教育連載コラム―未来への戦略-

花火とプログラミング【前編】- アナログとデジタルの共存する花火大会

世界一の4尺玉が打ち上げられる、小千谷市片貝町の花火。夜空全体を埋め尽くすこの花火大会は浅原神社に花火を奉納する年に1度のお祭りである。例えば、結婚や出産、または厄払いなど人生の節目に打ち上げるため、1つ1つの花火に、多くの住人の願いや祈りが込められている。
最近の花火大会はインターネット中継なども進み、音楽と一緒に特効(特殊効果)を使った演出も多くなってきている。そういったスタイルはコンピュータのプログラミングが必要なため、筆者はどのような方法で打ち上げられているのかを知るべく、片貝町にある有限会社片貝煙火工業さんにインタビューを行った。(筆者の行ったインタビューは花火の繁忙期を避け3月と9月に行った。)

四尺玉(有限会社 片貝煙火工業のホームページより)


なかなか見せてもらうことのできない花火師たちの日常を見せてもらったが、ひとつずつ丁寧に火薬を入れているところをみると、アナログで根気のいる作業だということがわかる。

専務取締役の本田和憲さんは
「昔は、筒の数も少なくて、玉を筒中に仕込んでは打ち上げ、また筒を掃除して玉を入れて打ち上げということもありました。その時に筒中に残り火があることがあって、不意な爆発で花火師が事故にあったんです。
そこでまず、玉の数と同じに筒の数をそろえようというシフトが20年ほど前から起こりました。次に、花火師の危険に留意し、筒から離れた点火のブースを作って遠隔で電気点火しようということになったんです。そのために、導火線に点火具を取り付け、そこに電気を流すという形に変え、点火は遠隔で行われるようになりました。」
という。

有限会社 片貝煙火工業提供

有限会社 片貝煙火工業提供


(セッティングの場所は許可がないと入れないので有限会社片貝煙火工業さんのご好意で写真を頂いた)
導火線を長くするだけで電気点火をしなくても “遠隔点火” と言うが、今回話を伺ったのは、パソコンでプログラミングする電気点火のことである。遠隔点火をするために、昔は筒と玉を運んで設置することがメインだったが、今の現場では電気導火線を1つ1つくっつけてあるメインの点火機器に繋ぎ、コンピュータに線を繋ぎ、プログラミングされたタイミングでパソコン上のソフトを使って点火の指令を出すという。そのために、現場に行く前はコンピュータで点火のタイミングをシミュレーションする。
今回インタビューさせて頂いた「片貝煙火工業」さんは特に切り替えが早く、20年くらい前から5年ほどでオール電化にしたという。一方で、音楽などのイベント的な要素で特効(特殊効果)による演出がある花火大会でも、コンピュータソフトが必要となる時代に沿って切り替わった。

専務は「昔は1人が火の粉を準備して、次の人が蓋を開けてそれを投げる方式。例えば、同時打ちというのは、2人の人間が声を出してせーのと言って上げていた。今は基本、遠隔点火となっている。
火の粉が線に落ち、回路が断線することで指令が行かなくなることがあるので、人でやるのとは想定外のトラブルが発生するリスクもあり、最初は戸惑いがあったが、いち早くオール電化にした」という。
花火の点火の順番をプログラムして行うという作業は、思ったよりも複雑だったそうだ。

「今ではパソコン内でビジュアル的に確認し、間隔は何秒、0.1秒、0.01秒の世界で、本体でプログラミングを組むだけでなくパソコンで組んであるものを本体に転送することもできる。またコンピュータを使うことによって保存されたものの中で、以前良かった打ち上げと同じタイミングでの点火も保存できるので、部分的に可能となるため再現性もある。」という。
「現場では数字の入力だけで、データのバックアップをたくさん保存することはできないが、多少プログラムの変更はできる。しかし、ここにあるパソコンとはやれることが断然違う」とも述べていた。(その詳細は次回の後編で)
【有限会社片貝煙火工業の様子】
※画像クリックで拡大します。

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イギリスの新教科「コンピューティング」の背景 ― 20年以上前から始まっていた情報教育

