を持ってどんどん学んでいくというのがアダプティブな学びで大事ですね。1人1人がパソコンを持つことの意義がそこにあります。
竹内:今の時代、ITはもはや大事なインフラ、なければならないものなんですよね。教科書を丸ごと覚えて、いい点数をとることが学習じゃない。答えのない問いに対して「自分で考える」という時間に費やすことが大事だなと思います。
また、今までのように「職業」や「会社」に自分を当てはめるのではなく、自分の働き方について真剣に考える必要がありますよね。「大きな会社に入る」「安定している」といったことも大切かもしれませんが、自分の強みを活かして、自分らしく働くことが大事です。
また、働き方自体もそうです。今までなら、やりたい仕事をするためには都会に行くしかなかった。でもテレワーク時代の今は、どこにいても学べるし仕事もできます。私自身、しごとのみらいを経営しながら、並行してサイボウズでも仕事をしていますが、場所の制約なしに、複数の仕事だってできます。「働く場所はどこでも良い」というロールモデルになりたいと思っています。
朝からリモートで仕事をして、昼休みに気分転換するために、自然の中で散歩したり畑仕事をしたりする。こういう働き方って、いいなと思っています。仕事の生産性もあがりますしね。

竹内義晴 氏

上松:なるほど、地方移住いいな~と思う人がいると思いますが、仕事の生産性の面でプラスになることが企業もお金を投資する最低限の条件なんですね。

働きやすく柔軟な会社が選ばれる時代
上松:これからの教育ってどういったことが大事だと思いますか。やはりICTありきが良いのでしょうか。
竹内:コロナ禍では教育現場は大混乱したと思いますが、デジタルネイティブである子どもたちはすぐに慣れたという話も聞きます。もちろん、アナログの実体験も大切ですが、オンラインでもできることもあるよね、ということを多くの子どもたちは体験しました。
上松:そうなんですよね、教育の在り方が変化してきますよね。
竹内:学校も就職も「東京でなければ」とか、昔のように「地元を捨てて」などという発想だけではなく、今後は「地元に帰るのが前提」とか、「最初からリモートで」といった働き方に変わってくるはずです。というより、もう、一部の企業ではそうなり始めています。今後は企業側がそういうのに対応しないとなりませんね。働きやすく柔軟な会社が選ばれる時代。地方とか関係なくなってくるのではないでしょうか。
上松:若い人が少なくなってきて企業も若い人の人手不足も課題です。地方の優秀な学生が企業を選ぶ時代になってきたという感じですね。


子どもたちとIT、これからの職業教育
上松:最後に、教育について何かありますか。
竹内:ITを怖がらないでほしいなと思います。たとえばITを使った事件などがあると「ITは危険だ」と子どもたちに使わせないような風潮があります。大切なのは、「危険だから使わせない」のではなく、「正しい使い方を教える」こと。ナイフだって、人に向ければ危険だけれど、おいしい料理はナイフがあるからこそできるんですよね。
言い方を変えると、ITは特別な人だけが使うものではなく、もはやインフラなんです。無理に教科書を丸暗記しなくても、検索すれば答えは出てくる今の時代。情報は検索エンジンに任せて、自分で考えたり、内省したりすることのほうが大切だと思います。

それと、職業観もそうです。ところで、最近の職業教育ってどこかの企業に就職するっていうことがメインですか?
上松:最近は色々な職業教育があるようですが、確かに一流企業に勤めるとか公務員になるとか所属すると親も安心みたいなのって残ってはいるでしょうね。
竹内:「会社に所属する」という働き方も1つの方法ですし、そういった教育も大切だとは思います。でも、自発性、自律性を育てるなら、小さくてもいいから、何かを「作って売る」という商いの教育も必要でしょうね。

働く場所もそうです。「都会の会社」じゃなくたって、テレワークを使えば働く場所には制約がありません。今まで、そういった働き方はふわふわした理想論で、ごく限られた人しかできませんでした。でも、今は違います。「あなたが、働きたいように働くことが可能なんだよ。働いていいんだよ」ということを、子どもたちには知ってほしいですね。
このインタビュー中、筆者はワーケーションの言葉のイメージを修正した。この冬もこれまでだったらお正月に会社の休み通りに休み、帰省ラッシュにもまれて会社に戻るということは少なくなかっただろう。竹内さんは「これまでの仕事にワーケーションを取り入れると、数日は早く帰省するけど、仕事を実家でもちゃんとするという働き方になってくると思うんですよね。」と述べていた。そういった働き方があるということを子どもたちが将来の自分を考える上で今の教育に生かすことがあるとしたら良いことだと感じた。

