教育連載コラム―未来への戦略-

DX時代に必要な勉強とは【前編】

教育のデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital transformation)は、ICT化に伴い、もはやITを使いこなせることを目的として行うものではない。ICT化された環境の中、どう組織や制度を変えていくかが課題なのである。AIも教育に入ってくる時代には、子どもたちにも、ICT化は単なる手段であり、どういった目的で使っていけばよいのかを考える創造力と改革力を養うことが必要となってくる。
そんな時代にはどのような教育が理想なのか。また、DX時代に必要な勉強とは何かについて、フリースクールを立ち上げ、作家でありマスコミにも多く出演されている竹内薫さんにインタビューを行った。竹内さんは東京都出身で、東京大学教養学部教養学科卒業(専攻、科学史・科学哲学)、東京大学理学部物理学科卒業、マギル大学大学院博士課程修了(専攻、高エネルギー物理学)の理学博士(Ph.D.)である。

ニューヨークでは教わった覚えがない、自ら考え学ぶ


上松:いきなり小学校でニューヨークに行かれたんですか。それは英語大変だったでしょう。
竹内:英語が全くできずに行き、半年くらいは会話が完全でなかったのですが、子どもなので、比較的早く慣れましたね。あと数学(算数)は世界共通なので、常に成績トップで皆に一目置かれていました。そのことが自分の進路に繋がっているかもしれません。数理は自分の持っている武器なのかな、と思いました。算数、数学、サイエンス、物理、化学は国境がないのだな、と思いました。
個々の学習は進度別に進み、自己採点をして次の課題をする、という自分たちが勝手に履修していくような課題でした。数学の教科書というよりもドリルみたいなものを自分でやるスタイルだったことで、勉強に対する自主性が身につきました。それは良かったと思います。幼少期にアメリカに行って良かった点ですね。
上松:ずっと小学校はニューヨークですか。
竹内:小学校3年生から5年生まで、父親の仕事の関係でニューヨークの公立小学校に行って、2年ほどで帰国しました。ニューヨークでは当初英語ができず、そして帰国して留年にはしなかったため、日本語も2年のブランクがありました。そのため今度は国語ができずで、なかなか大変でした。その結果不登校ぎみになりました。

上松:帰国子女にありがちなパターンですね。
竹内:まあ、でも中学校になったら英語が始まったので、自然と全体の成績は上がっていき救われました。しかしどうも成績評価の面では疑問が残っています。実はニューヨークでは絵をめちゃめちゃ褒められたんですね。外部講師のプロの絵描きの先生に「美術学校に進学して奨学金がもらえる」と言われたんです。しかし日本の図工の成績評価はひどいものでびっくりしました。体育も酷い成績で…自分は絵も運動も本当はダメなのかな、と思ってしまって。でも今はそれを克服し、楽しくカポエイラをやりロードバイクに乗っていますが。しかし、絵の方はけっこうなトラウマで、それ以降はぱったり絵を描かなくなりましたね。
ということで、子どもの頃の実体験で、どうも成績評価のシステムがおかしいな、と思ったんです。他人と同じでなく、どこか尖った人は悪い成績がつくのかな。幼少期に先生からの低い評価でトラウマになるのは良くないことだな、と思います。

プログラミング教育の評価について
上松:プログラミング教育では、色々なやり方があるのだと言って褒めたり、答えが1つでないことを認めてあげたりすることが大事だと思いますよね。
竹内:すぐにゴールできるように正解を求めて近道ばかり通ってしまうと、失敗を恐れてしまうようになるんですね。世の中の本質は失敗の連続なのに。失敗をしないで、塾の先生から教えてもらった近道を行くことは良くないと思います。自分で考え、納得していくことが必要です。近道も自分で発見したのでなければ価値がない。今の教育現場では、子供も、失敗を恐れるあまり理由もわからずに答えを暗記してしまうことが多いように思います。これでは社会に出てから自分で道を切り開くことができません。
上松:国語や数学でさえもテスト勉強は暗記が中心で、しかも正解が1つですよね。
竹内:知らず知らずのうちに子どもたちはテストのための勉強しかしなくなってくるんですよね。それは本末転倒ですね。道草をしないで近道だけを通るようになってしまい、最後のゴールだけを目指してしまう。それをすると勉強が楽しくないし、身につかないし、人に頼ろうとします。人にどうやると近道できますか、と聞く指示待ち人間になってしまう。
上松:すぐに学生に質問されることがあって、私はGoogleか、と思ってしまうくらい簡単に聞いてくることもありますね。昔よりも、自分で調べないですぐに質問されることが増えてきたように思います。

竹内:プログラミング教育も心配しています。課題を与えて自分で解いてみるということが大事です。例えば、通常の普及しているアルゴリズムでなくてヘンテコでも、それはそれで独創性があるわけです。しかしながら、それを評価できる先生がいないんですよね。そういったオリジナリティの評価を本来すべきです。相当力のあるプログラマーしか評価できないわけですが。
決まりきった答えを用意して「先生、これであってますか?」って感じになってしまう。そうなると天才プログラマーは0点になる可能性があって高評価がつかないと思います。独創性なプログラムを書く子どもたち、プログラミングが大好きな子どもたちがいるわけで、そういった子どもたちのモチベーションをどう保っていけばよいかという問題もあるのですよね。
上松:絵がすごくできるとか、音楽がすごくできるとかいうのが、学校で必ずしも高評価にならないという事に繋がりますね。
竹内:今、プログラミングを算数と融合させて、自分が授業を担当しているのですが、正直、オンライン授業でやる方がやりやすい、と思いました。効率が良いし生徒が集中できる。算数プログラミングについてはZoomでオンライン教育でも問題ないですね。

オンライン授業について


上松:コロナでいきなりオンライン授業をスタートされ、何かトラブルはありましたか?
竹内:実は3年くらい前から実証試験をくりかえしていたんですよ。何かあった時オンラインにする場合に慌てないように、機材チェックなどもやっていました。地方に住んでいる生徒につないで、現地の協力者にコーチで入ってもらったり。
・こちら側とあちら側でどういうインフラがあればよいのか
・ソフトウエアはどれが1番良いのか
・回線の問題は生じないのか
・資料の受け渡しはどういった方法でやればよいのか
・集中できる時間はどれくらいなのか
こういった課題を意識して実証実験をしていたんです。おかげさまで、緊急事態宣言が出てから1週間の準備期間を頂いてオンライン授業に移行できました。
上松:これまでの準備があったからというのが良くわかりました。何か問題はなかったですか。
竹内:ニューヨークで騒ぎになった「Zoom爆弾」を防ぐ対策を考えました。会社の中でチャンネルを作り、学校の中だけの会議という設定にしました。レッスンを開始した時に初めてURLを生成される方法にしたので、事前にURLが漏れたり、ランダムに入って来たりする輩をシャットアウトしたのです。システム上、考えられる一番安全な方法でやっていました。
上松:オンライン授業で何か反応はありましたか。
竹内:この時期によくZoomでやってくれましたね、と褒めていただきました。
とはいえ、色々なところに遠足で出かけていって社会観察するような活動ができない不満がありました。対面授業でなければできないことというのもたくさんあることがわかりました。

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ニューヨーク、コロナ禍の迅速なオンライン教育【後編】 ― 自立を促す文化の違い ー

「新型コロナウイルス感染症による感染者や死者数の日本での増え方は、ニューヨーク(NY)とは全く異なっているため、あくまでもNYは一つの参考にしつつも慌てず慎重に冷静に対応するのが良い」とも語る中島さん。日本とNYとの違いはどんなところにあるのでしょうか。

日本とニューヨークとの違い
上松:日本との相違点はありますか。
中島:そうですね・・・。ICT環境などの対応も確かに違いますが、何よりも大人と子どもの分け方が日米では異なるように感じています。大人が子どもに教えてあれダメ、これダメという感じではなく、アメリカの場合は自由にやっているので幼児の頃から自分の意見をちゃんと言うように育っているんですね。子どもを一人前の人として扱うので。
その分、自由の中で自分たちがやりすぎかどうかというバランス感覚ができてくるし、考えるようになっているように思います。
上松:日本はとても親切、先生が慮って手を回しすぎてしまう感じですね。
中島:アメリカは荒療治な感じで対等に付き合うイメージです。
例えば、本当はわかってるのだけど、言わなかった・・・などの時は、察してくれでは絶対だめで、英語がたとえ自信なくてもしっかり主張・行動することを求められる。暗記より思考を求められるので、例えば Black Lives Matters の動きがあれば授業でもどんどん先生から議論を投げかけ、こどもたちも積極的に多様な意見をいう。
大人が求める正解を求めるのではなく、多様な多角的な視点を理解しながら、自身の考えも発信する。やはり、こどもは小さな大人として扱われていると強く感じます。
また、遊び心も満載で、例えばオンラインクラスではクイズをゲーム化したり、これができたら抽選で1人にUber Eats 無料券譲渡とか(笑)、先生たちのプライベート光景を切り貼りした素敵なメッセージ動画に励まされたり・・・。
NY州全体でも、例えば、今後はマスクを使ってもらおうという時に、真面目にお願いするだけでなく、「マスクを使おう」の素敵な動画コンテストを行ったり・・・。

とにかく何かどんな立場でもどんな状況でも、多様に日々を楽しもう、一人ひとりの参加や創造性をうまく引き出そう(トップが遊ぶのではなく)、というプレイフルな真剣さが溢れているのはいいなぁと思いました。

Wear A Mask New York Ad Contest: Winner Announced | Department of Health
https://coronavirus.health.ny.gov/wear-mask-new-york-ad-contest-winner-announced

ただ、一番いいなぁと思ったのは、多くの場合、
「今は心が弱って当たり前。苦しい人は教えてね。それが当然だから」
というところからまず話を始めること。
ただただ、「このコロナをポジティブに考えよう!危機はチャンス!」と鼓舞するのではなく、最初に弱さを認め合い、そうした人が駆け込めるシェルターを準備した上で、でも今は今でみんな笑顔になれるように!多様なみんなの創造性を発揮して、何が生み出せるか考える・・・。
そうした部分から、私自身学ばされたことも多くありました。