モバイル教育を進化させている国の共通キーワード。それは小学校の教科「情報」である。前回[1]にも触れたが、イギリスの場合、1995年から小学校に「ICT」という教科が入り、2014年からは教科「コンピューティング」がスタートした。

他の国でも情報を専門に学ぶ新教科がカリキュラムに導入されてきた。例えば、ニュージーランドの小学校では「デジタルテクノロジー」という教科がある。もちろん日本の総合学習のような形でプログラミング教育が入っている国もある。しかし、小中高と系統的に情報を学んだり、ロボティクス教育などの導入のためには教科が必要だということを各国で聞いたのも事実。
そこで新教科ではどうスタートし、どのような基準があり、それをどう評価する試験が実施されるのか、筆者はその疑問を解決すべく、イギリスのOCR[2]を訪問した。OCRはイギリスの全ての学校が利用可能な学習プログラムや資格を提供しているケンブリッジ大学の附属機関である。全国で行われる試験問題作成だけでなく、授業評価の基準も作成している。

ここで、Computer Science & ICT スペシャリストでエグザムボードであるヴェナイ氏[3]に単独インタビューを行った。
実はOCRのようなコンピュータ教育の評価機関はイギリスには4カ所存在し、評価は学習指導要領のようなナショナルカリキュラムと連動している。CAS(Computing at school)[4]や Naace(National Association of Advisers for Computers in England)[5]という ICT リテラシーやICT を利用した教育推進&支援を行い、カリキュラムの提言までもするような教育関連団体や機関もある。OCRの試験問題もイギリスの多くの学校で使われている。もはやイギリスにおいては、コンピュータを使うか使わないか、1人一台か否か、などというフェイズではない。

ヴェナイ氏は以前は高校で、1995年から始まった教科「ICT」を教えていたという。教科「ICT」のエキスパートの先生がここOCRで雇用され、教師の経験を活かし、中高生の受ける全国規模で行われる試験や授業評価基準の作成に関わっていたのである。
「新教科は、コンピュテーショナルシンキング(Computational Thinking)創造力(creativity)をつけるといったレベルの高い内容なので教職員の反対もあった。しかし、情報社会の進化が著しいため、やるしかないと思い、粛々と教師教育を進めている」と述べていた。

さて、話はそれるが、ここケンブリッジ大学の周囲には多くの大学関連の機関がある。民間の日本語学校もあって日本人の大学生がたくさんいた。
ここから離れているがオックスフォード大学も様々なカレッジがあり、街がまるごと大学といった感じである。この2つの大学は特別かもしれないが、イギリスのアカデミック機関の規模の大きさ、教育の質の高さ、それを支える機関の多さに驚いた。
さて、しばらくイギリスの話が続いたが今回で一区切り、他の話題に移ることとする。
[1] イギリスの教科「コンピューティング」におけるプログラミング教育|上松恵理子のモバイル教育事情 https://mobile-univ.com/archives/18063/
[2] OCR:Oxford, Cambridge and RSA Examinations and Learning
[3] Vinay Thawait 氏Subject Specialist – Computer Science & ICT)
[4] CAS(Computing at school) https://www.computingatschool.org.uk/
[5] Naace(National Association of Advisers for Computersin England)
https://www.naace.co.uk/

ケンブリッジ大学附属機関のOCRにて、Vinay Thawait 氏(Subject Specialist – Computer Science & ICT)へのインタビューの様子
OCRとアセスメントについてはこちら
http://social.ocr.org.uk
http://social.ocr.org.uk/groups/ict
http://social.ocr.org.uk/groups/computing-computer-science
OCRの資格に関するウェブサイトのリンクはこちら
http://www.ocr.org.uk/qualifications/by-subject/computing/
http://www.ocr.org.uk/qualifications/gcse-computer-science-j276-from-2016/
http://www.ocr.org.uk/qualifications/as-a-level-gce-computer-science-h046-h446-from-2015/
http://www.ocr.org.uk/Images/350596-parents-and-students-guide.pdf
イギリス教育省のウェブサイトのリンクはこちら
https://www.gov.uk/government/publications/english-baccalaureate-ebacc/english-baccalaureate-ebacc
https://www.gov.uk/government/publications/gcse-computer-science

