フィンランドの学校教育1 -WILMAの活用
今回はフィンランドの教育事情について紹介したい。これまで筆者はイギリス、エストニア、デンマーク、オーストラリアについてこちらのモバイル教育事情にて公開している。フィンランドについてはWebメディア[1]のほか、雑誌[2]にも寄稿している。
フィンランドには毎年訪問し調査を行っているが、その際現地でお世話になったMakiko Lommi(ロミ眞木子)さん(以下、ロミさん)にインタビューする機会を得た。そこで新型コロナウイルス対策も含め、学校教育についてインタビューを行った。
フィンランドの学校
フィンランドのachievements(成果)はOECD(Organisation for Economic Co-operation and Development)によるPISA調査後、国際的な関心となっている。特にフィンランドはPISAで群を抜いた成績を収め、各国から注目を浴びている。授業を訪問し調査した全ての学校が移民を受け入れており、日本とは異なる言語や文化を持つ児童生徒が同じ教室にいるということも少なくない。
PISA(Programme for International Student Assessment):OECD生徒の学習到達度調査。
フィンランドではプログラミング教育が2016年から小学校1年生でも必修化され、各学校では2015年度から教科書のデジタル化が始まっている。新学期に間に合わなかった教科もあるが、全ての学校で教科書をデジタル端末で見ることができる。特に2015年度(新学期は秋)に高校1年生になった生徒から、学校の卒業試験は全てデジタル化される例もあるため、教室でもBYOD(Bring Your Own Device)が徐々に拡がり、多く見られるようになった。
こういったフィンランドの卒業試験などの教育改革は、1852年にフィンランドで始まった。その後の1994年、フィンランドの教育改革では、教師の修士号取得の義務付け、カリキュラム編成の変換、及び教師の裁量拡大を行った。
またAbittiという電子試験システムは、フィンランド語とスウェーデン語に対応し、フィンランドの高等学校のための入学試験委員会によって開発された。これは教師、学生、行政、研究者などが無料で登録できる。
マウヌラ校の事例
筆者がインタビューを行ったロミさんと1年に1回、2年連続で訪問したマウヌラ校[3](正式名称:Maunula Secondary School and Helsinki School of Mathematics / Maunulan yhteiskoulu ja Helsingin matematiikkalukio)について紹介したい。この学校は日本の中高にあたり、ヘルシンキ市内にあり、約800名の生徒がいる高校である。
特に数学と体育を熱心に行っているのが特徴で、例えば、数学の授業の中にもプログラミング教育を行っている。
既に述べたとおり、2015年秋から高校1年生になった生徒たちは卒業試験が全て電子試験になりデジタル化されるため、全ての教科でパソコンを使用することが日常的になっている。自分のパソコンを持参するというBYODという方式を取っているが、教室にパソコンを常備して、持っていない生徒への対応も行っている。
マウヌラ校は、2015年の秋から高校1年生全員がタブレットを使うようになったが、学校ではiPadを60台、ハイブリッドタブレット(Windows Surface)を200台所有している。この秋、高校生が120名、全員がタブレット端末、あるいはラップトップを使うようになった。
この学校は13歳から16歳まで、7年生から9年生までの国際クラスがあるということも特徴の1つである。
全ての教科を英語で学ぶというクラスでは、英語を使って数学を教えている先生にインタビューを行った。その結果、英語を使った授業には、保護者が子どもに対し高い学力になることを期待している例が少なくない、ということが分かった。また、文献の検索や情報の入手、あるいはプログラミングソフトのことを調べたり検索したりする際、フィンランド語のものよりも確率的に多くの情報にたどりつきやすく、調べ学習がはかどるといったケースが多く見られる、と述べていた。
一方で移民を受け入れているクラスも少なくないため、英語がコミュニケーションのツールとなっているといった事例が見られた。