上松:デモについては日本と違いますよね。日本だと反政府的な意味合いにとられがちですよね。
中島:昨年の環境デモでも、政治的にとらえるのではなく、そうした環境問題を自分ごととして考え学ぶことが求められるので、多くの学校がオフィシャルにデモに参加したりしました。
何かの色に染まってしまうことなどを懸念して「させない・出会わせない」日本とは異なり、しっかりどんどん考えさせ、議論させ、発信させ、動かせることで、逆に、安易に何かに流されることなく、より自分の頭で考え、多角的な視点の中で議論し調整し何か行動にうつす・・・。
そうした社会的かつ人間的な力を伸ばすことが、若い時からしっかり求められている印象です。
それは数学や科学でも同様で、答えがないオープンディスカッションや社会的な視点は、つねに科学などの学びの中にも内在していました。

上松:日本だと、議論すると議題について討論するのではなく、相手の生きざまを叩くケースがありますよね。私は以前、人の意見についていろいろと言ったら、自分が批判されたかのように思われてしまって困ったことがあります。
中島:NYでは建設的に討論することが多い印象です。人格を否定したり非難したりすることはまずあまりなかったですし、言葉の選び方は正直うまいなぁ!と何度も思いました。誰かが他の誰かを傷つける言葉をふと言ってしまったときは、批判するのではなく、「私はそう言われて悲しかった・恐怖を覚えた」と気持ちも含めて伝える。
周囲も組織も、両者の人格は否定しないが、<言葉や行為>のだめなものは、なぜだめなのかも含めてしっかり議論する。
例えばメール上でも、コロナの課題でも、Black Lives Matters でも、より全般的な人種の課題でも、どんどん議論が建設的に多角的に発展する。体験も重視する。次なるアクションにつながる。大事なことに対しては、組織も明確に発信し動く(動かなければ誰かが動き出す)。
普段から、たとえばテクノロジーを学んでいても、それが人種や貧困や性別や日常のどんな課題とどう結びつくかをよく考えるし、そうした社会課題の議論の機会も多い。
また、人と人との壁がないですね、実際、学生からでも文句を言うのではなく、意見があれば学長に直接メールも送れるんです。もちろん全員が学長にメールしたら大変(個別の深い事情がある人はそれでも直接連絡してもよいし返事が返ってくることも多い)ですから、リーダーシップを発揮できる人がアンケートやヒアリングの機会を設け始めたりして、それをまとめて学長と相談したり。
本当に、立場によらず、みんなが多様かつ創造的なリーダー性を発揮している。長も、学生からの声を真摯に受け止め、次には違う発信の仕方をしたりする。

なお、ここまでNYの良いところばかりあげてきましたが、もちろんNYでの問題もあります。差別の問題も、NYでもまだまだ根強くあるようですし、ちょっとしたサービスでの心配り(おもてなし)は圧倒的に日本の方が細やかだと思います。コロナにおいても、マスクをしない・マスクをしている人を嫌がる、などの文化があれほどの感染拡大を招いた可能性はあります。それこそ一概にNYはこうだ、日本はああだ、とは言えないと思います。
ただ、あくまでも私の周りにおいて、NYで感じた良さは、やはり、基本的に互いの弱さを認め、頼りあえる文化があることですね。互いに陰で批判・ののしるなどは原則しない(言葉の品格には皆気をつけていると思います)し、気になることがあれば議論し建設的な解決策を探す・・・コロナ禍で誰も外に出られない状況下でも、今は心が弱る自分を認めてあげることが大事だと、互いに声をかけあっていました。

世界の芸術や文化が集まるニューヨークならではの発信力

上松:NYのクオモ知事は毎日すごい発信力ですよね。
中島:それこそリーダー力があり、NYのあのひどい状況の中でも、むしろどんどん人気や信頼を高めていった方ですね。やはり弱さに寄り添う姿勢・視点、その上での鼓舞、何よりも常に明確な数値・分析を用いた発信は非常にわかりやすく、コロナ禍の中で非常に素晴らしい動きをしてくださったと思います。
NY全体の統計情報も非常に多角的で、きちんとあまりよくない情報も含めてしっかり分析して打ち出すので、逆に(数字が悪くても)数字が明確になってくると皆さん落ち着きますね。知事、市長、また領事館など共に、発信が明確で頻度も高く、やはり学ばされました。
(英語、スペイン語、ロシア語、韓国語、中国語、ハイチ・クレオール、ベンガル語で発信。日本語も一部)
例えば、NY市では、地域(郵便番号ごと)・年齢・経済状況・人種・性別ごとの感染状況を明確に日々出しています。感染者数だけでなく入院者・死者なども明確にするので、今がどのような状況か、どんな立場や地域が弱いか、が一目瞭然になる。こうした数値は、的確迅速な政治判断にもつながっているのは間違いなく、さらにそれを発信につなげることで、政治家や公的機関だけでなく、社会全体で課題解決に向かおうとする創造的・人間的な動きにもつながりやすかったと思っています。

日本の総領事館もメールでサマリー情報を逐次出しており、非常に助かりました。なお、データ統計では、誰を対象に、どのように得たものか、までを知り、背景にある課題を考えることが大事で、数字を鵜呑みにするだけではだめです。多角的な視点が必要で、今回のNYの数値はその辺りのクリティカルな視点がしっかり入っていますね。なお、そうした意味でのデータ教育は、日本でも、もっとしっかり行われると良いと思っています。
上松:いろいろと日本の報道では大変だったようですが、実際のことがわかってよかったです。
中島:とにかくNYの大学はとても創造的で、オンラインの可能性を堪能しています。私たちも、例えばOBSを使ったライブストリーミングで、どこまでリアルタイム・ライブの遊びやフィジカルなこと(人形劇に近いこと)ができるか、まさにアート(人間の感性)とテクノロジーのはざまでどこまでプレイフルなことを追求できるか、みんなで色々と試行錯誤し、非常に楽しかった!です。

・LIPPTV(オンラインライブでのフェークTVプログラム。中島さんは1時間17分あたりからLIPP MUSIC STATION を行っている):https://lipp.tv/
・中島さんのITPでのさまざまな研究事例:https://valed.press/_ct/17370979
・最終研究発表:https://vimeo.com/425732029
・SXSW2020 online “Future of Interactive Live : STEAM Behind Music” https://youtu.be/G13FPwZXXpM

上松:さすが、世界の芸術や文化が集まっているところだと思いました。ありがとうございました。

インタビューを終えて
コロナ対応のNYと日本、それぞれ比較すべきところ、中島さんのいろいろな肩書、これまでの経歴で優れた才能を発揮されており特になぜ数学なのか、など…。インタビュー開始早々、さまざまな質問に快く答えてくださいました。
中島さんは数学という学問に惹かれたということと、STEAMもだが音楽も“創り出す”という点で好きだということで、2018年8月からNY大学にてアートの専門、メディアアートを学ぶ目的で思い切ってアメリカに渡米されたそうです。お子さまは、日本でトンボ帰りの仕事がある時はお母さまの世話になったとのことです。15時間かかるため、お母さまも時差が大きくて大変だったと伺いました。
中島さんの努力はもちろんのことご家族のご協力もあったということで、自分自身の子育て時代のことを思い出しつつ、コロナの話に進みました。

このコロナ禍の一番大変な時に、NYにて経験されたお話はとても貴重なものでした。文化の違いを経験しながらいろいろな才能を発揮すべく活躍されている中島さん。8月1日より steAm online PLAY SCHOOL を開講され[注]、万博でも大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーにご就任されました。担当は「いのちを高める」(学び・遊び・芸術・スポーツ他)ということで今後のご活躍を楽しみにしています。

[注]steAm online PLAY SCHOOL 開講についてはこちら
https://www.value-press.com/pressrelease/248751

中島 さち子 氏 プロフィール
ジャズピアニスト・数学研究者・STEAM 教育者・メディアアーティスト
(株)steAm 代表取締役、(株)STEAM Sports Laboratory 取締役
大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー(「いのちを高める」)。内閣府STEM Girls Ambassador。
現在は主に音楽・数学・STEAM教育・メディアアートなどの世界で、国内外にて多彩に活動する。
国際数学オリンピック金メダリスト、ニューヨーク大学Tisch School of the Arts,
ITP(InteractiveTelecommunications Program) M.P.S.
経済産業省「未来の教室”とEdTech”」研究会研究員。
イベント情報
今回インタビューをさせていただいた、中島さち子さんがディレクターを務めるイベント「無限につづく絵を描く法則を体験しよう」が2020年9月12日の19時より開催されます。中島さち子さんのサイン入り絵本教材付きです。
【イベント名】
「数学×デザイン」エッシャーのような無限につづく絵を描く法則を体験しよう
【開催日】
2020年9月12日(土)
【タイムスケジュール】
19:00~19:40 タブレット端末をつかった子ども向けワークショップ
19:40~20:20 トークイベント「対称性と数学」「私が数学にハマった理由」
(希望者は引き続きブレイクアウトルームでワークショップができます)
20:20~20:30 みんなの作品を見てみよう

詳細は下記Peatixのページにてご確認ください。
・無限につづく絵を描く法則を体験しよう~小学生からの「数学×デザイン」 【steAm PLAY SCHOOL VOL03プレイベント】
https://sps03pre.peatix.com/

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ニューヨーク、コロナ禍の迅速なオンライン教育【前編】 ― データで示すことの重要性 ―

世界各国に多大な影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症。ニューヨーク(NY)のコロナ禍について、日本でも日々センセーショナルなニュースとして報道されていました。
今回は実際にコロナ禍のNYを体験された、ジャズピアニスト・数学研究者・STEAM教育者である中島さち子さんの生の声を伺うことができました。オンライン授業に以降した経緯なども含め、いろいろとお話を伺いました。

ニューヨークでの感染拡大

ニューヨークの街(写真AC)