NPO法人しごとのみらい 農業体験活動の様子

竹内義晴 氏

竹内義晴 氏
https://www.facebook.com/YoshiharuTakeuchi
新潟県妙高市出身。コミュニケーションの専門家、ビジネスコーチ、カウンセラー、ライター。特定非営利活動法人しごとのみらい 理事長。
※しごとのみらい 公式サイトより抜粋。(URL: https://shigotonomirai.com/about/staff , 閲覧日:2021.1.5)

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ワーケーションとICT教育【前編】オンライン教育は未来に繋がる

教育をICT化してオンライン教育も大切だという声を聞くことになった今日、未来にどういった目標を置き、自分なりの働き方や生き方を想定して学習をしていくのかが必要な時代になってきた。
そういった観点で、ワーケーションという言葉がここ数年、脚光を浴びることになった。政府もこの働き方は観光などにも大きく寄与するとして推進を始めている。

ワーケーション とは
「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語。働きながら休暇をとること

そのような中、ワーケーション、働き方においてのチームビルディングなどで新潟でも著名な竹内義晴さんにインタビューを行った。今回は前後編でその内容をお届けしたい。

ワーケーションという新しい働き方
上松:竹内さんは時代の先端を行っていますよね。
竹内:先端かどうかは分かりませんが、今までだったら、なかなか体験できない働き方でしたね。でも、テレワークの拡がりで、多くの方が知るようになりました。今、妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会というところで、ワーケーションの事業開発を行っていますが、流行りのワーケーションもテレワークができてこそだと思います。でも、個人的には「観光の合間に仕事」みたいなワーケーションの捉え方にはやや違和感があるんですよね。
そもそも、企業がワーケーションを推進するには、何かしらのメリットがないとやらないですし、「リゾートで仕事」といった働き方ができるのは経営者やフリーランサーなど時間や場所の裁量がある人だけ。そう考えると、ワーケーションは5%くらいの方しかできないんですよ、実際。
上松:うわー、ワーケーションっていうとバリ島とかで海で泳いでその合間にお仕事、楽しそうと思っている人も多いかもしれませんが、確かに仕事ですからね。

竹内さんは今、新潟県の妙高という所にお住まいですよね。私、中学生の時に学校行事で全員、体育の授業で妙高に泊りがけでスキー授業に行ったんです。スキーと温泉のイメージです。数年前まで妙高パインバレーにも行って滑りました。どうして妙高に住もうと思ったんですか。
竹内:もともと出身が妙高なんですよ。就職のために妙高を出ていたときもありましたが、以前の会社でプログラミングを学び、1998年に妙高に戻りプログラマーになったんです。エンジニアやプログラマーの仕事は自分の性に合っていました。楽しかったなー。
上松:実家に戻ってきて好きな仕事ができたらバッチリですね。
竹内:でも30代ぐらいのときに管理職の仕事を任されそうになり、転職しました。しかし、転職した会社で「ストレスをかけて動かすマネジメント」を受けてしまい仕事がつまらなくなってしまった。仕事内容は変わらないのに、チームが変わるだけで仕事が面白い場合と辛い場合があることを実感したんです。

テレワークに伴う「自由と責任」
竹内:結果的に管理職をやることになったんですが、「せっかくなら、楽しく働くことができるチームを作りたい」と思ってコミュニケーションを勉強しました。今でいう1on1ミーティングなどを実践した結果、チーム作りが上手くいったんです。

その後、「人の成長を支援する仕事も楽しいな」と感じてチームビルディングを支援するNPO法人しごとのみらいを始め、2017年からは「チームワークあふれる社会を創る」が理念のIT企業、サイボウズにも副業社員として週2日、フルリモートという形で働いています。

上松:今でこそフルリモートってけっこうありですけど、その当時ってなかなか少数派ですよね。
竹内:実際にやってみると、会社では仲間がワイワイとやっていているのに、自分だけ1人っていうのは寂しいな~という気持ちがあったときがありました。でも、あの当時はあまり理解されませんでしたね。テレワークで時間と場所に制約を受けないことが枕詞として使われていたけれど、時間と場所の制約はない分、気持ち的に縛られるというのもありました(下記ページ参照)。

リモートワークで場所から解放されたのに、精神的に縛られた。けどやってよかった──パリ×新潟からリモートの本音を語ってみた | サイボウズ式
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m001375.html