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イギリスの教科「コンピューティング」におけるプログラミング教育

イギリスの小学校1年生からある教科「コンピューティング」[1]の授業は実際にどう行われているのか。
ロンドン郊外にあるTownley Grammar校[2]の様子をご紹介したい。
筆者は、日本だと高校2・3年生にあたるA-Level[3]の授業と、小学校6年生にあたる学年のプログラミングの授業を視察。その後、他の授業についても案内役2人の生徒と一緒に教室を移動。ほとんどの授業を見学することができた。

学校案内をかって出てくれた生徒たち

かつてイギリスの学校で児童・生徒がパソコンを使う場面といえば、1995年頃から行われている教科「ICT」の授業であった。そこでは教師がWord やExcelなどのソフトの使い方を教えることがメインだった。
しかし教科「コンピューティング」になってからは、コンピュータの使い方を教えるフェイズは終わったという。
見学した授業では、教師によるパソコンの使い方指導はほとんどみられない。インターネットを積極的に使い、プロジェクト型の授業方法で課題解決している様子がみられた。アカデミックな多角的知識を統合するプログラミング教育に移行していることを実感した。
興味深かったのは教科「音楽」でのプログラミングの授業。また、教科「プロダクト&デザイン」でレーザーカッターを使う木工の授業である。さらに、デジタルストーリーテリングの手法を使ったスクラッチ[4]の授業をここイギリスで初めてみた。

副校長にインタビューしたところ、この学校はもともと豊富なデジタル教材と教育方法を様々提供している。そして、小学校の教師から「プログラミングの授業に児童を連れていきたい」という要望が来るので、受け入れるという。これは児童のためになるのはもちろんのこと、小学校の先生のための教師教育にもなるそうだ。
また、この学校では発達段階に合わせた言語で、段階的・系統的にプログラミング教育を行っている。コンピュータサイエンスの授業では、コンピューテーショナル・シンキングやロジカル・シンキングを培うための言語から様々なテキスト言語へ繋げさせるのだと述べていた。
副校長が「プログラミング教育の成功の鍵は優れた教師の採用だ」と断言していたのが印象的だった。

Townley Grammar校 副校長先生

創意工夫する先生

授業の様子

授業の様子

[1] イギリスのナショナルカリキュラムには2014年度から新教科「コンピューティング:Computing」が入り、イングランドで必修化された。(既に1995年から情報の授業として教科「ICT」が必修化されていた。) 教科「コンピューティング」にはデジタルリテラシー(DL)、インフォメーションテクノロジー(IT)、コンピュータサイエンス(CS)が盛り込まれている。

[2] Townley Grammar 校(参考:http://www.townleygrammar.org.uk/)

[3] 義務教育は日本より1年早くスタートするため、中学校1年は7年生。11歳でセカンダリースクールが始まる。
セカンダリースクールとは7~9年生が Kstage3、10年生~11年生が GCSE。A-levelは12年生~13年生。
GCSEの義務教育終了試験の成績にもとづき、イングランドの学校は全ての順位が公表される。

[4] Scratch: MITメディアラボが開発したプログラミング言語

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就職に強いコンピュータ教育 ― ロンドン大学情報学部のブランド力

ロンドン

ロンドン大学(King’s College London)


イギリスにあるロンドン大学(King’s College London:KCL) は、1892年に設立され長い歴史を持つ。
今回は、プログラミングで世界的に著名なロンドン大学情報学部マイケル教授[1]にインタビューを行った。

ロンドン大学内部、ステンドグラス

ロンドン大学、趣のある廊下

イギリスの教育施設は伝統的な歴史のある建物が多いが、この大学はその中でもとても由緒ある建物で、設立当時のままの趣である。廊下を歩くとまるでタイムスリップをしているようだ。
しかし1階に行くとモダンなデザインで、最新モデルのパソコンがずらりと並ぶ教室が様々ある。