上松:コロナ禍が一番すごくなる前の1月末にNYに戻られたそうですね。
中島:はい、その頃は武漢の話は知っていましたが、NY州ではNY時間の2月29日に1人目の感染者が発見された程度でして、3月頭の時点では全てはコントロール下にあると発表されていました。
(以下、NY州:https://github.com/nytimes/covid-19-data
NY市:NYC Department of Health and Mental Hygiene Daily Countsより)。
感染者がほぼ報告されていなかったこともあり、人々も2月は比較的普通に暮らしていました。NYでは「マスクは病気の人だけがする」と思われていたため、特にアジア系の人はマスクをすると逆に怖い思いをする可能性もあり、マスクはほぼ誰もしていませんでした。
中国の友人からその怖さについては聞いていましたが、まだ遠い場所のこと。2月くらいからクルーズ船の話題が出ていて日本は大変だな、とは思っていました。

2月29日から約1週間、3月7日のNY州感染者170名(NY市は26名、前日3月6日ではNY州感染者81名)時点で、NY州は非常事態宣言を出しました。その後、感染者が3月9日にはNY市105名(前日47名)時点で、早々に、州での増加も踏まえ、突如NY大学やコロンビア大学などのトップから(11日からの全クラス・活動の)オンラインへの移行案内が出ました。
当初はかなり衝撃がありましたが(急に大学のいろんな設備が使えなくなるので)、その後は文字通り爆発的指数関数的に感染者数が増えたことで粛々とオンラインへ移行しました(例:NY市では3月15日までに2989人、20日までに18281人となっています)。こうした数値増加を受け、早々にカフェなども閉まり、大学関係者も3月中旬からはほぼ外出していないはずです。大学・大学院については、ちょうど14~22日が春休みだったこともあり、ここで色んな率直な議論が双方向に(立場を超えて)かわされました。大学の寮は突如閉鎖し、寮に住んでいた海外留学生はほぼ全員、休み中に帰国することとなりました。

ニューヨークの街(写真AC)


上松:それはいきなりのオンライン移行で大変でしたね。
中島:私は最終研究を控えていたのでコロナについては戦々恐々でした。その頃はアマゾンなどはまだ機能していたので、ハンダゴテやグルーガンなどを購入し、自宅をメーカースペースへと改造しました。ただ、その後オンラインならではのいろんな実験・挑戦ができたことは、非常に興味深い部分もありました。
経済格差も大きい多様な人たちを抱えるNYとしては、公立学校を閉じたり、交通機関を閉じたりするなどのロックダウン(都市封鎖)は出来るだけ避けたいと知事や市長がかなり粘り、基本的に高校までの学校は13日(金)まで継続したのですが、その週末爆発的に増えてきたため、確か15日(日)、ついにNY市全ての学校のリモートへの変更案内がきました。また、15日夜からニューヨーク市内のレストランやカフェ、バーが事実上閉鎖(持ち帰りや配達に限定)、ナイトクラブや映画館、小劇場、コンサートホールなどは17日朝からの閉鎖がアナウンスされました。

先にも申し上げた通り、大学の寮は16日あたりで全閉鎖の予定となり、原則48時間以内の帰国命令が出て、23日までには閉鎖になりました。この週の間に、NY大学は全学部が学期最後まで全てオンラインになることも決定しました。そのため私や娘も13日以降、原則自宅にこもっていましたが、20日に、22日20時からの完全なるNY市ロックダウン命令が出ました。

オンライン教育への移行とリーダーシップの発揮
上松:さてオンライン教育はどうだったのでしょうか。
中島:オンラインクラスへの移行は全部統一的で指示が明確でした。ショップなどでも、距離は6FT以上、換気はこの規模の部屋ならば1時間に○回などの数値も根拠も明快なので、混乱が起きにくかったように思います。
政府関係者も大学も、トップがしっかりイニシアティブをとり、具体的なデータを含めたメッセージを発信し続け、一方で皆の動揺や不安に寄り添う動画やメッセージも含めた人間的なリーダーシップをとる姿も全般的に見受けられました。
学生や市民も今回は不満や反抗を見せるというよりは、具体的に次から次へと建設的なアクションを起こし、各所と議論の機会を設け、前代未聞の答えのない課題に対し、立場によらずよく考え、よく動き、よく議論し、不満や不安がどこかに隠れて溜まることがないよう、尽力したと思います。この辺りは、やはりさすがNY・・・。議論やリーダーシップとは何か、を考えさせられました。

小中高については、具体的には、全ての学校を今後オンラインに移行する発表が15日にありました。NY市は16日(月)は消毒等もあり全て休みになり、17−18日(火水):全先生がリモート対応準備・機材や体調のアンケート・課題を準備して、19−20日(木金):自宅に機材がない人はタブレットやPC、Wi-Fiなど学校まで取りに来るよう指示、23日(月)から本格的にオンラインクラス開始とスピーディでした。
上松:すごく迅速ですね。
中島:そもそも、以前から例えば中学校では宿題などでGoogle Classroomなどは使っていた&デバイスも学校に十分あるため、最終的にあまり混乱はなかったように思います。小学校低学年はタブレット活用が進んでいますね。
なお、プライベートの生活も楽しむアメリカ!ですので、先生方はICTを使って効率的に過ごし、こどもたちと同じタイミングで帰宅されている方が多いですね(笑)。欠席・遅刻の場合も自動で記録され、留守電も自動的に入ります。うまくICTを使っているという感じがします。
授業や課題でも、先生方がオンライン上で誰でも使えるようなもの、例えば「myON」「BrainPop」などを使っていました。

MYON(オンライン図書館):https://www.myon.com/index.html
BrainPop(オンラインのポップな学びリソース):https://www.brainpop.com/

これらは学校から無料のIDが与えられるのでログインすると、履歴はGoogle Classroomとも連携します。課題も、ほぼオンラインベースなので、膨大な紙を使うことはありませんでした。学校や家庭は無料で面白い動画や知財にアクセスできるので先生もカスタマイズして自由に使っている。そういう意味では、比較的スムーズにコロナ課題に対応出来たのではないかと思います。もちろん、対面とは全く異なりますが・・・。
また、内容は日本に比べるといい加減?なところもあったり、やっぱりそれでもオンラインに慣れない(特に数学)先生がいて色々別のZoomの部屋に入ってしまったり(笑)、普段の授業でも先生の目をかいくぐってYouTubeを見てたら突然音が出てしまって怒られたり(笑)、決してみんな完璧ではありませんし学校やクラスによる違いもあると思います。が、全体的な動きについては、例えば今回は市などが明確な指示を出しデバイス郵送などは一括して自治体が行ったため、学校や先生に判断・対応などが任せられることが少なく、貧しい方への配慮もしっかりあったので、そうした動きはとても良いと感じました。
ただでさえ、コロナやそれに伴うイレギュラーな対応、不安、悲しみなどで誰しも心身まいりやすい時期に、このように各所各所が(立場によらず)リーダーシップを発揮し、しっかり社会全体で乗り越えようとしたことは、本当にすごいことだと思いました。
上松:リソースはすごいですよね。米国に居る時にパブリックライブラリーに行ってそう思いました。
中島:電子的なリソースもありますが、例えば、NYでは貧しい方(移民の方々を含む)も多いため、学校の朝食昼食を頼りにして親が働かざるを得ない子どもたちが集まる場は、Social Distanceの上でも公的に用意・配布されていました。自由の街ですが、多様性溢れる街だからこそ、そうした社会的に弱い部分は統括して社会全体で協力しあう文化はあると思います。

NYパブリックライブラリーの様子

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オンライン授業で行うプログラミング教育

コロナ禍で注目されているオンライン教育。ところでプログラミング教育については、オンラインブームの中どのような取り組みで進めているのだろうか。
今回は、BS日テレやHuluのプログラミング番組に御出演されていらっしゃる安藤先生にオンライン教育やプログラミング教育のお話を伺った。

AIを学ぶプログラミングを授業で行っている安藤先生


上松:先生は青山学院の高等部と中等部の授業を持たれていらっしゃるんですよね。
安藤:はい、青山学院中等部・高等部の生徒には1週間に2回、AI(人工知能)と情報を教えています。

上松:プログラミングができてもAIを教えられる人はとても少ないのですよね。
安藤:中学の先生でAIの授業は聞いたことないですね。自分は授業でPythonを使っているのですが、Pythonはライブラリーがすごくて関数が豊富にあり、Rとの連携もある。PythonはGoogle Colaboratoryを使えば、HTML5ベースの環境で作れますし、言語的にはPythonは簡単なので、入門としては生徒に良い環境を提供できます。
上松:海外だと小学校でPythonをやっているところもあるんですが実際、先生方には難しくないでしょうか。
安藤:はい、やはり最低限の知識は必要ですが、先生方にはPythonを是非覚えてほしいですね。
上松:小学生からやっているのとの違いってありますか?
安藤:自分は小学校の時にパソコンは無かったのですが、高校の時に親に買ってもらったのがきっかけです。当時としてはとても高かったのですがシャープのX1を買ってもらったんですよね。親に理解があったというか、今でも何で買ってくれたかわからなかったけれど買ってくれた。それで最初は意味がわからなかったけれど本を買って写経のようにプログラミングを覚えたのが最初です。
大学では、COBOLやFORTRANの授業があって、その時にプログラミングの基礎が培われたのだと思います。高校の教員になってからは、入試のシステムのマークシートリーダーの制御とか、時間割のシステムとか高体連の速報のシステムとか勝手に作りました。自分はプログラミングをやるうえで常に目標がありましたね。

目標さえしっかり持てば小学校から始めようと中学から始めようと、プログラミング上達にはあまり関係ないと思います。

こんな感じで教員生活の殆どをプログラムばっかり組んでいて、ただの変わり者だったけれど、時代が追いついてきたというか、最近になって周囲が理解してくれるようになりました。
また、プログラミングのおかげでテレビのオファーが来て番組の講師もすることができました。趣味が仕事になりました。

プログラミング教育をオンライン教育で行うメリット
上松:すごいですね。プログラミングが好きだった感じですね。
安藤:自分は独学でやってきたから、プログラムが動かなかったとき、デバッグするのが大変でした。ただ、同じ学校の先輩で凄いプログラマーがいて、その人に聞けるのが救いでした。
上松:プログラミング教育をオンライン教育でやるメリットってありますか?
安藤:オンラインでプログラミング教育は、優秀なプログラマーを発掘するきっかけになればいいと思っています。また、オンラインならば先生を選べるのがメリットであると思います。
未踏ジュニアや情報オリンピックに出ているような子供たちは教わるのではなく、自分でどんどんやっている。最後は才能とかセンスであとは努力がありますね。

プログラミングは暗記ではありません。わからなくなったらネットに書いてあるのでそこを調べる能力が必要です。ただ、高度なアルゴリズムだと動かなかったり、無限ループに入ってしまい原因がわからなかったりすることがあるので、そういう時に先生は助けてあげればよいかと思います。

最初に教わった先生で生徒に教える影響が違うと思っています。
「こんな簡単にこんなことができるのか!」と思ってもらい、目標をもたせることによって、プログラミングをできるためにプログラムを勉強しているのではなく、目標を達成するためにソースコードを組みプログラミングを勉強するということが大切です。
上松:確かに海外だと、ゲームを作る時に模造紙みたいなものに書いてキャラクターを決めたり、どうやるとクリアする、最終的にはどうするかを決めたりそれを実現するために、言語を決めるということをやっています。写経みたいな授業ってどう思われますか?

