教育連載コラム―未来への戦略-

就職に強いコンピュータ教育 ― ロンドン大学情報学部のブランド力

ロンドン

ロンドン大学(King’s College London)


イギリスにあるロンドン大学(King’s College London:KCL) は、1892年に設立され長い歴史を持つ。
今回は、プログラミングで世界的に著名なロンドン大学情報学部マイケル教授[1]にインタビューを行った。

ロンドン大学内部、ステンドグラス

ロンドン大学、趣のある廊下

イギリスの教育施設は伝統的な歴史のある建物が多いが、この大学はその中でもとても由緒ある建物で、設立当時のままの趣である。廊下を歩くとまるでタイムスリップをしているようだ。
しかし1階に行くとモダンなデザインで、最新モデルのパソコンがずらりと並ぶ教室が様々ある。

ロンドン大学情報学部の学生は、就職を希望する前の段階から企業のオファーがたくさん来る。オファーを出す企業は主にIT企業、金融機関、保険会社などである。
ちなみにイギリスでは、情報学部にいた大学生の卒業後の進路や初任給について、BCS[2]という機関で大学のコンピュータ系の学部についての情報がわかるようになっている。ロンドン大学情報学部の卒業生の初任給は、同大学の他の学部の学生よりもとても高い。
インターンシップなどでも学生たちは報酬を得ることができる。スタッフの社員よりもインターンシップに来た学生の方の報酬が良かったというエピソードがあるそうだ。
このような状況から、この大学では1年間のインターンシップの制度を伸ばす方向でカリキュラムの見直しを行ったという。

一方で、教員になる学生はとても少ない。
その理由としてマイケル教授は、イギリスの大学には、学生が学校へ教えに行く Computing in Schoolという制度があるがロンドン大学にはないこと。また、Teach Firstというプロジェクト制度(=卒業生が1年間だけ教員として学校に行く制度)がロンドン大学情報学部にはないということ。さらには、教員の給料が高くないことが関係しているのではないかという。
大学1年生では「プログラミング入門」を行う程度で、まだコンピュータのスキルが高くない学生が多いが、数学においては高度な能力が要求される。言語はPythonが主として学習に用いられる。
マイケル教授は、イギリスの小学校からの教科Computingの必修化に伴い、大学カリキュラムを見直さなければならないだろうと述べた。
ロンドン大学情報学部は、医学部との連携が特徴的であるが、驚くべきことにこの学部は教員一人あたりの学生数は約11人。これは英国の大学の中であっても少ない数である。
情報学部の就職率の高さと卒業後の高給については、学生が優秀なのはもちろんではあるが、少人数制やブランド力、充実した施設が関連しているのかもしれない。

著者とマイケル教授

[1] Michael Kölling 教授 [ Professor of Computer Science Department of Informatics King’s College London Vice Dean (Education) ]プログラミング初級の教科書の作成者としても知られている。2013年、BlueJの開発に関してコンピュータサイエンス教育への優れた貢献に対してSIGCSE賞を受賞している。
[2] BCSとは1957年に創設された英国コンピュータ協会のことである。
(BCS — The Chartered Institute for ITの名前は2009年に変更されているがBCSはそのままである)