GIGAスクール構想、その前に-オンライン教育格差は意識改革から
GIGAスクール構想実現に向けオンライン教育が話題になる中、オンライン教育の格差拡大への懸念も広がっている。筆者は、オンライン教育を想定した教育環境にするだけでなく、意識改革も必要だと感じている。
今回の記事では「オンライン教育格差と意識改革」をテーマにお届けしたい。
オンライン教育の流れを止めないために
例えば最近、新型コロナウイルスのために病床が不足する自治体が出てくる可能性がある、という報道があったが、一方でもう第3波なのにどうして準備しなかったのかという声も聞かれる。実際、単にベッドを増やせばよいというものではない。ベッドを増やせばそれなりのスタッフが必要だからだ。
教育においても同様である。第1波の際に日本の学校では、休校により、オンライン教育をすることができずに困った教育現場が数多くあった。パソコンやタブレットなどの端末が1人1台ずつすぐ使える状況ではなかったり、家にインターネット環境が無かったりという声が多かった。
もちろん、他にもすぐにオンライン教育に移行できない多くの要因があった。しかし、もう半年が経っている。なのにどうして、第1波とまた同じ状況に戻る学校があるのだろうか。
対面授業を工夫してすればよいということではなく、万が一クラスターが発生してもオンラインを使って学びを止めない工夫が必要だ。これからICT支援員を増やす、多忙な教員に対して業務の改善を行い研修をする、保護者の理解を得る、など色々な課題やその要因なども含めてなんとか進めていかなければならない。
今も学校でクラスターが発生している状況を報道で目にするが、オンライン教育を推し進める流れを止めるわけにはいかない。学びが止まってしまうことは、日本の将来にわたって大きな弊害が起きるからだ。筆者はその点については下記にこのような記事を書いている。
また、海外事例も踏まえて下記のような記事も書いているので参考にしていただきたい。
さて、政府もただ手をこまねいているわけではない。全教員にデジタル指導力を付けようと、政府目標として専門家を9,000人派遣するということのようだ。
全教員にデジタル指導力 政府目標、専門家9000人派遣(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66536710S0A121C2MM8000/
小中高の教員数で割れば少ない数とはいえ進み始めてきている事例もある。この時代、フィンランドのようにMOOCを教員研修に活用するということも良いだろう。
日本でも「高等学校『情報I』を学ぶ人・教える人のために」ということで、一般社団法人情報処理学会ウェブサイトに公開教材が掲載されている。
IPSJ MOOC 情報処理学会 公開教材
https://sites.google.com/view/ipsjmooc/
そのような中で、経団連も教育業界に「人材育成の気概を持て」と喝を入れたという。
経団連が学校に喝「人材育成の気概を持て」(日本テレビ系(NNN)) – Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/99c006afeeb07d4e137efb6f5526cb3c0e8e8b24 (※現在は公開終了)
スウェーデン、シドニーの職業教育
さて、オンライン教育を行う上で、授業を色々と工夫する学校があちこちでみられる。例えば、職業訓練も1つの事例である。
スウェーデンではアントプレナー(起業家)教育を行っている小学校は少なくない。例えばアプリを作って販売するという事例を紹介していただいたことがある。日本ではこういった「アントプレナー」を支援する制度は少ない。
スウェーデンの学校の授業の様子
数年前に行ったシドニーの公立高校では、実際に家でオンライン上で株の売買を行っている高校生が少なくないとの保護者の話題に驚いた。保護者の中では「将来は経済の勉強を大学でするようだ」と前向きな話題にもなっていた。日本で小学生が起業したり、高校生がインターネットで株の売買を行うことが日常化するということは、果たしてどうとらえられるだろうか。つまり冒頭で述べた、意識改革という言葉の意味はこれである。まだ多くの人々が子どもにパソコンを与えるのは早いと思う限りは何事も進んでいくことができないのである。
シドニーの中学校、音楽の授業。音楽ソフトを用いて作曲を行う
シドニーの中学校、技術(木工、3Dプリンタ)の授業
教育は国の世論を反映する
AI時代に活躍できる教育内容で指導を行うことは、学校現場だけの努力では難しい。
教育はその国の世論を反映している。インターネットは危ない、としてそもそもリテラシー教育を行わない学校もあるようだが、これはICTを使うことへの抵抗がまだ世の中に根強くあることが背景にある。多くの学生にアンケートで話を聞くと、「紙幣の方が使いすぎないので安心」「印鑑を押してあると気持ちが通じる」という声もあった。
保護者も、教員の勤務時間外に急用でなくても学校に電話をかけるということはないだろうか。先進国ではそのように時間外に教員へ対応を求めることはできない事例が多いが、日本ではしばしば見受けられるようだ。
もはやAIありきの時代に、オンライン教育格差の背景をどうとらえるのか、世論をしっかりと見つめ直す必要がある。医療現場と同様、教育現場にオンライン対応が浸透するのは時間がかかるため、喫緊の課題であるからである。
ただパソコンを1人1台入れたら済むということではない。意識の差が格差に繋がることを懸念している。