安藤:写経もあってもよいです。高校のとき、Oh!Xの雑誌を写経して、そこでデバッグを覚えました。写経は何百行何千行とやりました。ゲームをやりたいという目標があったからです。プログラミング学習を継続させるには個々の目標設定、モチベーションを上げることがとても大切だと思います。

コロナ禍の影響で休校となり、オンライン授業が増えたため、大学の先生方と毎週オンライン研究会をしています。オンライン授業はやはり双方向性でやることが重要なのだと再認識しました。その研究会で学んだことを授業にフィードバックさせ、実際の授業ではサーバーを立てて、マインクラフトの中に生徒一人一人のキャラクターを作り、生活しながらプログラミングをする環境を子供たちに与え、モチベーションを上げました。
ある面では対面授業よりもオンライン授業の方がパフォーマンスがよいと実感できました。

オンライン授業を生配信で行うメリット


安藤:オンライン授業を双方向性で行っている先生は、全国的には実際かなり少ないのではないかと思います。ネットで何十人もの先生方に相談を受けています。
上松:最近はオンライン教育ばかりに目が行くので、プログラミング教育はどうなっているのと聞かれることがあります。朝の会でZoomに繋がるのが精一杯って聞きました。

安藤:これからはどっちみち1人1台のパソコンを持つのですから、Zoomなどを使って、勝手に子供たちの間にゲーム感覚でプログラミングが広がっていくと思います。逆に先生方は、子供たちの方が出来るようになるので、大変になるかもしれません(笑)
上松:確かに生配信だったらちょっと間があいたり言い間違ってもそのまま修正なしで流れてしまいますし、生配信でやるより編集できますからしっかりしたものができますよね。また、何回も撮り直しできますからクオリティも高くなりますよね。
安藤:双方向性のオンライン授業はプログラミング教育にとって大事な要素だと思っています。
唯一のオンライン授業の欠点は、実習実験ができないことです。知識を与えるだけの一方的な授業だったらオンライン授業で十分だと思います。
オンライン授業の長所と短所を使い分けることもプログラミング教育にとって大切なことですね。

安藤: まもなく高校で情報Ⅰ・Ⅱがスタートします。そのための教師教育、情報の先生が受講できるオンライン動画を撮影しています。
またYouTubeのチャンネルを複数持っています。動画を通して多くの先生に「主体的、対話的で深い学び」の教育の形を伝えていきたいと思っています。

上松:安藤先生は先生方の参考になりそうです。もうブームになりそうですね。
安藤:コロナ禍で巻き上がったオンライン教育ブームが一過的なもので終わらないと良いと思っています。


オンライン教育を一過性のものにしないために
今回のインタビューでは、安藤先生の「オンラインであればよい先生からの授業も受けられるし良い関わりができる」というのが印象に残った。
コロナが収まればまた紙と鉛筆、黒板とチョークに戻ることのないように、安藤先生に色々とオンライン教育のノウハウを伺っていきたいと感じた。

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コロナ禍でもオンライン教育で学びを止めない! -新型コロナウイルス(COVID-19)に対する那須町の事例

コロナ禍でも、休校によって学びを止めることがあってはいけない。また、学校が再開し平常授業に戻っても、次の波に備えるための取り組みが必要である。
今回はそんな取り組みを続けており、筆者も大変興味を持った、那須町の事例をご紹介したい。

栃木県那須町にあるレジャーランド、那須ハイランドパーク

那須町は栃木県にあり、那須御用邸や温泉リゾートなどが有名なところである。現在は学校の統廃合が進み小学校6校・中学校2校があり、県立高校も1校ある。今回はそこで、那須町教育委員会学校教育課プログラミング教育推進スーパーバイザーの星野尚先生にお話を伺った。
まず、星野先生は5月11日にオンラインで文部科学省がとても強いメッセージを出していたことに触れ、
「私がこのメッセージで感じたのは『文科省が後押しをしてくれている』という気持ち。その上で『出来ることから1つずつやっていきましょう』と呼びかける思いを感じました。」
と語った。
このメッセージというのは「ICTを使わない自治体に説明責任が発生する」「この非常時にさえICTを使わないのはなぜ?」というメッセージのことである。
※この文部科学省のメッセージに関する筆者の記事はこちら。

オンライン教育に舵をとったきっかけ
オンラインへの対応を検討しはじめたのは、2月下旬の休校要請が出る直前だったという。早期に検討を始めた理由は、現実に休校となれば長期化する可能性があったため、学校と子どもたちのコミュニケーションをいかにして確保するかが重要であると考えたためだという。
「実際に3月に休校がスタートすると、コミュニケーション手段として必要なオンライン会議システムやクラウドサービスの支援プログラムを申し込みました。さらに教職員向けの緊急ICT研修会を実施することを指導主事が決めてくださったので、私の方ですぐに活用できるポイントを絞った資料を半日ほどで作成し、体験重視の研修で各校を回り始めました。」

「文科省のメッセージが出されたのは5月11日で、それまでに(2月下旬~4月にかけて)やってきたことを【追認】してもらった、という受け止めをしております。
取り組みを続けていた自治体からすると、このメッセージは文科省の後押しとして機能していたと考えております。」
文科省のメッセージは、取り組みを推進する上で大きな意味があったという。実際、このような文部科学省側のメッセージが出たにも関わらず、オンライン教育を行わないで休校としていた所が多く、横並びになっている状況だったからだ。
そもそも星野先生は、教育委員会とは学校現場の取り組みを認めて、それをサポートすることが大事だと考えている。
「デジタルかアナログか、オンラインかオフラインかではなく両輪で行こうと考えました。何もしないことは格差につながることになるからです。できない理由を考えるのではなくどうしたらできるかを考えるということです。」
このように規制をかけて止めるどころか、現場からの提案を受け入れ、必要なしくみを検討して実行に移すということもしていた。あくまで現場目線なのである。他の自治体と同じく通信環境の不足もあったが、様々なコミュニティにアンテナを張り、民間企業の支援によるモバイルルーター貸し出しも期間限定ながら実施したという。こうした取り組みは貸出数が限られており早い者勝ちになってしまうので、迅速な判断が求められることが多い。

メーカー提供のモバイルルーター。15台を1ヶ月間無償で使用することができたという。

まずは教師へのサポート体制を確立
先生方へのサポートもあった。
「休校期間中にGoogleチャットで何でも相談ルームを作って以来、色々熱心に研究されている先生からの質問が絶え間なく飛んでくるようになりました。ほとんどの質問はその日の内に解決しているので、先生方も悩む時間が減って喜んでいただけているようです。
画面を見ないと解決できないことはZoomで接続して画面を映しながらサポートすれば、10分もせずに解決しています。
現場に行って先生方と話をしていると、『民間から教員になった方でICTには自信があったのに、設備が不十分で思ったようにいかないことが多くて、忙しさに流されてしまい遠ざかってしまった』と悩みを打ち明けてくださった先生もいます。相談してもらえればある程度解決できることもあるので、先生方とのホットラインは大切だと感じています。」
実際、そのほとんどの問題がその日の内に解決とは素晴らしいことである。

デュアル・クラウドでトラブル回避
筆者が驚いたことは校務の情報化や学びの場として使うクラウドに関して、デュアル対応していたということである。理由としてはトラブル予防のためということであるが、クラウドシステムの安定性は高いとはいえ、絶対に停止しない訳ではないので、デュアル・クラウドにしておくことで学びのインフラを多重化して、万一の際に対応ができるように備えることを想定しているという。
「クラウドの活用は試行錯誤中ですが、学習用にはG Suite、校務用にはMicrosoft365、と使い分ける方向性で検証・検討しています。万一の際は転用することも想定しています。今後も双方の柔軟な活用をしていく予定です。」

「各家庭で保有している様々なタブレットやスマートフォン端末へ、実際に学習用のG Suiteのアプリをインストールし設定する作業はなかなか大変です。兄弟姉妹がいるケースですと、1つの端末のGoogleクラスルームに複数のG Suiteアカウントを設定して切り替えて使えるのですが、そもそも個人で使っているとアカウント切り替えなどやったことが無い方がほとんどです。ですので、保護者向けに端末へのアプリインストール設定会やICT勉強会を開き、積極的にサポートを進めている小学校もあります。私もそういった現場でのサポートに関わっています。」
「特に頑張っている那須中央中学校は登校が再開された後にも、1人の先生がLTEのiPadでしている授業を他の2クラスにZoomで配信し、フィードバックはロイロノートを使って問題なく授業が出来ることも実証されていました(文部科学省の教育課程特例校の指定を受けた那須町の独自教科『NAiSUタイム [下記枠内リンク参照]』の防災学習での実践です)。この独自教科は、文部科学省の教育課程特例校の指定を受けて実施しています。

