教育連載コラム―未来への戦略-

リスキリングと自己実現【後編】生徒の求める芸術教育のつくり方

埼玉県立芸術総合高等学校 中庭

テクノロジーとの関係について

上松:西澤先生は何事にもアクティブで何より生徒思いだと感じました。
西澤:自分が何に反応し、何ができるのか。そして、どんなサポートが必要なのか。これがクリアになってくると、彼らの力はもっともっと大きく羽ばたいていけるように感じているからです。自分も気になったら現場に行って体感するということを日常的にしています。友人の情報の感度が高いから面白そうな情報がネットを通して入って来る。ネットで記事を読んだり動画を見たりもできるけれど、「行くと決めれば行く方法は見つかる」と信じて、現場で体感することを大事にしています。
上松:体感、大事ですよね。そして先生ご自身も色々とご活躍されていますね。アトランティックシティで開催されたNECC’99で英語で事例発表、ベルリンに現地集合するADEの研修に参加、日本で初めて開催されたGoogle認定イノベーター研修に参加、Perfumeのライブにも行かれているということですごいです。

西澤:Perfumeの映像を作っているライゾマティクスのイベントにも行きました。現場で感じて行動するのは、写真にもつながる。写真はそこに行かなければ撮れないですから。
上松:なるほど。生徒たちとの関わりに活かせることがたくさんありますね。生徒たちは、コロナ以前とは変わってきている感じがしますがどうでしょう。
西澤:コロナの影響は大きいですよね。分断も生まれましたし。しかし、それを乗り越えるために別の方法を探っているところもある。人とうまく繋がることができるようになることが大事ですね。


埼玉県立芸術総合高等学校の屋上


スマートフォンが当たり前ですし、GIGAスクールでネットを活用した学びも日常になってきていますよね。同じテーマでも小学校の時に見えていたものと高校では違って見えることもあり、高校でも学年が進むと深まってきます。順番に1回やったらクリアとか、考えずにひたすら書くとか、正解が1つしかないとか、そういったものではなく、答えがない問題をいろんな手を借りて共に取り組む学びが増えてくると思います。
上松:教育も変化を余儀なくされていますね。ところで、先生の声はとても綺麗ですね。
西澤:大学時代、合唱団に入っていたからかもしれませんね。映像で伝えることには言葉も必要だし、一方、実はなかなか伝わらないこともあると思います。映像芸術科では3年間、伝えることのために自分をどうみるか、相手をどうみるか社会をどうみるか、そのための時間を取っています。いったんできあがった後に、他の人の作品を見て、どうブラッシュアップするか、ということがカギです。完成した作品の評価以上に、制作を通してどう考えてきたのかが大事です。
上松:主体的に考えないとその答えが出ないですよね。
西澤:映像にできるけれど言葉ではいえないこともあるし、言葉ができても映像にならないこともあります。映像にする、言葉にする、この繰り返しの中で自分の考えが伝わる形になっていきます。

見学した授業内容

上松:この授業は「マイ卒業アルバム」を作り自分の写真を1冊にまとめるというものですね。私もライフヒストリーから目標を持たせてブランディングをさせる授業をしています。この授業の成果はどんなことがありますか。とても真剣に写真を選んでいましたね。

西澤:やはり自分のこれまでをふりかえることと、ポジティブなプラスの要素をあつめることで自己肯定感が高まっていく様子が見て取れることですね。1冊目はフォトブックの編集を体験するために全員24ページ構成で作り、お互いのフォトブックを見て、こんな感じて作ればいいのかをつかんで、本番の2冊目は各自で構成とページ数を考えてという感じです。

上松:撮影の機材がすごくて驚きました。さすが芸術の専門高校ならではと感じました。西澤先生のご準備も大変ではないでしょうか。

西澤:照明を用意し立つ位置や顔の向きで写りが良くなるとか、基本的な準備してヒントは伝えるけれども、撮りながらお互いに話あって、どうしていけばいいのかを試していくというスタイルです。
上松:こういった環境とスタイルで結果として主体的に色々なことを考え捉えるように見えますね。チャレンジしたくなる環境と課題なら生徒は積極的に行動するものなのだと感じました。

西澤:いっしょにチャレンジできる仲間の存在も大きいと思います。
上松:素敵ですね。授業を見学した中で、これからの授業実践を考えている先生方に役立つような要素をどう入れるかが大事だと思うのですが、西澤先生はどうお考えでしょうか。