ロンドン大学情報学部の学生は、就職を希望する前の段階から企業のオファーがたくさん来る。オファーを出す企業は主にIT企業、金融機関、保険会社などである。
ちなみにイギリスでは、情報学部にいた大学生の卒業後の進路や初任給について、BCS[2]という機関で大学のコンピュータ系の学部についての情報がわかるようになっている。ロンドン大学情報学部の卒業生の初任給は、同大学の他の学部の学生よりもとても高い。
インターンシップなどでも学生たちは報酬を得ることができる。スタッフの社員よりもインターンシップに来た学生の方の報酬が良かったというエピソードがあるそうだ。
このような状況から、この大学では1年間のインターンシップの制度を伸ばす方向でカリキュラムの見直しを行ったという。

一方で、教員になる学生はとても少ない。
その理由としてマイケル教授は、イギリスの大学には、学生が学校へ教えに行く Computing in Schoolという制度があるがロンドン大学にはないこと。また、Teach Firstというプロジェクト制度(=卒業生が1年間だけ教員として学校に行く制度)がロンドン大学情報学部にはないということ。さらには、教員の給料が高くないことが関係しているのではないかという。
大学1年生では「プログラミング入門」を行う程度で、まだコンピュータのスキルが高くない学生が多いが、数学においては高度な能力が要求される。言語はPythonが主として学習に用いられる。
マイケル教授は、イギリスの小学校からの教科Computingの必修化に伴い、大学カリキュラムを見直さなければならないだろうと述べた。
ロンドン大学情報学部は、医学部との連携が特徴的であるが、驚くべきことにこの学部は教員一人あたりの学生数は約11人。これは英国の大学の中であっても少ない数である。
情報学部の就職率の高さと卒業後の高給については、学生が優秀なのはもちろんではあるが、少人数制やブランド力、充実した施設が関連しているのかもしれない。

著者とマイケル教授

[1] Michael Kölling 教授 [ Professor of Computer Science Department of Informatics King’s College London Vice Dean (Education) ]プログラミング初級の教科書の作成者としても知られている。2013年、BlueJの開発に関してコンピュータサイエンス教育への優れた貢献に対してSIGCSE賞を受賞している。
[2] BCSとは1957年に創設された英国コンピュータ協会のことである。
(BCS — The Chartered Institute for ITの名前は2009年に変更されているがBCSはそのままである)

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就職に強いコンピュータ教育 ― ロンドン大学情報学部のブランド力 ―

ロンドン
ロンドン大学(King’s College London)
イギリスにあるロンドン大学(King’s College London:KCL) は、1892年に設立され長い歴史を持つ。
今回は、プログラミングで世界的に著名なロンドン大学情報学部マイケル教授[1]にインタビューを行った。


ロンドン大学内部、ステンドグラス

ロンドン大学、趣のある廊下

イギリスの教育施設は伝統的な歴史のある建物が多いが、この大学はその中でもとても由緒ある建物で、設立当時のままの趣である。廊下を歩くとまるでタイムスリップをしているようだ。
しかし1階に行くとモダンなデザインで、最新モデルのパソコンがずらりと並ぶ教室が様々ある。

ロンドン大学情報学部の学生は、就職を希望する前の段階から企業のオファーがたくさん来る。オファーを出す企業は主にIT企業、金融機関、保険会社などである。
ちなみにイギリスでは、情報学部にいた大学生の卒業後の進路や初任給について、BCS[2]という機関で大学のコンピュータ系の学部についての情報がわかるようになっている。ロンドン大学情報学部の卒業生の初任給は、同大学の他の学部の学生よりもとても高い。
インターンシップなどでも学生たちは報酬を得ることができる。スタッフの社員よりもインターンシップに来た学生の方の報酬が良かったというエピソードがあるそうだ。
このような状況から、この大学では1年間のインターンシップの制度を伸ばす方向でカリキュラムの見直しを行ったという。

