DX時代に必要な勉強とは【後編】
小学校時代に住んでいたニューヨークと、帰国後の日本。学習に対する評価の違いに戸惑った、という竹内さん。竹内さんが考えるこれからの教育の在り方とはどのようなものでしょうか。
高校時代の勉強について
竹内:高校は筑波大学附属高校に行きました。東京教育大学附属高校という学校でした(途中で名前が変わりました)。
校風は自由。学校で受験勉強を全くしない。個性ある先生が多かった。教科書は独自のプリントを重点的な探究学習の一環として配ってくださった。他の有名私立は2年生で3年分の授業を終わらせて、3年生は受験勉強してくれるのに、と当時は不満がありましたが、今となっては良い教育だったと思っています。
受験を控えている生徒にとっては受験に不安があったことも事実です。プレートテクトニクスや明治・大正の民主主義のことを深く知っていてもテストで点取れないんですよね。しかし地理や歴史の先生は特定のトピックを深堀りしてくださった。
上松:私の授業でも、授業後にアンケートを取ると、「90分は長いので、テストに出る要点を短くまとめて」という書き込みを発見してびっくりしました。そういう資料を作るのは簡単なんですが、その90分の中にとてもためになる内容がたくさんあって、むしろその部分は普段のICTに囲まれた生活や将来のAI時代に役立つのではと思って話をしているのに。余剰の部分にこそ生きるための色々な知恵があるのですけれども。
大学という学問の場は単位さえ取れたらよいわけではないと思うんですよね。
スクールについて
上松:日本の教育の特徴の1つとして、海外の先進国に比べると1クラスの人数がとても多いと思うのです。私が最初に担任を持ったのは1クラス45名。最近は30人学級というところもありますが、竹内さんのスクールは1クラス何人くらいですか。
竹内:1クラスの数が10名程度です。何人くらいまでがしっかりした探究授業ができるか実証実験をしています。その結果、12名くらいが限界のように思います。12名以上になる場合は先生を2人つけています。
上松:フィンランドもそのようなクラスは少なくないです。学年構成は?
竹内:学年はしっかり決めていませんが、小学校の1年生G1から中2のG8までにしています。ゆるやかな学年の概念で科目ごとの達成度によって授業をしています。英語は上級クラスに入っているけれども国語ができない場合は、国語が中級クラスということになります。
1人1人のための時間割があります。この個別時間割の作成作業がえらく大変で、担当している妻がいつも悲鳴を上げています。将来的には、学校全体でおそらく50人から100人が上限かもしれないと思っています。
上松:それでは竹内さんの教育を受けたいと思っている子どもたちの競争率が高くなりそうですね。
竹内:学校の機能を大きくする必要はないと思っています。しかし、このスクールの仕組みそのもの、ノウハウを教えて拡げていきたいと思っています。
上松:フランチャイズみたいなイメージでしょうか。
竹内:ここは本校として機能すればいいのではないでしょうか。いまでも、横浜本校の他に東京校があって、そこではZoomで英語やプログラミングの授業、理科実験、文章講座の授業を提供しています。科目で取れて、ホームスクールや学童の時間として勉強したいという生徒さんのために授業を提供しています。フランチャイズで現地に居る情熱のある人がYESの分校を立ち上げてくれると良いと思います。ノウハウの他にオンライン授業も提供できますし。
自分は火曜日の理科の実験と金曜日の午後の文章講座をやっているんですが、1年生だけでなく上は5年生までいるのだけれども、お母さまが参加される場合もあるんです。そういったこともオンラインで地域に関係なくできますから。
上松:私も受けたいですね、そういう文章を書くプロの方に教えて頂く授業。
竹内:今は毎週異なる課題でやっているんです。会話だけから成り立つ短い小説を書いてください、とか、作詞してください、といった課題を出します。文章のテクニックを子どもの頃から体験してもらいたいんです。ただ漫然と文章を書くのではなく、文章の構造を勉強してほしいと思っています。独創的なストーリーを自分の言葉で考えて書く作業が大事なんです。いまの教育は、少々、アウトプットする授業が足りないと思います。
これからの教育とは
上松:これから日本はどうしたらよいでしょう、私も教育を良くしたいと思って色々なところで頑張っているつもりなんですが、なかなか海外のように教育のICT化やDX変革が起きません。
竹内:システム全体で変えていくと言う意見はつぶされて何も進まない場合がありますから、ボトムアップで色々な人が多様な形態で教育をしていくという方法があると思います。