・教育課程特例校について:文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokureikou/1284969.htm
・教育課程特例校一覧(令和2年4月時点)※Excelファイルがダウンロードされます。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokureikou/__icsFiles/afieldfile/2020/20200421_mxt_kouhou02_1284967_01.xlsx

他にも、クラスを2つの教室に分けてその間をGoogle Meetで結び、授業の様子を工夫して配信することを実施している小学校もあります。授業参観においてもZoomによる配信で密にならないよう、同様の取り組みも実践されています。こうした取り組みを通じて、授業参観に来られない保護者向けにオンライン授業参観が可能であることへの気付きも得られているようです。」

那須町立東陽小学校三森沙希子先生のZoomによる実践(オンライン学活)

コロナ禍での対応も素晴らしいと感じた。
3月には臨時休校対応臨時校長会を実施し、Zoomオンライン会議体験を。4月の中旬にはオンライン朝の会を(学級会をオンラインで)実施したという那須町。星野先生のお力も大きかったのではないかと想像される。

【オンライン朝の会】とちぎテレビ
https://www.tochigi-tv.jp/news2/stream2.php?id=6149452309001
最後にインタビューを受けている先生は学習指導部の先生。まなびポケットのスクールタクトやGoogleクラスルームをはじめとする様々な取り組みを研究して進めているそう。

星野先生のお言葉でとても印象に残ったことがある。
「特別支援学級の子の話がオンラインセミナーの動画の中に出てきますが、Zoomでつながったことが登校日に学校へ行くモチベーションになったエピソードは、本当に大きな意味があると思っています。」
実際、不登校の児童がオンラインになって発言が積極的になった事例や、皆が休校になったことから週1の分散登校に出ることができるようになったといった事例が全国にある。

セキュリティに対する考え方
オンライン教育というと、セキュリティ面を危惧する声もある。いろいろと心配してできないことも多いという声も少なくない。
その点について星野先生は
「セキュリティ という言葉で思考停止しないことです。2019年12月文部科学省の情報セキュリティポリシーガイドラインが出されており、クラウドバイデフォルトという考え方に基づいて今後のセキュリティ対策を考えていく必要があります。具体的に何がリスクなのかを認識して、そのリスクを回避して安全に使っていくことを考えるのが大事だと思います。100%安全ということはありませんので。」

確かに100%を考えたら車にも飛行機にも乗れない。ゼロに近づける努力はしっかりするということで、メリットが多いオンライン教育での学びを止めないということは大切だ。格差が広がらなくなるという利点もある。

最後に星野先生は、海外では多く見られるBYOD (Bring your own device)についてこう話された。
「那須町の中では、一部で試験的ではありましたがBYODへの取り組みを実施していました。自宅の端末を授業に使うという挑戦を、現場の先生が実践してくださいました。現在も宿題をオンラインで出して、自宅の端末で取り組んでいる生徒さん、学校からの貸出端末で取り組んでいる生徒さんがいます。」
教育委員会が先見性を持った視野で現場をサポートする姿勢、ここが那須町のオンライン教育の強みの背景にあることは間違いない。

教育連載コラム―未来への戦略-

フィンランドの学校教育3 -緊急事態宣言後の教育と家庭の変化-

今回も前回に引き続き、フィンランド在住のロミさんとのインタビューの続きをお届けする。新型コロナウイルス感染症の拡大に対して、オンラインの遠隔授業、定期テストのオンライン化、家庭の通信環境への手厚い整備など、様々な対応が行われたフィンランド。保護者の反応はどうだったのだろうか。第2波、第3波に向けた今後の方向性も含めてご紹介する。

フィンランド政府の学校教育方針に対する反応
遠隔授業への移行と終了、対面授業の再開
ロミさん:緊急事態宣言を出す前まで、政府はフィンランドに多い共働き家庭に配慮して学校を継続すると言っていたのですが、私の印象では、それで子どもの健康や安全が守れるのかと不安視する声も小さくなかったように思います。ちょうど北欧ではデンマークが国境封鎖や休校を決めた頃で、国内でも遠隔授業への移行を独自に決定した自治体がありました。そうした動きがどれだけ影響したかはわかりませんが、結局、大半の児童生徒が遠隔授業に移行することになりました。国の調査によると、1~3年生の登校率は約10%だったそうです[6]。
その後、感染防止対策が功を奏して状況が落ち着き始め、遠隔授業を続ける法律上の根拠がなくなったとして、5月13日で小中学校の遠隔授業は終了し、14日から対面授業が再開されました。ヘルシンキの場合、当日は9割以上が出席したとのことです[7]。小中学校以外の教育機関はそれぞれの判断で授業形態を決めてよいことになり、娘の高校では引き続き遠隔授業が続いています。
フィンランドでは6月から夏休みに入るため、遠隔授業もうまく行っている中で、たった2週間ほど登校する意味はないのではないかという声は、家庭からも、教育現場からもかなり出ていたと思います[8]。学校でいじめられていた子が遠隔授業になってむしろ生き生きとし始めた、などの報道も出ました[9]。
その一方で、問題のある家庭から出られない子どもたちに対応する必要性なども論じられました[10]。私の子どもに限っては、息子は通学できなければ先生やクラスメートにも会わないまま中学を卒業し、義務教育を終えることになっていましたので、通学することは無意味ではなかったと思いますが、子どもを通わせて大丈夫かという心配は、親としては当たり前のことだと思います。

実際、学校が再開されてわずかの間に、全国で突出して感染者が多いヘルシンキとその近郊では、子どもたちから数人の新たな感染者が出てしまいました。ウイルスは学校外から入ったものという調査結果でしたが、接触した教員や子どもたちは再び遠隔授業に戻っており、感染児童が出た学校では、出席を控える子どもも出ているようで、本当に厄介なウイルスだと思います。

第2波、第3波に向けた今後の方向性
第2波、第3波が来るかどうかは専門家の間でもはっきりわからないようですが、ウイルスが消滅する兆しがないことは確かなようです。他の多くの国々と同様、フィンランドでも強硬な制限を長く続けることは不可能ですので、検査キャパシティを拡大し、制限が緩和されて感染が出た場合でも可能な限り早期に対応できるような体制を整えようとしています。
今のところ、フィンランドでは検査や治療が受けられないという不安は少ないように思いますが、秋以降の状況によっては、再び遠隔授業を行うことも検討されているようです。

家庭における変化
上松:お子様方の学校は新型コロナウイルスでどんな変化がありましたか?
ロミさん:政府の方針や保健当局の指導に従い、自治体、学校レベルでの対応を取っていると理解しています。実は、娘の学校(小中高の総合学校)では2月下旬に全国で初めて小学生の感染者が判明し、緊急事態宣言が出る前から、小学部の校長が医療関係者と物々しい記者会見をしてテレビで放映されたり、接触のあった児童が検疫の対象になったりしていました。検疫対象者以外の児童生徒は登校しなければならず、高校生の娘は試験前で毎日登校する必要はなかったものの、親子とも正直おっかなびっくりではありました。もちろん、学校が大学病院と作成した安全に関する通知などは娘に来ていましたし、緊急事態宣言が出る頃には該当者の検疫期間も終わり、新たな感染が見つかることもありませんでした。私個人も、そんな前振りがあってから全国レベルの緊急事態に入ったので、すでにこの状況に対して多少の耐性はついていたかもしれません。
上松:普段の学校生活とは異なった生活で、保護者のロミさんからみて、お子様たちは、家でどのような様子でしたでしょうか。

ロミさん:これまでとは生活が変わり、特に娘は進路にも影響するタイミングで、ストレスや緊張感はあっただろうと思いますが、生活自体は淡々としていました。日中はそれぞれ自分の部屋でオンライン授業を受け、親も在宅勤務、小さい子どもではないので親が進み具合をチェックしなければならないような場面は一切ありませんでした。
一度、息子が家庭科の調理実習でマンゴーラッシーを作ってくれたので、先生の指示に従って保護者からのフィードバックを提出したことはありました。美味しくできたか、調理器具や食器の扱いや後片付けなどをコメントしたと思います。この課題のメニューは「世界の料理」というテーマで本人が自分で考えたものだったようで(一種の献立計画というものでしょうか)、後でクラスメートの親御さんが、また違うメニューをフェイスブックに載せていました(笑)

学校以外の時間はお友達とのオンラインミーティング、ジョギングやサイクリング、犬との散歩やドッグスポーツのトレーニング(フィンランドでは、緊急事態宣言下でも屋外活動は禁止されませんでした)、ゲーム、お菓子作りなど、どこにでもいるフィンランドの若者のライフスタイルを楽しんでいるようには見えます。息子は楽器を習っていますが、そのレッスンも先生とオンラインでやっていたようです。それでも、普段より家にいる時間は格段に長くなったので、夕食後などによく家族でゲームをするようになりました。親にとってはむしろ貴重な時間かもしれません。

ヘルシンキ市内の自然保護区。コロナ禍の間もにぎわっていたエリアの一つです

学校の新型コロナウイルス対応への評価
上松:最後に、新型コロナウイルスに対応する学校や先生方に対してはどのような印象を持たれていらっしゃいますか?
ロミさん:もともとICTを利活用してきた環境があったとはいえ、学校の緊急時対応はとても迅速で、遠隔授業への移行もスムースでまったく危なげはなく、とても感謝しています。同じ学校に子どもを通わせている他の親御さんの間でも好評だったと思います。政府が対面授業の再開を決めてからも、再開に向けて、自治体の教育当局や現場の先生方が連日遅くまで計画を練っていたというニュースが出ていました。
再開日の5月14日には、たまたま息子の学校の教頭先生が公共放送のコロナ特別番組に出演し、いろいろなインタビューに答えていました。その中でも「子どもたちと再会できてうれしかった、ハグできないのだけが辛かった」とおっしゃっていたのが特に印象的でした[11]。子どもたちへの愛情と教育への熱意を感じるインタビューで、全国的にも評判がよかったようです。