一方で、教員になる学生はとても少ない。
その理由としてマイケル教授は、イギリスの大学には、学生が学校へ教えに行く Computing in Schoolという制度があるがロンドン大学にはないこと。また、Teach Firstというプロジェクト制度(=卒業生が1年間だけ教員として学校に行く制度)がロンドン大学情報学部にはないということ。さらには、教員の給料が高くないことが関係しているのではないかという。
大学1年生では「プログラミング入門」を行う程度で、まだコンピュータのスキルが高くない学生が多いが、数学においては高度な能力が要求される。言語はPythonが主として学習に用いられる。
マイケル教授は、イギリスの小学校からの教科Computingの必修化に伴い、大学カリキュラムを見直さなければならないだろうと述べた。
ロンドン大学情報学部は、医学部との連携が特徴的であるが、驚くべきことにこの学部は教員一人あたりの学生数は約11人。これは英国の大学の中であっても少ない数である。
情報学部の就職率の高さと卒業後の高給については、学生が優秀なのはもちろんではあるが、少人数制やブランド力、充実した施設が関連しているのかもしれない。

著者とマイケル教授

[1] Michael Kölling 教授 [ Professor of Computer Science Department of Informatics King’s College London Vice Dean (Education) ]プログラミング初級の教科書の作成者としても知られている。2013年、BlueJの開発に関してコンピュータサイエンス教育への優れた貢献に対してSIGCSE賞を受賞している。
[2] BCSとは1957年に創設された英国コンピュータ協会のことである。
(BCS — The Chartered Institute for ITの名前は2009年に変更されているがBCSはそのままである)

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ケンブリッジ大学におけるエリート・コンピュータ教育

ケンブリッジ(Cambridge)大学にあるコンピュータラボラトリー(Computer Laboratory)ロバート(Robert Harle)教授にインタビューを行った。今回は情報を専門に扱う学科におけるケンブリッジ大学の事例をお話ししたい。

ロバート教授によれば、学生のプログラミングの学習状況は近年急激に変化しているという。
数年前から英国政府の方針により、小中高の教科Computingの学習範囲にCS(コンピュータサイエンス)が入ったこともあり、大学に入る前の時点で90%以上の学生がプログラミングを経験している。しかし、教科Computingを教える教員が十分な数でないことから、ケンブリッジ大学としてはその学習効果を過大評価はしていないそうだ。

また、いつからプログラミングを学び始めたかは重要ではなく、大学が求めている学生とは「教えられたこと以上に考えることができる人」であるため、プログラミングについては「ある程度やったことがある程度で十分である」という。プログラミングが嫌いになると困るからでもある。

「教えられたこと以上に考えることができる人」を育成するため、大学には講義の他にスーパービジョン(Super Vision)と呼ばれる少人数の授業がある。これはケンブリッジ大学教員1人に1人~3人程度の少人数である。
学生が小論文等を執筆し,輪読ののち感想を述べあうこともある。教員と1対1で話をする貴重な時間である。
1年次は1週間に4時間のスーパービジョンの授業を受ける。しかし、そのための準備時間は、5時間から7時間、時には12時間かかるという。

ケンブリッジ大学のComputer Laboratoryにいる学生の半数は留学生である。彼らの出身国は東欧やバルト三国などの国のトップレベルの学生で占められている。
各国トップクラスの学生が入って来るとはいえ、入学時点ではITスキルにばらつきがあり、大学の高度な授業に慣れるためのウォーミングアップとして、1年生は「プログラミング」「ハードウェア」「理論(基礎理論およびAIなど。実用や活用法も含む)」「数学」の4領域の基礎を習う。

ところで、Raspberry Piはケンブリッジ大学で開発された。Raspberry Pi財団のメンバー3人は今でも大学にいる。プログラミングはJavaとML→OCaml、Python、 SQLである。高校生の頃から、学校で教わらずに家庭でRaspberry Piを扱っていた学生もいる。

学部2年生からはグループプロジェクトを行う。6、7名のグループを組み、企業から年間60時間〜70時間で解決できるようなプロジェクト課題を学生たちに出してもらい、学生たちがそのコンサルタントをつとめる。エリート学生のアイデアが企業に活かされている。

英国はICT教育が教科として1995年に小学校からスタートしている。二十数年を経た今、大学教育は、自動車産業の新しいフェーズに一役かっている。

【ケンブリッジ大学コンピュータラボラトリーの様子】

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時代が求める幼少期からのサイバーセキュリティ教育 ― イギリスの名門校のIoT事情 

