教育連載コラム―未来への戦略-

ニューヨーク、コロナ禍の迅速なオンライン教育【前編】 ― データで示すことの重要性 ―

世界各国に多大な影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症。ニューヨーク(NY)のコロナ禍について、日本でも日々センセーショナルなニュースとして報道されていました。
今回は実際にコロナ禍のNYを体験された、ジャズピアニスト・数学研究者・STEAM教育者である中島さち子さんの生の声を伺うことができました。オンライン授業に以降した経緯なども含め、いろいろとお話を伺いました。

ニューヨークでの感染拡大

ニューヨークの街(写真AC)

上松:コロナ禍が一番すごくなる前の1月末にNYに戻られたそうですね。
中島:はい、その頃は武漢の話は知っていましたが、NY州ではNY時間の2月29日に1人目の感染者が発見された程度でして、3月頭の時点では全てはコントロール下にあると発表されていました。
(以下、NY州:https://github.com/nytimes/covid-19-data
NY市:NYC Department of Health and Mental Hygiene Daily Countsより)。
感染者がほぼ報告されていなかったこともあり、人々も2月は比較的普通に暮らしていました。NYでは「マスクは病気の人だけがする」と思われていたため、特にアジア系の人はマスクをすると逆に怖い思いをする可能性もあり、マスクはほぼ誰もしていませんでした。
中国の友人からその怖さについては聞いていましたが、まだ遠い場所のこと。2月くらいからクルーズ船の話題が出ていて日本は大変だな、とは思っていました。

2月29日から約1週間、3月7日のNY州感染者170名(NY市は26名、前日3月6日ではNY州感染者81名)時点で、NY州は非常事態宣言を出しました。その後、感染者が3月9日にはNY市105名(前日47名)時点で、早々に、州での増加も踏まえ、突如NY大学やコロンビア大学などのトップから(11日からの全クラス・活動の)オンラインへの移行案内が出ました。
当初はかなり衝撃がありましたが(急に大学のいろんな設備が使えなくなるので)、その後は文字通り爆発的指数関数的に感染者数が増えたことで粛々とオンラインへ移行しました(例:NY市では3月15日までに2989人、20日までに18281人となっています)。こうした数値増加を受け、早々にカフェなども閉まり、大学関係者も3月中旬からはほぼ外出していないはずです。大学・大学院については、ちょうど14~22日が春休みだったこともあり、ここで色んな率直な議論が双方向に(立場を超えて)かわされました。大学の寮は突如閉鎖し、寮に住んでいた海外留学生はほぼ全員、休み中に帰国することとなりました。

ニューヨークの街(写真AC)


上松:それはいきなりのオンライン移行で大変でしたね。
中島:私は最終研究を控えていたのでコロナについては戦々恐々でした。その頃はアマゾンなどはまだ機能していたので、ハンダゴテやグルーガンなどを購入し、自宅をメーカースペースへと改造しました。ただ、その後オンラインならではのいろんな実験・挑戦ができたことは、非常に興味深い部分もありました。
経済格差も大きい多様な人たちを抱えるNYとしては、公立学校を閉じたり、交通機関を閉じたりするなどのロックダウン(都市封鎖)は出来るだけ避けたいと知事や市長がかなり粘り、基本的に高校までの学校は13日(金)まで継続したのですが、その週末爆発的に増えてきたため、確か15日(日)、ついにNY市全ての学校のリモートへの変更案内がきました。また、15日夜からニューヨーク市内のレストランやカフェ、バーが事実上閉鎖(持ち帰りや配達に限定)、ナイトクラブや映画館、小劇場、コンサートホールなどは17日朝からの閉鎖がアナウンスされました。

先にも申し上げた通り、大学の寮は16日あたりで全閉鎖の予定となり、原則48時間以内の帰国命令が出て、23日までには閉鎖になりました。この週の間に、NY大学は全学部が学期最後まで全てオンラインになることも決定しました。そのため私や娘も13日以降、原則自宅にこもっていましたが、20日に、22日20時からの完全なるNY市ロックダウン命令が出ました。

