VRで価値を可視化する-記憶を紡ぎ復興に生かすICT【前編】
今回は沖縄の「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」を発起人として仕掛けて構築し、デンソーITラボラトリーのシニアリサーチャーであり東京工業大学特任准教授として研究室や授業も受け持つ、川上 玲 (かわかみ れい)さんにインタビューを行った。
みんなの首里城デジタル復元プロジェクト | Shuri Castle Digital Reconstruction
https://www.our-shurijo.org/
このプロジェクトは色々な場所で話題となり、テレビでも放映され、今もなお反響が続いている。(下記の番組はNHK Worldで放送されたもの。英語の番組ではあるが、プロジェクトに協力した方々の肉声は日本語でお聞きいただける。)
– Shuri Castle: Rebirth in 3D | NHK WORLD-JAPAN On Demand
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/ondemand/video/3004690/ (※現在は公開終了)
作られた首里城の3次元モデルは中高生による首里城ガイドで使われているそうだ(下記)。
【事例インタビュー】焼失した首里城をVRで復元。修学旅行生向けVRガイドまでの軌跡 〜興南アクト部〜 | ハコスコ
https://hacosco.com/blog/konan_act-vrguide/
上松:川上さんとは情報処理学会の編集委員会の会議でご一緒させていただいていますね。確か、コロナ前は化学会館から東京大学やラボへ移動され、2人のお子様のお母さまでもあり、公私ともにお忙しく活躍されていらっしゃるご様子でしたね。「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」はそういった中でのビッグな素晴らしいプロジェクトですが、色々と大変だったのではと思います。
川上:この首里城が消失したニュースを知ったのは、韓国で開催された国際会議に参加していた時でした。国際会議ではワークショップをオーガナイズしたりメイン会議に参加したりしていて、その時にスマートフォンのニュースで知りました。その後、空港に向かうために地下鉄に乗っている際に改めてゆっくりその状況を知り、とても驚きました。さらに、地元の子どもたちがショックを受け、朝食が食べられないとか登校できないということもあったと知りました。
この年の11月は子どもも小さく手がかかっている時期で、私自身がすごく多くの方に助けてもらいながら生活していた時期でもありました。自分自身、国費で優遇され国際学会に行った身でありながら、一方でこんなに苦しんでいる子どもに何もできないということで心を痛めていました。そこで何かできないのかな、と思っていたんです。
国際会議で私がオーガナイズしていたワークショップはたまたま文化財の保存に関するものでした。また、メイン会場では2009年に発表された写真から3次元復元をする論文が10年賞をとっていました。
その時は、すばらしい論文だったな、ということを思い出して眺めていただけだったのですが、帰国後に「これを使って、色々な人から写真を頂いて3次元モデルを構築したら、地元の方に少しは役立つのかな」と思ったのがきっかけでした。
上松:なんだか感動して泣けてくるエピソードです。金浦空港への移動の時間にそのようなことを考えられていたとは。私も海外に行くとそういったインスピレーションが働く時がありますね。
ちなみに韓国では政府機関が主催するカンファレンスで招待講演をさせてもらったり、国際カンファレンスに参加したこともあり優遇されたのでそういった気持ちはわかります。20年前に査読が通って発表した初めての海外発表は韓国でした。それは自腹でしたが。そういった時に何気なく見た発表や論文がアイデアに結びつくことがありました。しかし川上さんはそれを実現されたんですね。
川上:普通は現地に行って、ドローンを飛ばしたり、あるいは地上から4Kのビデオなどで撮影したりして、構造物の復元をやるんですね。そういったテクニックはかなり確立されているので、それで美しいものを再現しても、私がやる意味はあまりないなと思ったんですよね。
色々な人から集めたデータは、人間らしさとか手あかのついた記憶のコレクション。つまり、1人1人の記憶を集めることに価値がありそうだと思って、やっている面もあるんです。
インタビュー後編では、「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」の反響と、プロジェクトを通して得た気づき、ICTの活用と未来についてお届けします。