数学の授業の他にも多くの授業中のクラスを見学した。ほとんどのクラスで生徒たちは、Web上にある宿題に自分の持っているタブレット端末からアクセスを行い、宿題を確認したり、教科書を見て教師の説明を理解しようとしたりしていた。
また教師へのインタビューでは、生徒が誤答をすることや解答した結果よりも、その思考プロセスを重視する傾向が見られた。教師が後から採点するよりも、その場で生徒が正誤をチェックする方が成績の向上が見られた例が多い、ということだった。
教材はどこの教室でも、生徒用のパソコンでもプロジェクターでも確認できる。高校1年生の授業においては自分の家にあるパソコンを持ってくるか、教室にある学校のパソコンを借りて使うかのどちらかのスタイルを取っている。Web画面にアクセスし、問題を見てそれについて考える。教師はWILMA(詳細は後述)の画面を開き、生徒の出席のチェック、成績態度の良し悪しを入力する。保護者はリアルタイムで閲覧することが可能である。
下記の写真にもあるように、教室でスマートフォンを使って、検索するということは日常的なことである。また、スマートフォンのアプリから前回の授業を確認することも可能である。
数学の授業の様子
校務支援システムのWILMAとは、学校が生徒を管理するWebベースのシステムである。また、保護者が児童の出欠席や学習の状況等、インターネットを通じて把握できるシステムでもある。
筆者が現地で授業を調査したのは2015年だが、WILMAはスマートフォンアプリもあり併用して運用されている。最近では生徒や保護者の大半がスマートフォンアプリを使っているそうだ。
WILMAのライセンスはヘルシンキ市が所有し、教師は生徒や保護者と宿題や連絡のやり取りをする。教師は常に、WILMAを介して生徒の出席状況や個人情報を把握し更新。宿題の内容については、本人はもちろんのこと、保護者も見ることができる。生徒と保護者はユーザ名とパスワードでアクセスすることができ、保護者は子どもが18歳になるまでパスワードを管理することができる。
校務教育情報システムのWILMAについて
WILMA スマホアプリ画面。右上の体温計マークをタップすると欠席連絡ができる。
WILMAについて、2015年9月11日、ヘルシンキ市内の高校教師にインタビューを行った。教師によれば、そもそも、このシステム導入は先生方の反対も多くあったという。しかし、今では出欠管理や宿題の提出トラブルも無くなったことで、結果的にはとても良かったと思っている、と述べていた。また、保護者からのクレームもなく、良いように運営されているという。
学校によっては出欠管理だけでなく、生徒同士が宿題や国語などの意見交換に使う例もある。その場合はお互いの課題を見ることも可能である。このように、WILMAはその学校のニーズによってカスタマイズすることができる。保護者はアプリを取得し、スマートフォンなどでリアルタイムに、子どもの出席だけでなく授業態度の把握をすることができる。
ここヘルシンキ市内の学校においては、一斉授業という形式よりも、授業で調べた結果をディスカッションしたり、プレゼンテーションをしたりといった問題解決能力を高める力を重視している学校が多かった。そして、PISA型読解力やその上位概念であるコンピテンシーは、ポスト工業化社会に対応した教育改革であるため、教育にいち早く取り入れている。コンピテンシー概念の中のキーコンピテンシーの枠組みは、相互作用的に道具を用いるという内容であり、ここで言う道具とはコンピューターだけでなく言語、情報、知識なども含まれている。そういったスキルを授業活動で伸ばすために、教室には必ず、プロジェクター、実物投影機といったものが常備されていた。
また、支援員や教育実習の学生が教室に出入りして、授業をサポートするのはどこの学校でも珍しいことではない。教師もそういったサポートをしてくれる人材が授業に居ることは普通のこととしている例が見られた。
次回の本コラムでは、フィンランドの教育に対する考え方と政策、コロナウイルス感染拡大への対応について 現地へのインタビューを加え掘り下げていく。
参考情報
[1] サンタの国が学校に用意する「7つのギフト」 | ブルー・オーシャン教育戦略 | 東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/254712
[2] 月刊先端教育Vol.2 40頁-41頁
連載「海外の教育事情」第02回 「教育先進国フィンランド 子どもの将来を見越した教育」
[3] マウヌラ校
https://www.mayk.fi/en/