自ら学びたくなる環境構築が大事

西澤:授業をデザインするときに考えていることは「子どもたちの今とつなぐ」ことです。学校の行事や進路に役立つ課題だったり、地域や世界とつながるものだったり。生徒たちの今に役立つことが感じられて、自分で考えて工夫する余地がある課題にするにはどうすればいいかを考えています。生徒の今を知ることがヒントになるので、ちょっとした雑談の中からヒントが見つかることもあります。
上松:あとは環境も大事ですよね。
西澤:はい、「自分から学びたくなる環境」をどう作るかということも大事です。教室に入ったときにわあっと感じるような場の力を使う時もありますし、課題を説明する時のサンプルが魅力的にうつったりチャレンジしがいがあるものだったりと、最初の印象を大事にしています。そして、同じルートで同じ提出物ではワクワクすることは難しいので、途中段階でも自分で探索することや仲間と協力することが必要とか、こういったプロセスの中にも各自で工夫する余地を大切にしています。
上松:それは単に生徒が「自由に取り組む」だけではないですね。
西澤:制限をうまく設定することも重要です。ゴールに向かっていろいろな登り方があるにしても、時間の制限や課題として押さえておくべきことを説明しておく必要があると思います。企画書の提出や企画面談の中でこうした点をおさえているかどうかを確認し、途中段階でも何箇所かチェックポイントを設定するようにしています。
上松:他に何かありますか。
西澤:そうですね、やはり「表現の場」を作ることです。完成して終わりでなく、いったん完成した後にブラッシュアップする場をどう用意するかを考えています。
映像芸術科の授業では、中間講評会を大事にしています。完成して展示や発表をしたときにアドバイスをして次に活かすというのはちょっともったいないと思います。仲間の作品を見たり、先生からのアドバイスは自分へのものはもちろん他の人へのアドバイスの中で役にたつものをつかんで、今取り組んでいる作品に活かすチャンスがある方が素敵だと思います。
ここでのブラッシュアップは、自分がこだわりたい課題のときは細部をつめていけるし、もうこれで精一杯というときは最低限の修正のみで。こうした選択も生徒にまかせて、最後の部分でこだわった人をほめていくと、最後まで粘る雰囲気が作られると感じています。

それぞれの違いを認め合い、他の人のすごいところで自分がやってみたいと感じることは吸収して、ブラッシュアップする。こんなことを表現する課題の中に入れていければと考えています。
上松:生徒に任せたり委ねたりも大事ですね。中間講評会でのやりとりで色々なアイデアがまた再構築されるというのは良いスパイラルになりますね。西澤先生の授業からそのような流れが見て取れました。

西澤:スパイラルは効果がありますね。1つの課題の中だけでなく、年間を通して前に学んだことを役立てて次の段階に進むことができると、生徒自身も成長を実感できますから。そして、生徒たちが教師の想定を超えていくことにワクワクしながら、AIなど新しい流れを積極的に取り込んでいくことが、これからの授業を考えていく上で役にたつと感じています。
たくさんお時間頂きましてありがとうございました。

西澤 廣人 先生 プロフィール

1962年埼玉県入間市生まれ 埼玉県立芸術総合高等学校・映像芸術科教諭
NPO法人CANVASフェロー/Apple Distinguished Educator2011、Google認定イノベーター2019/DaVinci Resolve認定トレーナー2022

  1. 教員暦37年 4つの教科を担当する
    37年間の中で国語科、家庭科、情報科、映像芸術科の4つの教科を担当。
    担任を21年(3年担任は8年)、分掌では生徒会と進路指導を主に担当。
  2. ICT活用の研究会でつながる
    多くの研究会に参加し、事例発表やワークショップを担当。ACE教育とコンピュータ研究会とメディアキッズプロジェクトに立ち上げから参加。ACEの全国大会であるPOEMや、メディア創造力の育成を目指すD-projectで事例発表をした。オーム社からマッキントッシュやハイパーカードに関わる本を出版。AppleのADEとGoogleのイノベーター研修を受け資格取得。
    東京書籍で情報科教科書作成チームに2000年から編集委員として参加。2020年から編集協力委員。
  3. プロフェッショナルから学ぶ
    東京工芸大学での研修の後も写真を学び続ける。テラウチマサト氏のプレミアムポートレイトクラスに参加(2012〜2022)する他、水谷充氏、鈴木光雄氏、小林幹幸氏、高桑正義氏、一色卓丸氏のワークショップに継続参加し、プロフェッショナルから見方、考え方を学ぶ。
    2017年には個展を開催。富山市ガラス美術館でのTMT展をはじめグループ展にも多数参加。

“教育連載コラム―未来への戦略-” への1件の返信

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