ロミ氏の息子さんが通う中学校。併設されている高校部は遠隔授業を継続中。撮影:Visa Lommi

娘は19歳ですが、フィンランドでは成人の18歳を迎えると、法律上の親の責任がなくなる代わり、高校生といえども親が子どもの学業に介入することはできなくなります。娘が未成年であれば何らかの連絡が来ていたと思いますが、今回もコロナ関連の連絡は一切ありませんでした(笑)学校に対しても、娘に対しても、何ら不安感はありませんでしたが。
上松:ありがとうございます。
以前も何回かフィンランドを調査訪問し、長い調査では一ヶ月くらい滞在しましたが、本当に今回、新型コロナウイルスの対応についてもお話を聞くことができて感謝です。これから日本で子どもたちに感染者が出ないようにICT化を進めていかなければならないと思いました。それだけでなく、ただテキスト通りに調理実習するのではなく、献立計画からという能動的に学ぶ教育スタイルも時代に沿ったものだと感じました。

Makiko Lommi(ロミ眞木子)氏 プロフィール
東京生まれ。大学卒業後、金融機関勤務、リトアニア留学、ビリニュス大学東洋学研究所非常勤教師を経て2001年よりフィンランド在住。2009年よりLogos Helsinki主宰、通翻訳・リサーチ業務などに携わる。フィンランド政府公認翻訳者、コミュニティ通訳者、公認ガイド。
https://www.logoshelsinki.com/
https://www.instagram.com/logoshelsinki/


参考サイト
[6] Helsingin Sanomat 2020年3月23日:https://www.hs.fi/politiikka/art-2000006449618.html
[7] https://www.hs.fi/kaupunki/art-2000006509500.html
[8] https://www.mtvuutiset.fi/artikkeli/minun-lasteni-kustannuksella-ei-leikita-venalaista-rulettia-vanhemmat-kertovat-miksi-heidan-lapsensa-jaavat-kotiin-kun-lahiopetus-taas-alkaa/7809156#gs.6o1c4k
[9] https://www.hs.fi/kaupunki/art-2000006481363.html?share=0bd94a6c0660e68e018479ef8454ceb3&fbclid=IwAR028CF9mpjeW2W3HHIRkSo6DVo4xkexuQAhUHAZCKBBbKmWA_JP7l2yLIo
[10] https://www.etk.fi/blogit/korona-ei-kohtele-lapsia-samalla-tavalla/
[11] https://areena.yle.fi/1-50504684

教育連載コラム―未来への戦略-

フィンランドの学校教育2 -日本との違いとコロナ禍における政府の対応-

前回の記事に引き続き、今回はフィンランドの学校教育についてロミさんとのインタビューを通し、新型コロナウイルスの対応やオンライン教育、大学入試等も含めた具体的な内容を紹介する。

フィンランドと日本、教育面の違い
上松:まずはお伺いしたいのですが、色々な国がある中で日本からフィンランドに渡りお住まいになった理由を教えてください。
ロミさん:リトアニア留学中に現在の夫と出会い、結婚に伴って2001年にフィンランドに移住してきました。それ以来、ヘルシンキに住んでいます。高3の娘、9年生(日本の中3)の息子の2人の子どもがいます。


上松:なるほど、教育面で日本との違いってどんなものがありますでしょうか。
ロミさん:違いはいくつかあると思います。まず公教育は給食も含めて無償で、塾がないこと(大学入学のための民間の予備コースなどはありますが、日本の受験産業に比べれば遥かに規模の小さいものです)。先生の資格要件も異なり、小学生のクラス担任は教育学修士、中高生を中心とする科目教員は自分の専門分野の修士号を取得した上で教員養成課程を履修し、修了後は各自で求職活動をして教員となります。フィンランドの学校は9割以上が公立ですが、いわゆる公務員試験のようなものはなく、先生自身が希望しない限り転勤もありません。教科書の検定はもう数十年前に廃止されており、実際の授業で使用する教材の選択や授業の進め方もついても、先生の職務の一環として大きな裁量が任されています。
現行のコアカリキュラムに基づく大きな概念としては、教室での勉強だけに留まらない学習環境全体への配慮や、生涯を通じた学びを見据えた「学び方を学ぶ」という考え方が重視されてきているのではないかと思います。先生方の役割も、知識を伝達するだけの一方通行の授業ではなく、子どもたち一人一人が自分の適性に応じて学び、学校を離れた後も自分が納得する道を歩んでいけるように支援していくことへと変化してきていると思います。
個々の児童生徒の学習や学校生活を支援するために、先生方は日常業務の中でさまざまな手法を駆使しており、より厚い支援が必要な場合は、行政上の決定なども行った上でリソースを確保しています。また、学校には保健師、スクールサイコロジスト、スクールソーシャルワーカーが在籍し、最近は青少年指導員を雇用している学校も出てきています。

フィンランド首都圏の公立校より。ユニークな外観や近隣の自然を生かした教室づくり


コロナウイルス感染拡大時における政府の対応
上松:わー、それはとても違いますね。私が気になるのは新型コロナウイルスの対応です。
政府はどのような対応を取ったのでしょうか。たしか首相は女性ですよね、国民の信頼は厚いようにマスコミでは報道されていましたね。
ロミさん:昨年暮れに、34歳のサンナ・マリン首相が就任しました。連立政権の与党党首5名が全員女性(うち4名が30代)、内閣全体でも半分以上を女性大臣が占めるということで、世界的にも大きな話題になりました。新内閣発足早々、新型コロナウイルスの世界的流行という事態に見舞われましたが、未知の新型ウィルスに真剣に対処する姿勢を見せてきたと思いますし、ここまで何の問題もなかったとは言えないまでも、感染の第1波は巧みに乗り切ってきたのではないかと思います。人命を第一に、リーダーシップ、専門家との連携、そして高齢者や弱い立場にある人々への共感や配慮を示したことで、信頼を得たと言えるかと思います。

フィンランドでは3月中旬に歴史上初めて緊急事態宣言が出た後、4月下旬に当面の流行が一応のピークに達したとされ、現在は夏場に向けて、いろいろな制限を段階的に緩和していく方向に向かっています(5月25日現在)。
ですが、今後このパンデミックがどのように推移していくかはまだ誰も正確には予測できないと言われていますし、経済的なダメージなどもあります。これからも現在進行形で動向に注目していく必要があると思っています。

昨年秋に国会議事堂前で行われた、若者の気候変動デモ。先生の引率でクラスぐるみで参加した保育園児や小学生などもいたようです。

学校教育に対する政策
上松:政府は学校教育についてはどんな政策をとりましたでしょうか?
ロミさん:まず、3月はフィンランドの教育制度の中で唯一の全国一斉試験である、大学入学資格試験(en: Matriculation Examinations, fi:Ylioppilastutkintokokeet)があったのですが、感染拡大を見込んで、すでに緊急事態宣言が出る前から一部の試験を1週間前倒しで実施することが発表されていました。進路や将来にも影響する、フィンランド人にとっては重大な試験なのですが、ちょうど試験を受けることになっていた高3の娘のスケジュールも直前になって変わってしまい、泣かされていました。
何とか気を取り直して準備を進め、一応は納得のいく成績が取れたようですが、今回の試験は急な変更で受験者への負担があまりにも大きかったということで、希望者には再試験も行うという措置が発表されています。
ちなみに、この試験は数年前に電子化が完了し、フィンランドの高校生は入学時からノートパソコン必携となっています(高校になると教材は自己負担となるため、ノートパソコン、関数電卓ソフト、教科書などは家庭で購入する必要があります。学費や給食は引き続き無償)。試験会場では自分のデバイスを使用しますが、試験のために開発された「Abitti[1]」というシステムを通じ、インターネットを介さない形で試験を行います。普段の定期テストでもこのシステムを使って、使い方に慣れていくそうです。
ここ数年、大学入学制度も改革が行われているところで、現在は、成績次第では大学が行う入学試験を経ずに、この大学入学資格試験の結果で入学できる枠が大きく拡大されているところです。

2019年初旬の保護者説明会で紹介された、大学入学資格試験の様子

緊急事態宣言が出てからは、小学1~3年生の希望者、支援を必要とする希望者以外は、3月18日から5月13日までの間、オンラインの遠隔授業に移行しました。学校教育の実施は自治体の管轄となるため、授業に関する実際の細かい手配は、自治体や各校、現場の先生方に委ねられたことになると思います。
全体としては、遠隔授業はうまく実施できたと評価されているようです。ヘルシンキ市が子どもたちに行ったアンケート調査では、子どもたちは教員からサポートが得られ、家庭も積極的に協力し、宿題の量も適切だったという結果が出ています[2]。授業以外にも、子どもたちの在宅による家庭の負担を少しでも軽減するため、希望者には何らかの形で給食(食事のほかにも、自宅で食べられる、給食の代替になる食品や食材など)も提供できるよう、各自治体・各校で工夫して徐々に手配が進められました。
実際の授業は、すでに長らく整備されてきたICT環境を活用したもので、遠隔授業の基盤は初めから確保されていたと思います。子どもたちに普段の授業で使っているツールを聞いたところ、
・息子の中学校はGoogleベース(Google Classroom, Google Meet, Google Docs)
・娘の高校はMicrosoftベース(Office 365, Microsoft Teams)
*会議ツールではマイクを使用したものの、カメラはONにする必要なし。

また2人とも、
・学校との連絡には、「WILMA」というフィンランドの学校で広く使用されている専用アプリ
(子どもが未成年の場合は保護者にもアカウント配布)
・クラス内の情報共有にはWhatsAppを使用している
ということです。
さらに、今回は定期テストもオンラインで行ったそうで、これは2人とも初めての経験だったようです。使用したのは、教科書や教材(デジタル・紙)を作っている大手出版社が構築したオンライン試験システムとのことで、特に娘が使用したシステムは、本来は有償サービスのところ、今回のコロナ禍の影響で出版社が無償で提供したものだったとか。実際のテストは、学習内容に沿った先生の自作だったそうです。

