教育連載コラム―未来への戦略-

コロナ禍でもオンライン教育で学びを止めない! -新型コロナウイルス(COVID-19)に対する那須町の事例

コロナ禍でも、休校によって学びを止めることがあってはいけない。また、学校が再開し平常授業に戻っても、次の波に備えるための取り組みが必要である。
今回はそんな取り組みを続けており、筆者も大変興味を持った、那須町の事例をご紹介したい。

栃木県那須町にあるレジャーランド、那須ハイランドパーク

那須町は栃木県にあり、那須御用邸や温泉リゾートなどが有名なところである。現在は学校の統廃合が進み小学校6校・中学校2校があり、県立高校も1校ある。今回はそこで、那須町教育委員会学校教育課プログラミング教育推進スーパーバイザーの星野尚先生にお話を伺った。
まず、星野先生は5月11日にオンラインで文部科学省がとても強いメッセージを出していたことに触れ、
「私がこのメッセージで感じたのは『文科省が後押しをしてくれている』という気持ち。その上で『出来ることから1つずつやっていきましょう』と呼びかける思いを感じました。」
と語った。
このメッセージというのは「ICTを使わない自治体に説明責任が発生する」「この非常時にさえICTを使わないのはなぜ?」というメッセージのことである。
※この文部科学省のメッセージに関する筆者の記事はこちら。

オンライン教育に舵をとったきっかけ
オンラインへの対応を検討しはじめたのは、2月下旬の休校要請が出る直前だったという。早期に検討を始めた理由は、現実に休校となれば長期化する可能性があったため、学校と子どもたちのコミュニケーションをいかにして確保するかが重要であると考えたためだという。
「実際に3月に休校がスタートすると、コミュニケーション手段として必要なオンライン会議システムやクラウドサービスの支援プログラムを申し込みました。さらに教職員向けの緊急ICT研修会を実施することを指導主事が決めてくださったので、私の方ですぐに活用できるポイントを絞った資料を半日ほどで作成し、体験重視の研修で各校を回り始めました。」

「文科省のメッセージが出されたのは5月11日で、それまでに(2月下旬~4月にかけて)やってきたことを【追認】してもらった、という受け止めをしております。
取り組みを続けていた自治体からすると、このメッセージは文科省の後押しとして機能していたと考えております。」
文科省のメッセージは、取り組みを推進する上で大きな意味があったという。実際、このような文部科学省側のメッセージが出たにも関わらず、オンライン教育を行わないで休校としていた所が多く、横並びになっている状況だったからだ。
そもそも星野先生は、教育委員会とは学校現場の取り組みを認めて、それをサポートすることが大事だと考えている。
「デジタルかアナログか、オンラインかオフラインかではなく両輪で行こうと考えました。何もしないことは格差につながることになるからです。できない理由を考えるのではなくどうしたらできるかを考えるということです。」
このように規制をかけて止めるどころか、現場からの提案を受け入れ、必要なしくみを検討して実行に移すということもしていた。あくまで現場目線なのである。他の自治体と同じく通信環境の不足もあったが、様々なコミュニティにアンテナを張り、民間企業の支援によるモバイルルーター貸し出しも期間限定ながら実施したという。こうした取り組みは貸出数が限られており早い者勝ちになってしまうので、迅速な判断が求められることが多い。

メーカー提供のモバイルルーター。15台を1ヶ月間無償で使用することができたという。

まずは教師へのサポート体制を確立
先生方へのサポートもあった。
「休校期間中にGoogleチャットで何でも相談ルームを作って以来、色々熱心に研究されている先生からの質問が絶え間なく飛んでくるようになりました。ほとんどの質問はその日の内に解決しているので、先生方も悩む時間が減って喜んでいただけているようです。
画面を見ないと解決できないことはZoomで接続して画面を映しながらサポートすれば、10分もせずに解決しています。
現場に行って先生方と話をしていると、『民間から教員になった方でICTには自信があったのに、設備が不十分で思ったようにいかないことが多くて、忙しさに流されてしまい遠ざかってしまった』と悩みを打ち明けてくださった先生もいます。相談してもらえればある程度解決できることもあるので、先生方とのホットラインは大切だと感じています。」
実際、そのほとんどの問題がその日の内に解決とは素晴らしいことである。