上松:私もけっこう寂しいですよ。向こうに100人くらいいても顔が見えない中で授業をやるとメンタルやられそうになりました。

竹内:そうですね。テレワークをするためのツール自体は、今までもあったと思うんですよね。でも、ちゃんと使った人がいなかった。このコロナ禍で使い方を学んで、やっとわかったことってあるんですよね。
テレワークは自由のように見えて、裏をかえすと責任を持つことなんですよ。テレワークをするには、自律性と自主性が大事なんです。アウトプットも出さないとならないし、仕事しているふりして遊んでいたら信頼もされない。自由というのはいいようで大変なんです。

参考サイト
NPO法人しごとのみらい
https://shigotonomirai.com/
サイボウズ
https://cybozu.co.jp/
妙高ワーケーションセンター
https://myoko-workation.jp/

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GIGAスクール構想、その前に-オンライン教育格差は意識改革から

GIGAスクール構想実現に向けオンライン教育が話題になる中、オンライン教育の格差拡大への懸念も広がっている。筆者は、オンライン教育を想定した教育環境にするだけでなく、意識改革も必要だと感じている。
今回の記事では「オンライン教育格差と意識改革」をテーマにお届けしたい。

オンライン教育の流れを止めないために
例えば最近、新型コロナウイルスのために病床が不足する自治体が出てくる可能性がある、という報道があったが、一方でもう第3波なのにどうして準備しなかったのかという声も聞かれる。実際、単にベッドを増やせばよいというものではない。ベッドを増やせばそれなりのスタッフが必要だからだ。
教育においても同様である。第1波の際に日本の学校では、休校により、オンライン教育をすることができずに困った教育現場が数多くあった。パソコンやタブレットなどの端末が1人1台ずつすぐ使える状況ではなかったり、家にインターネット環境が無かったりという声が多かった。
もちろん、他にもすぐにオンライン教育に移行できない多くの要因があった。しかし、もう半年が経っている。なのにどうして、第1波とまた同じ状況に戻る学校があるのだろうか。
対面授業を工夫してすればよいということではなく、万が一クラスターが発生してもオンラインを使って学びを止めない工夫が必要だ。これからICT支援員を増やす、多忙な教員に対して業務の改善を行い研修をする、保護者の理解を得る、など色々な課題やその要因なども含めてなんとか進めていかなければならない。
今も学校でクラスターが発生している状況を報道で目にするが、オンライン教育を推し進める流れを止めるわけにはいかない。学びが止まってしまうことは、日本の将来にわたって大きな弊害が起きるからだ。筆者はその点については下記にこのような記事を書いている。

また、海外事例も踏まえて下記のような記事も書いているので参考にしていただきたい。

さて、政府もただ手をこまねいているわけではない。全教員にデジタル指導力を付けようと、政府目標として専門家を9,000人派遣するということのようだ。


全教員にデジタル指導力 政府目標、専門家9000人派遣(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66536710S0A121C2MM8000/


小中高の教員数で割れば少ない数とはいえ進み始めてきている事例もある。この時代、フィンランドのようにMOOCを教員研修に活用するということも良いだろう。
日本でも「高等学校『情報I』を学ぶ人・教える人のために」ということで、一般社団法人情報処理学会ウェブサイトに公開教材が掲載されている。


IPSJ MOOC 情報処理学会 公開教材
https://sites.google.com/view/ipsjmooc/


そのような中で、経団連も教育業界に「人材育成の気概を持て」と喝を入れたという。
経団連が学校に喝「人材育成の気概を持て」(日本テレビ系(NNN)) – Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/99c006afeeb07d4e137efb6f5526cb3c0e8e8b24 (※現在は公開終了)

スウェーデン、シドニーの職業教育
さて、オンライン教育を行う上で、授業を色々と工夫する学校があちこちでみられる。例えば、職業訓練も1つの事例である。
スウェーデンではアントプレナー(起業家)教育を行っている小学校は少なくない。例えばアプリを作って販売するという事例を紹介していただいたことがある。日本ではこういった「アントプレナー」を支援する制度は少ない。

スウェーデンの学校の授業の様子

数年前に行ったシドニーの公立高校では、実際に家でオンライン上で株の売買を行っている高校生が少なくないとの保護者の話題に驚いた。保護者の中では「将来は経済の勉強を大学でするようだ」と前向きな話題にもなっていた。日本で小学生が起業したり、高校生がインターネットで株の売買を行うことが日常化するということは、果たしてどうとらえられるだろうか。つまり冒頭で述べた、意識改革という言葉の意味はこれである。まだ多くの人々が子どもにパソコンを与えるのは早いと思う限りは何事も進んでいくことができないのである。