うちの横浜校はフリースクールという形態ですが、ホームスクールという形態もありますよね。実は、うちの東京校は日本ホームスクール支援協会の認定校なんです。日本は先進諸国と比べてホームスクーリングが遅れている。そういった面の整備が必要ですね。
公立の学校システムを根本から変えるのは相当大変なことで、長い時間がかかるような気がします。
上松:色々な教育形態を選べるのは良いですね。
竹内:子どもの才能というのはプロが見ると一発でわかるんです。それをどう伸ばしたら良いかというのは、たとえばアメリカの場合、システム的に良くできていますね。
上松:みんな平均的になって受験勉強に縛られるのはなかなか厳しいのかもしれませんね。
竹内:うちの場合、体育や芸術は外部のプロの方に来て頂いている。プロに教えてもらう時間っていうのは大きいなと思います。プロを張っている人たちはそれなりにすごい。プロの生き様を子供たちに見てもらいたいんです。
たとえば、ブラジリアン格闘技のカポエイラの先生に来てもらっているのですが、アクロバット技が楽しいんです。それはいきなりできないですが、失敗を繰り返して、あるときできるようになると、子供の達成感は半端ないです。
上松:民間のプロの方たちを教育に呼び込むことが大事ですよね。プログラミングもプロの方が教えてくれたらよいと思う。学校がそういった面で隔絶されていますね。
竹内:うちの学校は私も元プログラマーだし、もう一人の先生も元IT技術者です。われわれは楽しいからプログラミングを仕事にしていました。子どもたちはPCをいじるのが楽しいんですよね。楽しさを伝えるのが1番。プログラムをやることで結果が出るので達成感を味わうことができる。「いかに楽しくパソコンをいじってプログラミングをやっていくか」それにつきると思います。
難しい問題としてはインターネットを使う場合ですね。無法地帯なので最初のうちはガードが必要で、その範囲を徐々に広げていき、最終的にインターネット上でだまされないという力がつくのではと思います。
大人のちょっとした仕掛けが大事
上松:好きな子は自分でどんどんやっていきますよね。
竹内:できる子はどんどん先にやっていいし、そうでない子はプログラミングについても楽しい体験をさせて教材を選んで、コーディングをさせないでゲームをつくる。要は楽しく遊ぶことが大切ですね。
ピアノを教わる時に自分がひきたい曲を弾かせてあげたら楽しくやれるのに、毎日、今日30分ハノンだけと強制するとピアノが嫌いになるんです。すごく才能がある人はハノンの良さはわかるのでしょうが、自分が好きなアニメソングを弾きたいなら弾かせたらよいんですよ。それと同じでプログラミングも自分でキャラクターを作ったり動かしたりすればよいのです。
親が勉強しなさいといって勉強が身につく子どもはなかなかいないわけですが、プログラミングも同じです。
自由に探究する環境だけ作ってあげて…たとえば、最初から子供のパソコンでPythonが起動しやすいようにしておく。いじっているうちにプログラミングにはまってくれれば理想です。家に本がいっぱいあれば本が好きになるのと同じです。
上松:しかし竹内さんのように学校を創られるというのは子どもたちにとっては壮大な仕掛けだと思います。
竹内:実は子供のころ、まじめに勉強法を考えた時期がありました。そこにはやはりちょっとした仕掛けがあったんです。伯母から中学1年生の時に何げなく本を渡されました。それは勉強法の本だったんです。勉強のやり方によって結果が異なるのだな、とインプットされました。
勉強方法について自分で考えることは大事だと思います。それで教育の効果が大きく違ってくると思います。その伯母は私が大学一年のときに病気で亡くなりましたが、生涯、小学校の先生をやっていたのです。もしかしたら、伯母の影響で学校を作ることができたのかな、と感じています。
竹内 薫氏プロフィール
竹内薫氏「猫好き科学作家」(サイエンスライター)。科学評論、エッセイ、書評、講演など精力的に活動を行う。メディア出演も多数。
▼竹内 薫氏オフィシャルサイトはこちら
https://www.kaorutakeuchi.com/
竹内 薫氏が運営するスクール「YES International School」の紹介
暗記より探究。日本語も英語もペラペラになろう。そして算数とプログラミングで遊んで20年後の未来を自分たちで創ろう。そんな理念の小さなフリースクールです。
▼YES International School のウェブサイトはこちら
https://yesinternationalschool.com/