筆者はIoTの進化をみるために最先端の研究を行うイギリスの名門、ウォーリック大学に潜入、カールストン教授[1] にインタビューを行った。この大学はダイソンが授業料を出すことで話題となったダイソン インスティチュート オブ エンジニアリング アンド テクノロジーと提携している[2]。
カールストン教授はウォーリック大学のコンピュータ学部長であり、様々な大学のコンピュータ学部長が集う学会組織の会長でもある。

ちなみにこのウォーリック大学は大学世界ランキング54位[3] ととても高い。社会に出て働き、技術の進化に驚いてここに入学してきた学生が85~90%もいる。これまでの勉強では立ち行かないという思いに駆られて、最先端のテクノロジーの学ぶために入学したのだという。

半数が外国人の学部もあり、海外から来た学生たちには1年から2年の職業体験がある珍しい制度がある。そんな説明を受けながら、教授の研究室の下に降りて、ドアを開けるとすごい光景が目に飛び込んできた。

まるで体育館のような車の研究開発現場。この場所で学生たちは企業と共同研究をする。特に自動運転の研究をメインに行っているという。

カールストン教授によれば、IoTは既に技術開発のフェイズからセキュリティ対策へと移行しているという。また、ダボス会議でも話題になったように、今、サイバーセキュリティセンターでは倫理がコンピュータサイエンスの一部になっているという。

大学のあるコベントリーの周りには、イギリスの自動車会社のローバーがある。日本のホンダが引き上げるということで話題となったイギリスではかなりの危機感を持ってるようで、ナショナルオートモービルイノベーションセンターは9000ポンドの資金を提供しているそうだ。

子どもは4歳くらいから、道を渡る時には右を見て、左を見て渡るように教わるが、それと同じようにサイバーセキュリティに関しても4歳くらいから学ばなければならない。そして、8歳になったなら、楽しい活動を通してサイバーセキュリティについて勉強しなければならない。」と述べていた。

ネットに繋がるモバイル端末はタッチするだけで様々なものを駆動できるものとなっている。今や、モバイル教育はIoTを理解することだけでなく、子どもであってもサイバーセキュリティの概念が重要となってきたことをまざまざと見せつけられた。

教育連載コラム―未来への戦略-

次世代を切り拓くモバイル教育 ― エストニアの事例から ―

IoTの端末開発が進み、モバイルの概念も変化する中、最先端のテクノロジーを使ったモバイル教育が行われるようになってきました。今や、VRやARを使った授業も行われています。
20年も前から筆者は、将来、タブレット端末や携帯を使って授業が行われるようになるのではないかと思っていました。その予感通り、現在、自分のモバイル端末を好きなだけ学校に持って行き、授業で使うというBYOD(※1) が行われる国も出てきました。
ちなみに小学校からのBYODが国策として行われている国もあります。
先日はたまたま、エストニアのFlorian Marcus(※2) 氏の話を伺う機会がありました。エストニアの小学校では一年生のスマートフォン普及率が90%の教室もあり、机上にスマートフォンが置かれていたり、国語の授業はパソコン教室で行ったりしています。
筆者が2年連続で訪問した小学校では、全ての授業で日本のマイナンバーのような長いID番号を端末に入力し、ログインしてから授業をしている様子をみることができました。

エストニアは電子政府に切り替えたことで、ほとんどの公的な手続きはネット上で行われるようになりました。紙を使った非効率な作業が減ったことで人件費が大幅に削減されました。情報が全て紐づいているため、例えば人身事故などで救急車が現場にたどり着く前にその人のID番号さえわかれば、到着後直ちに治療にも入ることができます。
このようなことを経験するともう後戻りができないそうで、市民がインターネットを使うことは大きなメリットになっています。
この背景には、小学校1年生から全ての子どもたちにPCを持たせ、あらゆる教科でPCを使い、プログラミング教育を行っているということがあります。「一番大事なのは子どもの頃からインターネットやPCを使いこなすことの積み重ね。これによって今後のIT政府が構築される」という言葉が印象的でした。

今回はエストニアの事例を少しお話しましたが、筆者がこれまで、教育の最前線を世界各国で調査研究してきた経験をもとに、モバイルに特化した国内外の教育について次世代を切り拓くべく、レポートしていきたいと思います。