シドニーの中学校、音楽の授業。音楽ソフトを用いて作曲を行う

シドニーの中学校、技術(木工、3Dプリンタ)の授業

教育は国の世論を反映する
AI時代に活躍できる教育内容で指導を行うことは、学校現場だけの努力では難しい。
教育はその国の世論を反映している。インターネットは危ない、としてそもそもリテラシー教育を行わない学校もあるようだが、これはICTを使うことへの抵抗がまだ世の中に根強くあることが背景にある。多くの学生にアンケートで話を聞くと、「紙幣の方が使いすぎないので安心」「印鑑を押してあると気持ちが通じる」という声もあった。
保護者も、教員の勤務時間外に急用でなくても学校に電話をかけるということはないだろうか。先進国ではそのように時間外に教員へ対応を求めることはできない事例が多いが、日本ではしばしば見受けられるようだ。
もはやAIありきの時代に、オンライン教育格差の背景をどうとらえるのか、世論をしっかりと見つめ直す必要がある。医療現場と同様、教育現場にオンライン対応が浸透するのは時間がかかるため、喫緊の課題であるからである。
ただパソコンを1人1台入れたら済むということではない。意識の差が格差に繋がることを懸念している。

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プログラミング教育の講師が思う、教育現場のリアルな課題

今回のコラムでは、プログラミング教育の最前線で活躍されている太田剛先生へのインタビューをお届けします。プログラミングクラブの運営に教材の開発、高校で情報科の非常勤講師を務めるなど、プログラミング教育の現場に精通する太田先生は、現在の教育をどう感じていらっしゃるのでしょうか。
まずは太田先生がプログラミング教育に興味を持ったきっかけからお尋ねしました。

小学校のプログラミング教育に興味を持ったきっかけ
太田先生:2000年以降、仕事関係でロンドンへ行くようになり、時期が合えばBETT(British Educational Training and Technology = ロンドンで毎年開催されるICTの教育利用に関する展示会)にも行っていました。
2015年1月のBETTでは、特に英国のブログラング教育ということは意識せずに行ったのですが、今後の、急速なプログラミング教育の広がりを感じました。
英国の特徴として、小中高で一貫した情報教育やプログラミング教育がありますし、 高校の情報教員などの育成過程がしっかりしていると考えています。また、CASなどの支援団体での教員育成研修や教材の提供がしっかりしていて、 GCSE(中等教育修了資格試験)などに対して教材や評価基準も明確に提供されている点がありますね。

CAS(Computing at school)https://www.computingatschool.org.uk/
CASにつきましては下記記事もご覧ください。
▶ イギリスの新教科「コンピューティング」の背景 ― 20年以上前から始まっていた情報教育

その後、放送大学の大学院で勉強するようになり、BETTで知ったコンピュテーショナル・シンキングを国内に紹介[1]するとともに、小学生のプログラミング関する発達段階・獲得過程[2]を研究テーマにしました。

プログラミング教育を始めたきっかけと現在の活動
もともと、大学では教育心理、教育工学を勉強していました。40年前に会社に入った時にパソコン担当になりましたが、社内で経験者がいないため(入社当時はIBM-PCの発売時期)、自分でプログラマーやユーザー向けのアセンブラやBASICの講習の教材の開発やインストラクターの育成を行いました。その後、教育システム(当時だとCAI)やデジタル教材の開発リーダーとしてシステム開発を行っていました。
2000年以降、別会社で海外のODAのプロジェクトとして、高校理科教育の学習者中心型授業と情報化の教員研修、情報技術の多国向けオンライン研究、高等教育の情報学科向け講座や教材の開発をしていました。また、2001~2005年に、大学で教職課程「高校情報科教育法」を担当した当時から高校の情報科の教育に関わってきました。

現在では、世界的な活動である無償の子供のプログラミングクラブ「CoderDojo[3]」を運営していて、そこで使用する教材を開発・公開[4]しています。また、2018年からは高校の情報科の非常勤講師を始めて、授業で使用する教材の開発や公開もしています[5]。その中で、情報Iを見据えたプログラミング教材の開発もしています。また、この新型コロナの休校期間の対応として、オンライン教育用に高校情報科用オンライン学習の動画教材の開発も行いました。