ロミ氏の娘さんが通う高校。撮影:Sampsa Lommi

家庭の通信環境ですが、インターネットがユニバーサルサービスの一つになっているフィンランドでは、ネット環境が皆無という家庭は非常に限られていると思われますし、通信インフラの国内企業もあり、通信料金もヨーロッパで最も安い国の一つです。ただ、ノートパソコン必携の高校生は別として、小中学生は普段は家庭でのオンライン学習を求められていないため、子どもが学習に使えるコンピュータが自宅にないという家庭はあったようです。その場合は自治体や学校によるデバイスの貸与や[3]、地方の篤志家が地域社会に呼びかけて、地元の小学生が使うためのパソコンを数十台寄贈したといったエピソードも聞かれました[4]。また現在も、不要になった企業のコンピュータや寄付金を募る全国規模のキャンペーンが行われています[5]。
上松:なるほど、それはすごい。日本とは違いますね。保護者はどんな反応だったのでしょうか。

参考サイト
[1] https://www.abitti.fi/
[2] https://www.hs.fi/kaupunki/art-2000006509500.html
[3] https://yle.fi/uutiset/3-11268348
[4] https://yle.fi/uutiset/osasto/news/good_samaritan_donates_45_laptops_to_school_children/11303892
[5] https://www.kaikillekone.fi/

教育連載コラム―未来への戦略-

フィンランドの学校教育1 -WILMAの活用

今回はフィンランドの教育事情について紹介したい。これまで筆者はイギリス、エストニア、デンマーク、オーストラリアについてこちらのモバイル教育事情にて公開している。フィンランドについてはWebメディア[1]のほか、雑誌[2]にも寄稿している。
フィンランドには毎年訪問し調査を行っているが、その際現地でお世話になったMakiko Lommi(ロミ眞木子)さん(以下、ロミさん)にインタビューする機会を得た。そこで新型コロナウイルス対策も含め、学校教育についてインタビューを行った。

フィンランドの学校
フィンランドのachievements(成果)はOECD(Organisation for Economic Co-operation and Development)によるPISA調査後、国際的な関心となっている。特にフィンランドはPISAで群を抜いた成績を収め、各国から注目を浴びている。授業を訪問し調査した全ての学校が移民を受け入れており、日本とは異なる言語や文化を持つ児童生徒が同じ教室にいるということも少なくない。


PISA(Programme for International Student Assessment):OECD生徒の学習到達度調査。


フィンランドではプログラミング教育が2016年から小学校1年生でも必修化され、各学校では2015年度から教科書のデジタル化が始まっている。新学期に間に合わなかった教科もあるが、全ての学校で教科書をデジタル端末で見ることができる。特に2015年度(新学期は秋)に高校1年生になった生徒から、学校の卒業試験は全てデジタル化される例もあるため、教室でもBYOD(Bring Your Own Device)が徐々に拡がり、多く見られるようになった。
こういったフィンランドの卒業試験などの教育改革は、1852年にフィンランドで始まった。その後の1994年、フィンランドの教育改革では、教師の修士号取得の義務付け、カリキュラム編成の変換、及び教師の裁量拡大を行った。
またAbittiという電子試験システムは、フィンランド語とスウェーデン語に対応し、フィンランドの高等学校のための入学試験委員会によって開発された。これは教師、学生、行政、研究者などが無料で登録できる。


マウヌラ校の事例
筆者がインタビューを行ったロミさんと1年に1回、2年連続で訪問したマウヌラ校[3](正式名称:Maunula Secondary School and Helsinki School of Mathematics / Maunulan yhteiskoulu ja Helsingin matematiikkalukio)について紹介したい。この学校は日本の中高にあたり、ヘルシンキ市内にあり、約800名の生徒がいる高校である。
特に数学と体育を熱心に行っているのが特徴で、例えば、数学の授業の中にもプログラミング教育を行っている。
既に述べたとおり、2015年秋から高校1年生になった生徒たちは卒業試験が全て電子試験になりデジタル化されるため、全ての教科でパソコンを使用することが日常的になっている。自分のパソコンを持参するというBYODという方式を取っているが、教室にパソコンを常備して、持っていない生徒への対応も行っている。
マウヌラ校は、2015年の秋から高校1年生全員がタブレットを使うようになったが、学校ではiPadを60台、ハイブリッドタブレット(Windows Surface)を200台所有している。この秋、高校生が120名、全員がタブレット端末、あるいはラップトップを使うようになった。

この学校は13歳から16歳まで、7年生から9年生までの国際クラスがあるということも特徴の1つである。
全ての教科を英語で学ぶというクラスでは、英語を使って数学を教えている先生にインタビューを行った。その結果、英語を使った授業には、保護者が子どもに対し高い学力になることを期待している例が少なくない、ということが分かった。また、文献の検索や情報の入手、あるいはプログラミングソフトのことを調べたり検索したりする際、フィンランド語のものよりも確率的に多くの情報にたどりつきやすく、調べ学習がはかどるといったケースが多く見られる、と述べていた。
一方で移民を受け入れているクラスも少なくないため、英語がコミュニケーションのツールとなっているといった事例が見られた。
数学の授業の他にも多くの授業中のクラスを見学した。ほとんどのクラスで生徒たちは、Web上にある宿題に自分の持っているタブレット端末からアクセスを行い、宿題を確認したり、教科書を見て教師の説明を理解しようとしたりしていた。
また教師へのインタビューでは、生徒が誤答をすることや解答した結果よりも、その思考プロセスを重視する傾向が見られた。教師が後から採点するよりも、その場で生徒が正誤をチェックする方が成績の向上が見られた例が多い、ということだった。
教材はどこの教室でも、生徒用のパソコンでもプロジェクターでも確認できる。高校1年生の授業においては自分の家にあるパソコンを持ってくるか、教室にある学校のパソコンを借りて使うかのどちらかのスタイルを取っている。Web画面にアクセスし、問題を見てそれについて考える。教師はWILMA(詳細は後述)の画面を開き、生徒の出席のチェック、成績態度の良し悪しを入力する。保護者はリアルタイムで閲覧することが可能である。

下記の写真にもあるように、教室でスマートフォンを使って、検索するということは日常的なことである。また、スマートフォンのアプリから前回の授業を確認することも可能である。

数学の授業の様子


校務支援システムのWILMAとは、学校が生徒を管理するWebベースのシステムである。また、保護者が児童の出欠席や学習の状況等、インターネットを通じて把握できるシステムでもある。
筆者が現地で授業を調査したのは2015年だが、WILMAはスマートフォンアプリもあり併用して運用されている。最近では生徒や保護者の大半がスマートフォンアプリを使っているそうだ。
WILMAのライセンスはヘルシンキ市が所有し、教師は生徒や保護者と宿題や連絡のやり取りをする。教師は常に、WILMAを介して生徒の出席状況や個人情報を把握し更新。宿題の内容については、本人はもちろんのこと、保護者も見ることができる。生徒と保護者はユーザ名とパスワードでアクセスすることができ、保護者は子どもが18歳になるまでパスワードを管理することができる。

校務教育情報システムのWILMAについて

WILMA スマホアプリ画面。右上の体温計マークをタップすると欠席連絡ができる。


WILMAについて、2015年9月11日、ヘルシンキ市内の高校教師にインタビューを行った。教師によれば、そもそも、このシステム導入は先生方の反対も多くあったという。しかし、今では出欠管理や宿題の提出トラブルも無くなったことで、結果的にはとても良かったと思っている、と述べていた。また、保護者からのクレームもなく、良いように運営されているという。
学校によっては出欠管理だけでなく、生徒同士が宿題や国語などの意見交換に使う例もある。その場合はお互いの課題を見ることも可能である。このように、WILMAはその学校のニーズによってカスタマイズすることができる。保護者はアプリを取得し、スマートフォンなどでリアルタイムに、子どもの出席だけでなく授業態度の把握をすることができる。
ここヘルシンキ市内の学校においては、一斉授業という形式よりも、授業で調べた結果をディスカッションしたり、プレゼンテーションをしたりといった問題解決能力を高める力を重視している学校が多かった。そして、PISA型読解力やその上位概念であるコンピテンシーは、ポスト工業化社会に対応した教育改革であるため、教育にいち早く取り入れている。コンピテンシー概念の中のキーコンピテンシーの枠組みは、相互作用的に道具を用いるという内容であり、ここで言う道具とはコンピューターだけでなく言語、情報、知識なども含まれている。そういったスキルを授業活動で伸ばすために、教室には必ず、プロジェクター、実物投影機といったものが常備されていた。

また、支援員や教育実習の学生が教室に出入りして、授業をサポートするのはどこの学校でも珍しいことではない。教師もそういったサポートをしてくれる人材が授業に居ることは普通のこととしている例が見られた。
次回の本コラムでは、フィンランドの教育に対する考え方と政策、コロナウイルス感染拡大への対応について 現地へのインタビューを加え掘り下げていく。

参考情報
[1] サンタの国が学校に用意する「7つのギフト」 | ブルー・オーシャン教育戦略 | 東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/254712
[2] 月刊先端教育Vol.2 40頁-41頁
連載「海外の教育事情」第02回 「教育先進国フィンランド 子どもの将来を見越した教育」
[3] マウヌラ校
https://www.mayk.fi/en/

教育連載コラム―未来への戦略-

アフターコロナもオンライン授業が当たり前の時代へ

2020年5月11日、文部科学省はYouTubeのLive配信にて説明会を行い、その中で高谷浩樹 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長から話があった。説明会の内容は情報環境整備に関するものである。
「新型コロナ肺炎は非常時、それも大震災に匹敵するかそれ以上のことであろう。前代未聞の非常時だと捉えており、そこでオンライン授業を行わない自治体には危機感がない」
と述べている。
「せめて宿題や朝の挨拶など、ネット環境でライブ配信ができるようにしてもらいたい。もしできない自治体があれば電話をしてもらいたい。」
と繰り返す高谷課長の訴えはとても強い言葉だった。
PowerPointの説明会資料でも「えっ、この非常時にさえICTを使わないのなぜ?」とか、「これからはICTを使わなかった自治体に説明責任が出てくる」「紙を配るんではなく、双方向での授業を学校現場に取り組んで頂く必要がある」「やろうとしないということが一番子供に対して罪」とまで言及している。
ネット上では賛否両論があるだろうが、1つの省が発信する非常に強いメッセージだと感じた。文部科学省だけでなく経産省からの発言もあった。