デュアル・クラウドでトラブル回避
筆者が驚いたことは校務の情報化や学びの場として使うクラウドに関して、デュアル対応していたということである。理由としてはトラブル予防のためということであるが、クラウドシステムの安定性は高いとはいえ、絶対に停止しない訳ではないので、デュアル・クラウドにしておくことで学びのインフラを多重化して、万一の際に対応ができるように備えることを想定しているという。
「クラウドの活用は試行錯誤中ですが、学習用にはG Suite、校務用にはMicrosoft365、と使い分ける方向性で検証・検討しています。万一の際は転用することも想定しています。今後も双方の柔軟な活用をしていく予定です。」

「各家庭で保有している様々なタブレットやスマートフォン端末へ、実際に学習用のG Suiteのアプリをインストールし設定する作業はなかなか大変です。兄弟姉妹がいるケースですと、1つの端末のGoogleクラスルームに複数のG Suiteアカウントを設定して切り替えて使えるのですが、そもそも個人で使っているとアカウント切り替えなどやったことが無い方がほとんどです。ですので、保護者向けに端末へのアプリインストール設定会やICT勉強会を開き、積極的にサポートを進めている小学校もあります。私もそういった現場でのサポートに関わっています。」
「特に頑張っている那須中央中学校は登校が再開された後にも、1人の先生がLTEのiPadでしている授業を他の2クラスにZoomで配信し、フィードバックはロイロノートを使って問題なく授業が出来ることも実証されていました(文部科学省の教育課程特例校の指定を受けた那須町の独自教科『NAiSUタイム [下記枠内リンク参照]』の防災学習での実践です)。この独自教科は、文部科学省の教育課程特例校の指定を受けて実施しています。

・教育課程特例校について:文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokureikou/1284969.htm
・教育課程特例校一覧(令和2年4月時点)※Excelファイルがダウンロードされます。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokureikou/__icsFiles/afieldfile/2020/20200421_mxt_kouhou02_1284967_01.xlsx

他にも、クラスを2つの教室に分けてその間をGoogle Meetで結び、授業の様子を工夫して配信することを実施している小学校もあります。授業参観においてもZoomによる配信で密にならないよう、同様の取り組みも実践されています。こうした取り組みを通じて、授業参観に来られない保護者向けにオンライン授業参観が可能であることへの気付きも得られているようです。」

那須町立東陽小学校三森沙希子先生のZoomによる実践(オンライン学活)

コロナ禍での対応も素晴らしいと感じた。
3月には臨時休校対応臨時校長会を実施し、Zoomオンライン会議体験を。4月の中旬にはオンライン朝の会を(学級会をオンラインで)実施したという那須町。星野先生のお力も大きかったのではないかと想像される。

【オンライン朝の会】とちぎテレビ
https://www.tochigi-tv.jp/news2/stream2.php?id=6149452309001
最後にインタビューを受けている先生は学習指導部の先生。まなびポケットのスクールタクトやGoogleクラスルームをはじめとする様々な取り組みを研究して進めているそう。

星野先生のお言葉でとても印象に残ったことがある。
「特別支援学級の子の話がオンラインセミナーの動画の中に出てきますが、Zoomでつながったことが登校日に学校へ行くモチベーションになったエピソードは、本当に大きな意味があると思っています。」
実際、不登校の児童がオンラインになって発言が積極的になった事例や、皆が休校になったことから週1の分散登校に出ることができるようになったといった事例が全国にある。

セキュリティに対する考え方
オンライン教育というと、セキュリティ面を危惧する声もある。いろいろと心配してできないことも多いという声も少なくない。
その点について星野先生は
「セキュリティ という言葉で思考停止しないことです。2019年12月文部科学省の情報セキュリティポリシーガイドラインが出されており、クラウドバイデフォルトという考え方に基づいて今後のセキュリティ対策を考えていく必要があります。具体的に何がリスクなのかを認識して、そのリスクを回避して安全に使っていくことを考えるのが大事だと思います。100%安全ということはありませんので。」

確かに100%を考えたら車にも飛行機にも乗れない。ゼロに近づける努力はしっかりするということで、メリットが多いオンライン教育での学びを止めないということは大切だ。格差が広がらなくなるという利点もある。

最後に星野先生は、海外では多く見られるBYOD (Bring your own device)についてこう話された。
「那須町の中では、一部で試験的ではありましたがBYODへの取り組みを実施していました。自宅の端末を授業に使うという挑戦を、現場の先生が実践してくださいました。現在も宿題をオンラインで出して、自宅の端末で取り組んでいる生徒さん、学校からの貸出端末で取り組んでいる生徒さんがいます。」
教育委員会が先見性を持った視野で現場をサポートする姿勢、ここが那須町のオンライン教育の強みの背景にあることは間違いない。