小学校のプログラミングについて思っていること
現場でいくつかの勘違いがあるかもしれないと思っています。例えば、順次/分岐/繰り返しの言葉を教えるのは中学の指導要領で、これを小学校でやろうとして逆に内容を難しくしているかもしれません。また、アンプラグだけだと、プログラミング教育ではないと考えます。
一方で、行政の側も勘違いがあり、現場の状況や教師の能力を考慮しなければならないと思います。例えば、「区分B 学習指導要領に例示されてはいないですが、学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施するもの」という定義がありますが、もともと教科の内容で本質をプログラミングできる物は非常に少ないのに(多くて十数個かも)、がんばって区分Bの授業案を考えてくださいと要求しているような気もします。
また、実現可能性(feasibility)や継続可能性(sustainability)を考慮した事例/計画が少ない(だから一発屋的な事例が多くなる)のも問題です。目的だけがあって、実現方法の検討が弱いように思います。例えば、研究者の実践でも新しいハード/ソフトを作りましたで終わって、本質的な先行研究の問題点がどのように改善したとか、どうしたら良い授業になるというものが少ないですね。

高校のプログラミングに思っていること
基本的に、小学校、中学(技術)のプログラミングの積み上げの内容になっていますが、一番の問題は中学(技術)で行われていないので、指導要領の内容を実施するのは困難です。
また、高校でのプログラミング教育も多くの実践が行われていますが、例えばロボット制御など学習者が簡単にできるような実践教育が多く、アルゴリズムなど指導要領にそったガッチリした実践が少ないのではないかと思います。あと、多くの実践は、俗にいう偏差値の高い高校のものが多く、普通の学校で実践できるか疑問にも感じています。多分、ちょっと難しいプログラミングには、日常とは異なる認知的なギャップがあり、もっとプログラミングとはどのような認知活動なのか本質的に考える必要があるかと思います。

最後に
プログラミング教育について日頃心がけていることは下記の3点です。
・実現可能性を考えた普及型のプログラミング教育(普通の学校/生徒でできること)の教材・教育方法の開発
・創造性を重視したプログラミング教育
・プログラミング教育に関する理論的な研究(プログラミングにおける認知過程、プログラミング関する発達段階・獲得過程および獲得の促進要因など)
これまでの豊富な知識で色々と実践されている太田先生は、インターネット上で見ることのできるYouTube動画[6]も配信されています。ぜひご覧ください。

参考URL
[1] 諸外国のプログラミング教育を含む情報教育カリキュラムに関する調査 -英国,オーストラリア,米国を中心として-
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/40/3/40_40028/_pdf
[2] 子供のプログラミング能力の獲得段階に関する定量的分析:小学校4~6年生のScratchプログラミングを対象として
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=199688&item_no=1&page_id=13&block_id=8
[3] CoderDojo Japan
https://coderdojo.jp/
[4] コーダー道場市川真間のオリジナル教材
http://beyondbb.jp/CDmama/materials.html
[5] 高校「情報科」の教材・指導案作ってみました。
http://beyondbb.jp/
[6] 高校「情報科」教材ビデオ https://www.youtube.com/channel/UC2legLVNV_y62PmdjnxReRw/videos

教育連載コラム―未来への戦略-

1人1台タブレットを使った授業、琴浦町立船上小学校(鳥取)の事例

今回は、鳥取県東伯郡琴浦町にある、琴浦町立船上小学校についてご紹介したい。
琴浦町は鳥取空港、米子空港、出雲空港から約1時間という海に広がる町である。とはいえ、大山を望むこともでき、近くには船上山もある。
町名の由来 「琴浦」とは、かつて琴浦町の海岸一帯が「琴ノ浦(ことのうら)」と呼ばれていたことに由来しているという。また、このほかに海岸に寄せては返す波の音が琴を弾いた音のようであったとのことから「琴ノ浦」と呼ばれるようになったとも町のホームページに書いてある。
鳥取というと砂丘が有名だが、ここは砂ではなく丸い石がたくさん海岸にあり、石の音が鳴っていて、鳴り石浜という名前がついている。

琴浦町は小学校が5校あり、以前はもっとあったのだが、日本の全国的な傾向と同じで統廃合が進んでいるという。今回訪れたのは琴浦町立船上小学校である。船上は「ふなのえ」と読む。学校に入ると歓迎の札があって校長先生が出迎えてくださった。
こちらの学校へ訪問した理由は、コロナで急激に1人1台のタブレット端末利用が進んだと伺ったからだ。
学校の規模は1学年1クラス。これまではコンピューター室で使用していたタブレット端末が2学期からは1人1台となり、それぞれの教室で使う形に変化したばかりということで、その使われ方も含めて視察をした。
まずは3年生の教室。ローマ字入力をする前に、先生がアルファベットの説明をする。
ローマ字読みの「学校」などの表示は、「GAKKOU」とKが二つ入るといった説明をして、日本語をローマ字にするという授業。