実際、これから新型コロナウイルス感染の第2波が来る可能性もあり、長丁場になってしまう場合は数年単位となるかもしれない。高谷課長の話のように、ICTやオンライン学習は学校教育の学びの一部であったとしても、ある一定の学びの保障となることは筆者も間違いないと同感している。
高谷課長の所には「いや、一律に出来ないから」「いや、ルールにそれ沿ってないから」ということで、否定されるという悲鳴が数限りなく寄せられているという。しかし、それはおかしい話であり、この今の緊急時では、しっかりとICTを使うことが大事だと繰り返し発言していた。
笑えない話として、学校がセキュリティを高めた結果、このYouTube Live配信が学校で視聴できないケースもある。高谷課長は「当然ながらセキュリティを強めれば強めるほどセキュリティは守れるが、本来の目的であったICTを使うということが全然できなくなっている。動画が見れなくなる。いろんなものが活用できなくなる。これは、最終目的ではないはずである。」との見解を示した。
また、モバイル教育のことにも言及している。
「家庭のパソコン、それから、子供本人のパソコンでなくても家族のスマートフォンを使いましょう。携帯各社さんは、25歳以下の利用者に対して優遇措置までとっていただいてます。ある物を使いましょう。」とのこと。

筆者も教育学の専門家としては、全ての学習者が等しくリアルに会って対面授業ができればもちろん良いことだと思っている。しかし、スウェーデンの学校を訪問した時、教室に出てこれない児童のために、あるいは授業をもう一度聞きたいという声に応えるためにICTを活用している事例を見た。そういった今の時代に、この新型コロナウイルスの感染が広がっている時代において、対面授業が出来ない地域があるという状況で、ICTという武器があるのに使わないでいるのはいかがなものかと思わざるを得ない。
例えば、先生が1軒1軒、紙で宿題を配って各家庭を訪問するということを行っている学校もあるが、それはいかがなことかと感じている。感染のことを考えると、先生には各家庭を訪問する過程において感染のリスクが発生する。また家庭側も、先生が無症状だとしても、感染しているかわからない状況で追い返すわけにもいかない。
ウイルスは自ら移動することはできない。人が運ぶのだ。

実際にこれまで筆者が訪問した先進国では、宿題は自治体のクラウド、または学校のウェブサイト、あるいは担任のブログやドロップボックスから簡単にダウンロードし、その提出もネット上で行うことが日常的に行われている。1軒1軒印刷した紙を持参し、各家庭を訪問するという行為がおこなわれてしまう背景には、ICT環境がまだ一部の家庭において整備されていないということが原因の1つにあるだろう。

インターネットを使ってプログラミングをしている様子(筆者撮影)


オンライン授業と言っても色々なスタイルがある。ZoomやTeamsを使った朝の会を行う学校。YouTube Liveで配信する学校。オンタイムではなくオンデマンドでいつでも何回でも視聴することができる、授業動画を撮影して配信するだけなど色々である。朝の会からずーっと1日中、オンタイムで授業をしているところもある。
高谷課長も
「毎朝、子どもたちと対面できる、双方向での授業ができる、子供の元気な顔を少しでも見る。こういうことをしっかりと取り組む、学校現場に取り組んでいただく」「保護者や子どもたちに、なぜ使わないのかと言う説明責任が生じる」
と述べている。
海外の先進国では学校や自治体が1人1台のパソコンを配るだけでなく、家庭によってはネット接続料も支払うという所もあり、オンライン授業の普及が広がっていた。学校でICTを日常的に使っているからこそ、こういった緊急時にすぐに切り替えることが可能なのだ。

インターネットを使ってプログラミングをしている様子(筆者撮影)
9月入学にすれば何もしなくて良いのではなく、次の第2波までにいかに児童・生徒が学校でも家でもどうICTを使うか、災害に備える意味合いも含めて、自治体だけでなく学校も家庭もそれぞれ工夫することも必要である。
災害に備える意味合いも含めて、アフターコロナの時代になっても、同じオフラインの授業だけという学校に戻ってしまうことがないように、ICT化を進めていかなければならないことだろう。

教育連載コラム―未来への戦略-

With コロナ時代における働き方と教育の概念変容

新型コロナウイルスの感染拡大により、インターネットを使った新しい働き方があちこちで行われるようになってきた。働くことの概念が明らかに変わってきている。
今は「三密」を避けなければならない時期。仕事の成果を可視化される今、ITが前提になりつつあり、教育観も変わり始めている。こういった時期にどういったことが変容するのか、概念や価値観の変容については意識するべきことである。
そこで今回は、キャンピングオフィスを提供したり、キャンプ用品を使った働き方などを提案している、株式会社スノーピークビジネスソリューションズの坂田さんにインタビューをした。ちなみに、坂田さんには4歳のお子さまがいる。

働き方の再考
坂田さんは
「『働くこと=会社に行くこと』と思っている人がいますよね。Withコロナの時代って、働くってそもそもなんだろうと考える良い機会ではないでしょうか。
今、キャンプ場でチームビルディングや働き方についてアイデアを出し合ってるんですが、そこでびっくりすることは、会社でしかパソコンを使えないようになっている事例がよくあるということです。
自分がアウトドアでも会議ができたのは、クラウドで仕事を集約し、そもそも7、8年前からどこからでも仕事ができる環境を作っていたから。父親であっても育休を取ることを当たり前のようにしていたんです。」
という。
坂田さんは愛知県の豊川市出身。電車やバスがなく、山に囲まれた生活をしていた。大学が東京だったので都会も経験。しかし、8年前に結婚し、思い切って山の中に土地を買って家を建てた。猪や猿、鹿も出る。鳥の鳴き声も聞こえるところ。
「インターネットがあるからここに住むことができました。リラックスしながら仕事ができます。」という。

坂田さんは、スノーピークの子会社で4年前に設立されたスノーピークビジネスソリューションズの従業員。(スノーピークは2019年、スノーピークビジネスソリューションズを完全子会社化)。
会社で1人1人コミュニケーションを取って、お互いを尊重しながら活発なチームビルディングを行っていた。チームビルディングを醸成していくうえでは、コミュニケーションテクノロジーも必須。
「チームビルディングに効果があると考えたアイデアの中の一つに、アウトドアで会議をするというものがありました。その中でスノーピークの製品には頑丈さとデザイン性に加え、永久保証があり適していました。
システム(ソフトウェア)も提供する会社ですが、システムを使うのは「人」なので、使う人たちがきちんとコミュニケーションが取れていないとシステムは動きません。システムは道具にしかすぎず、使う目的が共有されていることや、使い方の改善について積極的にアイデアを出し合ったりする風土がなければパフォーマンスはあがりません。
だから私達は「人からITを考える」というコンセプトでシステム提供を行ってきました。スノーピークはさらにその上の層にあたる「人間性の回復」をミッションとして事業を行っています。
スノーピークと関わることで、人間性豊かな人たちが生まれ、その方たちがシステムを使うことで、豊かな文明を作り上げると考えています。スノーピークはその上を行っています。アウトドアで会議をするとアイデアがどんどん出てきています。これもITを使っているおかげですね。」という。

実はインタビューにあたり、坂田さんの勤務する親会社スノーピークの会長、山井さんに聞いたところ
「初対面から、とても明るく前向きなパーソナリティ。仕事においてもシステムが仕事の問題解決にあることを理解していて、システムを超えたコミュニケーションとチームビルディングを行い、仕事をしています。」と語っていた。
しっかり仕事をこなし、会社に貢献している坂田さんなのでした。

坂田さんの思う子どもの教育方針
「ITのリテラシーを高めた方がいいですね。セキュリティに関しても重要です。SNSはテレビに出たつもりで発信の仕方に注意しなければいけません。子どもたちもテクノロジーを使いこなしコミュニケーションを取りながら、ネットで宿題を共同でやるといったことが増えてくると思います。
しかし、友達と合わずにテクノロジーで疑似体験をして、友人はネット上だけしかいない、というのは良くないですよね。そもそもテクノロジーは人間を豊かにするためのものではないかと思います。」

これから大切なこと
With コロナの時代については
「三密を避けて、いい空気を浴びること。感覚が大事ですね。
都会の生活と違うということは毎日痛感しています。都会はできるだけ毎日同じ状態になるように人工的にコントロールされていますが、ここは毎日葉っぱの色が違ったり、外の温度や、近くにいる虫も違います。地球が生きていると実感し、自分も生かされているということを知らないといけないと思いますね。環境に適応するアイデアを出さなければなりません。
そして今回も前向きでなければなりません。人間がこれまで伸ばしてきた、本来の能力が大事なんですよね。そこにICTがあることで、人間の能力をさらに活かして、仕事や生活を豊かにしていけると思っています。」
と述べている。
ICTのCはcommunication(コミュニケーション)のCであると改めて思った。

参考サイト:
株式会社スノーピーク
https://www.snowpeak.co.jp/
株式会社スノーピークビジネスソリューションズ
https://snowpeak-bs.co.jp/
【株式会社スノーピーク/株式会社スノーピークビジネスソリューションズ について】
スノーピークは「 人間性の回復 」をミッションに自然と人、人と人を繋ぐためのアウトドア用品の販売をはじめとして、様々な取り組みを行っています。
企業に目を向けてみると、社会が成熟していく過程のなかで、合理化を中心とした会社組織風土に行き詰まりを感じられている企業が一定数います。
人間が働くうえでは、合理化だけでは図れない、人間らしい感覚を働くなかに取り入れ、人間らしく働くことで、真に豊かな未来を作れると考えていたため、スノーピークはビジネスソリューションズを立上げています。