オンライン教育への移行とリーダーシップの発揮
上松:さてオンライン教育はどうだったのでしょうか。
中島:オンラインクラスへの移行は全部統一的で指示が明確でした。ショップなどでも、距離は6FT以上、換気はこの規模の部屋ならば1時間に○回などの数値も根拠も明快なので、混乱が起きにくかったように思います。
政府関係者も大学も、トップがしっかりイニシアティブをとり、具体的なデータを含めたメッセージを発信し続け、一方で皆の動揺や不安に寄り添う動画やメッセージも含めた人間的なリーダーシップをとる姿も全般的に見受けられました。
学生や市民も今回は不満や反抗を見せるというよりは、具体的に次から次へと建設的なアクションを起こし、各所と議論の機会を設け、前代未聞の答えのない課題に対し、立場によらずよく考え、よく動き、よく議論し、不満や不安がどこかに隠れて溜まることがないよう、尽力したと思います。この辺りは、やはりさすがNY・・・。議論やリーダーシップとは何か、を考えさせられました。

小中高については、具体的には、全ての学校を今後オンラインに移行する発表が15日にありました。NY市は16日(月)は消毒等もあり全て休みになり、17−18日(火水):全先生がリモート対応準備・機材や体調のアンケート・課題を準備して、19−20日(木金):自宅に機材がない人はタブレットやPC、Wi-Fiなど学校まで取りに来るよう指示、23日(月)から本格的にオンラインクラス開始とスピーディでした。
上松:すごく迅速ですね。
中島:そもそも、以前から例えば中学校では宿題などでGoogle Classroomなどは使っていた&デバイスも学校に十分あるため、最終的にあまり混乱はなかったように思います。小学校低学年はタブレット活用が進んでいますね。
なお、プライベートの生活も楽しむアメリカ!ですので、先生方はICTを使って効率的に過ごし、こどもたちと同じタイミングで帰宅されている方が多いですね(笑)。欠席・遅刻の場合も自動で記録され、留守電も自動的に入ります。うまくICTを使っているという感じがします。
授業や課題でも、先生方がオンライン上で誰でも使えるようなもの、例えば「myON」「BrainPop」などを使っていました。

MYON(オンライン図書館):https://www.myon.com/index.html
BrainPop(オンラインのポップな学びリソース):https://www.brainpop.com/

これらは学校から無料のIDが与えられるのでログインすると、履歴はGoogle Classroomとも連携します。課題も、ほぼオンラインベースなので、膨大な紙を使うことはありませんでした。学校や家庭は無料で面白い動画や知財にアクセスできるので先生もカスタマイズして自由に使っている。そういう意味では、比較的スムーズにコロナ課題に対応出来たのではないかと思います。もちろん、対面とは全く異なりますが・・・。
また、内容は日本に比べるといい加減?なところもあったり、やっぱりそれでもオンラインに慣れない(特に数学)先生がいて色々別のZoomの部屋に入ってしまったり(笑)、普段の授業でも先生の目をかいくぐってYouTubeを見てたら突然音が出てしまって怒られたり(笑)、決してみんな完璧ではありませんし学校やクラスによる違いもあると思います。が、全体的な動きについては、例えば今回は市などが明確な指示を出しデバイス郵送などは一括して自治体が行ったため、学校や先生に判断・対応などが任せられることが少なく、貧しい方への配慮もしっかりあったので、そうした動きはとても良いと感じました。
ただでさえ、コロナやそれに伴うイレギュラーな対応、不安、悲しみなどで誰しも心身まいりやすい時期に、このように各所各所が(立場によらず)リーダーシップを発揮し、しっかり社会全体で乗り越えようとしたことは、本当にすごいことだと思いました。
上松:リソースはすごいですよね。米国に居る時にパブリックライブラリーに行ってそう思いました。
中島:電子的なリソースもありますが、例えば、NYでは貧しい方(移民の方々を含む)も多いため、学校の朝食昼食を頼りにして親が働かざるを得ない子どもたちが集まる場は、Social Distanceの上でも公的に用意・配布されていました。自由の街ですが、多様性溢れる街だからこそ、そうした社会的に弱い部分は統括して社会全体で協力しあう文化はあると思います。

NYパブリックライブラリーの様子