次は5年生の国語で、図書室の資料やネット上の情報を使った授業だった。それぞれタブレット端末を活用した授業である。
AirDropで資料がタブレットにバンバン飛んできて、その資料について、見るだけでなく自分の意見も言うというものだった。場所が図書室だったので、アクティブラーニングや共同学習など色々な活動ができて児童がとても活き活きしていた。
また、久米校長先生が、教師の新しい取り組みに対しポジティブに応援されていたのが素晴らしかった。先生方の能力を高く評価していて、理想の校長先生というイメージ。さらに、岡本教頭先生もとてもICT教育の活動に積極的な対応をされていた。

最後は4年生のプログラミング授業を視察。
どの教室でも当たり前のようにみんながタブレットを操作しており、また、それぞれの授業で違った使われ方をしていて、どの児童ももれなく使っているということだった。

情報の先生はスクラッチについて、他の先生にも色々とアドバイスをしているという。
また、児童たちが先生に頼らず問題解決をしている様子がとても印象的だった。将来が楽しみだ。
コロナウイルスのピンチをチャンスに、という声も聞かれた。
今後、児童がPCやタブレットを1人1台持つことになり、不安があるという先生方もいるかもしれないが、このように他の学校の様子を見学できる機会があると不安の解消に繋がるかと思う。
今回の船上小学校の視察では、児童たちが自信に満ちた様子で授業を受けているところがとても感動した。

琴浦町立船上小学校 公式サイト
https://www.torikyo.ed.jp/funanoe-e/

教育連載コラム―未来への戦略-

未来の学校を拓く、WR学校テストフィールドがスタート

020年の8月より、株式会社ウェブレッジ(以下、ウェブレッジ)のICT教育アドバイザーに就任させていただいた。ウェブレッジがICT機器をリアルな学校環境で検証するための実証実験施設、「WR学校テストフィールド(WR smart School Test Field)」の構築にご協力させていただくためである。
今回は、この施設についてご紹介したい。

この「WR学校テストフィールド」は廃校となった旧郡山市立大田小学校を元に構築された施設であり、本物の学校である。廃校というと古い校舎のイメージがあるが、訪れてみると、学校は2018年に廃校となったばかりなので比較的新しく、むしろ児童がいないことに違和感を持ったくらいだ。

活用事業は、学校向けICT教育サービスのプレ実証実験を目的としたテストフィールドの構築がメインだ。このWR学校テストフィールドで検証することにより、利用者(子ども、教職員、保護者)の安心安全の確保、利便性向上、負担軽減について事前にテストすることができるとしている。ICT教育サービスと機器を学校現場へ導入する前に、WR学校テストフィールドを活用して実証実験を行い、サービスの品質向上を図っていく。
VR、AR、ドローンなどのICT機器をリアルな学校環境で検証することも可能だ。ここはとても広いため、学校テストフィールドとして活用するほか、コワーキングスペース、オフィススペース等としても活用されるという。また、交流会、セミナー、展示会も開催し、社内外の利用者を対象としたカフェ・交流スペースとしても運営される予定だそうだ。

郡山東インターも近く、そして最寄り駅はあの三春滝桜で有名な三春駅。申し込めば誰もがICT教育サービスの実践を本当の学校環境さながらに確認することができる。既に実証実験に関する問い合わせが各企業から来ているとのことだ。

次に、校庭に設置されたトレーラーハウスを見せていただいた。このトレーラーハウスは電気やガスを引いておらず、ソーラーパネルで発電している。
ウェブレッジの取締役兼新規事業担当を務める風間崇一氏は、このトレーラーハウスでハイブリッドなスマートエネルギーを利用して実際に泊まってみたりしている。オフグリッド環境下でIoT機器やITサービスの品質を検証する、新しい検証サービスを開始するためである。

この、トレーラーハウスを利用した「オフグリッド型住居テストフィールド」、つまりクリーンエネルギーで生活するオフグリッド環境下の生活において、IoT機器およびITサービスを快適に利用できるかどうかを検証するための実証実験を目にして驚いた。

自然に優しくコンパクトな生活と自由な働き方を、IT品質で支える!オフグリッド型住居テストフィールドを郡山に構築
https://webrage.jp/service200630/

この事業には、海外にいる友人たちもとても興味を持っている。今後、このようなスマートハウスは規模の大小にかかわらず増えていくと感じた。実際、中に入るととても暮らしやすく工夫され、未来型の暮らしさながらである。
今後、テレワークや地方移住モデルを想定した品質検証サービスの提供も開始される予定だという。アフターコロナも見据えた現実の学校環境そのままの実践ができるWR学校テストフィールドは、未来の教育をどんどんクリエイトできるスペースである。

WR学校テストフィールドについてはこちら
https://webrage.jp/service/testfield/

教育連載コラム―未来への戦略-

DX時代に必要な勉強とは【後編】

小学校時代に住んでいたニューヨークと、帰国後の日本。学習に対する評価の違いに戸惑った、という竹内さん。竹内さんが考えるこれからの教育の在り方とはどのようなものでしょうか。

高校時代の勉強について
竹内:高校は筑波大学附属高校に行きました。東京教育大学附属高校という学校でした(途中で名前が変わりました)。
校風は自由。学校で受験勉強を全くしない。個性ある先生が多かった。教科書は独自のプリントを重点的な探究学習の一環として配ってくださった。他の有名私立は2年生で3年分の授業を終わらせて、3年生は受験勉強してくれるのに、と当時は不満がありましたが、今となっては良い教育だったと思っています。
受験を控えている生徒にとっては受験に不安があったことも事実です。プレートテクトニクスや明治・大正の民主主義のことを深く知っていてもテストで点取れないんですよね。しかし地理や歴史の先生は特定のトピックを深堀りしてくださった。
上松:私の授業でも、授業後にアンケートを取ると、「90分は長いので、テストに出る要点を短くまとめて」という書き込みを発見してびっくりしました。そういう資料を作るのは簡単なんですが、その90分の中にとてもためになる内容がたくさんあって、むしろその部分は普段のICTに囲まれた生活や将来のAI時代に役立つのではと思って話をしているのに。余剰の部分にこそ生きるための色々な知恵があるのですけれども。
大学という学問の場は単位さえ取れたらよいわけではないと思うんですよね。

スクールについて

上松:日本の教育の特徴の1つとして、海外の先進国に比べると1クラスの人数がとても多いと思うのです。私が最初に担任を持ったのは1クラス45名。最近は30人学級というところもありますが、竹内さんのスクールは1クラス何人くらいですか。
竹内:1クラスの数が10名程度です。何人くらいまでがしっかりした探究授業ができるか実証実験をしています。その結果、12名くらいが限界のように思います。12名以上になる場合は先生を2人つけています。
上松:フィンランドもそのようなクラスは少なくないです。学年構成は?
竹内:学年はしっかり決めていませんが、小学校の1年生G1から中2のG8までにしています。ゆるやかな学年の概念で科目ごとの達成度によって授業をしています。英語は上級クラスに入っているけれども国語ができない場合は、国語が中級クラスということになります。
1人1人のための時間割があります。この個別時間割の作成作業がえらく大変で、担当している妻がいつも悲鳴を上げています。将来的には、学校全体でおそらく50人から100人が上限かもしれないと思っています。
上松:それでは竹内さんの教育を受けたいと思っている子どもたちの競争率が高くなりそうですね。
竹内:学校の機能を大きくする必要はないと思っています。しかし、このスクールの仕組みそのもの、ノウハウを教えて拡げていきたいと思っています。
上松:フランチャイズみたいなイメージでしょうか。
竹内:ここは本校として機能すればいいのではないでしょうか。いまでも、横浜本校の他に東京校があって、そこではZoomで英語やプログラミングの授業、理科実験、文章講座の授業を提供しています。科目で取れて、ホームスクールや学童の時間として勉強したいという生徒さんのために授業を提供しています。フランチャイズで現地に居る情熱のある人がYESの分校を立ち上げてくれると良いと思います。ノウハウの他にオンライン授業も提供できますし。
自分は火曜日の理科の実験と金曜日の午後の文章講座をやっているんですが、1年生だけでなく上は5年生までいるのだけれども、お母さまが参加される場合もあるんです。そういったこともオンラインで地域に関係なくできますから。
上松:私も受けたいですね、そういう文章を書くプロの方に教えて頂く授業。
竹内:今は毎週異なる課題でやっているんです。会話だけから成り立つ短い小説を書いてください、とか、作詞してください、といった課題を出します。文章のテクニックを子どもの頃から体験してもらいたいんです。ただ漫然と文章を書くのではなく、文章の構造を勉強してほしいと思っています。独創的なストーリーを自分の言葉で考えて書く作業が大事なんです。いまの教育は、少々、アウトプットする授業が足りないと思います。

これからの教育とは

上松:これから日本はどうしたらよいでしょう、私も教育を良くしたいと思って色々なところで頑張っているつもりなんですが、なかなか海外のように教育のICT化やDX変革が起きません。
竹内:システム全体で変えていくと言う意見はつぶされて何も進まない場合がありますから、ボトムアップで色々な人が多様な形態で教育をしていくという方法があると思います。
うちの横浜校はフリースクールという形態ですが、ホームスクールという形態もありますよね。実は、うちの東京校は日本ホームスクール支援協会の認定校なんです。日本は先進諸国と比べてホームスクーリングが遅れている。そういった面の整備が必要ですね。
公立の学校システムを根本から変えるのは相当大変なことで、長い時間がかかるような気がします。
上松:色々な教育形態を選べるのは良いですね。
竹内:子どもの才能というのはプロが見ると一発でわかるんです。それをどう伸ばしたら良いかというのは、たとえばアメリカの場合、システム的に良くできていますね。
上松:みんな平均的になって受験勉強に縛られるのはなかなか厳しいのかもしれませんね。
竹内:うちの場合、体育や芸術は外部のプロの方に来て頂いている。プロに教えてもらう時間っていうのは大きいなと思います。プロを張っている人たちはそれなりにすごい。プロの生き様を子供たちに見てもらいたいんです。
たとえば、ブラジリアン格闘技のカポエイラの先生に来てもらっているのですが、アクロバット技が楽しいんです。それはいきなりできないですが、失敗を繰り返して、あるときできるようになると、子供の達成感は半端ないです。

上松:民間のプロの方たちを教育に呼び込むことが大事ですよね。プログラミングもプロの方が教えてくれたらよいと思う。学校がそういった面で隔絶されていますね。
竹内:うちの学校は私も元プログラマーだし、もう一人の先生も元IT技術者です。われわれは楽しいからプログラミングを仕事にしていました。子どもたちはPCをいじるのが楽しいんですよね。楽しさを伝えるのが1番。プログラムをやることで結果が出るので達成感を味わうことができる。「いかに楽しくパソコンをいじってプログラミングをやっていくか」それにつきると思います。
難しい問題としてはインターネットを使う場合ですね。無法地帯なので最初のうちはガードが必要で、その範囲を徐々に広げていき、最終的にインターネット上でだまされないという力がつくのではと思います。

大人のちょっとした仕掛けが大事

上松:好きな子は自分でどんどんやっていきますよね。
竹内:できる子はどんどん先にやっていいし、そうでない子はプログラミングについても楽しい体験をさせて教材を選んで、コーディングをさせないでゲームをつくる。要は楽しく遊ぶことが大切ですね。
ピアノを教わる時に自分がひきたい曲を弾かせてあげたら楽しくやれるのに、毎日、今日30分ハノンだけと強制するとピアノが嫌いになるんです。すごく才能がある人はハノンの良さはわかるのでしょうが、自分が好きなアニメソングを弾きたいなら弾かせたらよいんですよ。それと同じでプログラミングも自分でキャラクターを作ったり動かしたりすればよいのです。
親が勉強しなさいといって勉強が身につく子どもはなかなかいないわけですが、プログラミングも同じです。
自由に探究する環境だけ作ってあげて…たとえば、最初から子供のパソコンでPythonが起動しやすいようにしておく。いじっているうちにプログラミングにはまってくれれば理想です。家に本がいっぱいあれば本が好きになるのと同じです。

上松:しかし竹内さんのように学校を創られるというのは子どもたちにとっては壮大な仕掛けだと思います。
竹内:実は子供のころ、まじめに勉強法を考えた時期がありました。そこにはやはりちょっとした仕掛けがあったんです。伯母から中学1年生の時に何げなく本を渡されました。それは勉強法の本だったんです。勉強のやり方によって結果が異なるのだな、とインプットされました。
勉強方法について自分で考えることは大事だと思います。それで教育の効果が大きく違ってくると思います。その伯母は私が大学一年のときに病気で亡くなりましたが、生涯、小学校の先生をやっていたのです。もしかしたら、伯母の影響で学校を作ることができたのかな、と感じています。

竹内 薫氏プロフィール
竹内薫氏「猫好き科学作家」(サイエンスライター)。科学評論、エッセイ、書評、講演など精力的に活動を行う。メディア出演も多数。
▼竹内 薫氏オフィシャルサイトはこちら
https://www.kaorutakeuchi.com/

竹内 薫氏が運営するスクール「YES International School」の紹介
暗記より探究。日本語も英語もペラペラになろう。そして算数とプログラミングで遊んで20年後の未来を自分たちで創ろう。そんな理念の小さなフリースクールです。
▼YES International School のウェブサイトはこちら
https://yesinternationalschool.com/