これからはテクノロジーと言語と金融の教育が重要となる!【前編】
今回は、グローバルに活躍するフラー株式会社 代表取締役の渋谷修太さんにゲーム作りのきっかけとこれからの教育についてインタビューさせていただきました。渋谷修太さんは昨年、自ら経営する会社を新潟に移し、新潟に新しいイノベーションを起こすきっかけ作りを積極的に行っています。
ゲームが媒体となる!と感じた幼少期
フラー株式会社 渋谷修太さん(右)と筆者(左)
上松:日本ではプログラミング教育がスタートして、Scratchなどの様々な言語が教育現場でも使われ始めています。しかし、SNSなどを見ていると、ゲームって日本の教育現場では敬遠されることがありますよね。一方で私は、幼少期から綺麗でクオリティの高いCGや最新のVRなどのテクノロジーに触れているか触れていないかで、将来までもが変わってくるのではないかと思っています。
今のところ、ゲームで遊んで楽しむ人は多いけれど、ゲームを作ろうって思う人は多くないのではないかと思うのですが、その点も含め、渋谷さんにまずはゲームに関わるきっかけについてお伺いしたいと思います。
渋谷:私が子どもの頃、父親の仕事の関係で転勤による引っ越しが多かったです。父親の実家は佐渡なのですが、県内で何回も引越しをしました。妙高に住んでいたこともありましたし、小学校は南魚沼市で中学校は新潟市でした。実際、転校というのは色々な面で結構大変です。住む所も変わるし、友達がやっとできたのに、また一から人間関係を構築しなくてはならないですしね。
ところが当時、ゲームをしていることで友人と共通の話題ができて、すぐに仲良くなれて、とても助けられました。ですのでゲームにはすごい力があるのだと思いましたし、とても好きでした。
中学生時代は友達がコンピュータ部だったので、そこに遊びに行って「コンピュータって面白いな、将来ゲーム作りたいな」って思いました。そこで専門的に学びたいと思い、高専(国立高等専門学校、以下高専)に入学しました。
実はその当時の友人は今も一緒に会社にいますよ、20年くらいずっと仲良しです。
上松:すごい!素晴らしいご友人関係ですね。しかし子どもの頃の転校って本当に大変ですよね。友人と離れてしまうというショックもあるでしょうし、環境が変わるというのはかなり大変だったでしょう。ゲームにはそういった、人と人とを媒介する力を持っていると感じたということですね。
渋谷:そうです。また、ちょうどその頃PlayStation2が発売されてファイナルファンタジーをプレイしたのですが、グラフィックがものすごく綺麗で、しかも現実では行ったことのないような南の島が表現されていて大変素晴らしかったのです。ストーリーも良くて、もうなんだか涙出るくらい感動しました。
それで将来は子どもたちにも感動するような体験をしてもらいたいと感じ、ゲームを作りたいと思いました。今では全部ゲームで授業をしたら良いのにと思うくらいです。
教育で大事なことは「テクノロジーと言語とお金」についての学び
上松:ゲームと教育の互換性は良いと思います。フェイズをあげていくことも似ています。私も海外の学校を色々と見てきましたが、日本とは色々と違う点がありましたね。先進国では1人1台端末は当たり前ですし、特に金融教育などは本当に小さい頃からやっていました。
渋谷:金融教育って大事ですよね。自分は授業でお金の話を習ったことがないのですが、塾などで教えることがあります。実際、アメリカなどの学校では子どもたちがガレージセールとかやっているんですよね。
これからの教育で重要なことは、テクノロジーと言語とお金についての学びだと思っています。それらがわかりさえすれば、なんとか生きていくことができると思います。ところが日本の教育にはそれがないんですよね。ですから将来は学校を作りたいなと思っています。
上松:それは素晴らしいことですね。学校を作ることは素晴らしい人材がどんどん創出されることにもなりますから、これから色々な面で期待が高まります。
起業することの意義
上松:起業を考えたきっかけは高専時代のご経験も少なからずあるのでしょうか。私は長岡の出身なのですが、当時の高専は優秀な高校生が飛び級で大学に入るみたいな感じで、友人たちが活躍しているケースも少なくないです。だから良いイメージです。
渋谷:はい、私も高専教育は良いと思っているんですよね。すごく自由だしコンピュータも習うし。センター試験もないし、その時間で色々学べるんですよね。そういった意味では私立の高専をそのうち作りたいなと思っているんです。私はその後、筑波大学に行きGREEに就職して会社を作りましたが、やはり高専時代の経験が今に活きているんですよね。
上松:GREEって当時すごく伸びていましたし、良い会社に就職されましたね。しかしそのような会社を辞めてまで自分で会社作るのって大変じゃないですか。日本人は大企業にいれば安泰という人も少なくないですよね。
渋谷:まず高専の時に「会社って作れるんだ」と知ったんですよね。実は小学生の時に親の会社がその場所を撤退することになり、急に新潟市に転校することになったんです。かなりの大企業だったので驚きました。こんなに大きな会社でも何があるかわからないんだな、と子どもの頃に思って、とても考えさせられたんですよね。
その時に会社に勤めるってリスクだなってすごく思いました。誰が経営の判断をやっているかよくわからないし、社長だって優秀とは限らないし、そもそも自分の意志で住む場所を決められないですし。転勤とか絶対嫌だと思っていました。ですので、自分で起業するのを大変って思ったことはありません。作って良かったと思います。
上松:そうですよね。会社の規模が大きすぎると経営陣はどういう人たちかわからないし、それぞれ優秀でも組織の判断ってありますしね。
渋谷:自分としては転校はすごい嫌だったんですよね。何でせっかく気に入った場所に住んでいたのにそこから離れて、しかも大好きな友人と別れなければならなかったのかって思ったんですよ。つまり会社に勤めるのって自分で住みたい場所に住めないんですよね。
でも会社を作れば好きな場所で好きな人たちとずっと一緒に居られるじゃないですか。昨年も「新潟に住みたい」と思えば帰って来ることができましたしね。
好きな場所で好きな人たちと一緒に仕事できるって人間にとって大事な権利だと思っている。大切なのはどこで誰と暮らすかですね。
日本は職業選択については自由ですが、それ以降は案外自由じゃないですよね。だいたい、よくわかんない仲良くもない嫌な上司と20年も30年も一緒に居て、おまけにどっかに飛ばされてしまうのって絶対嫌だなと思います。起業するよりも、就職して会社に勤める方が超リスクだなと思っています。
上松:このコロナ禍にリモートでできる仕事でも、とにかく会社に出勤してそこでやることを強制する会社もあると聞きました。これからの時代、そういったことに疑念を感じる人が確かに増えてくると思います。
これから生きるためのスキルの大切さ
渋谷:つまり生きていける力やスキルがあれば世の中の景気や状況に左右されないし、日本がダメでも海外でやれば良いわけで。しかし、30年ローン組んでその会社が人生定年まで残って成り立っている方に賭けるのってけっこう楽観的な考え方だし、相当リスクだなと思います。
上松:あと30年なんて怖いですよね、確かに。たった10年前だって、スマートフォンがここまで普及するとはだれも想像できていなかったのに。
渋谷:確かに、30年前なら、まずは工場作って、そしてオペレーションを考え…、人材としては、何も考えずに企業に従うとか、物申さない人材が必要だった時期もありましたね。しかし、もう今は物があふれていますし、そういった時代は終わったと判断しなければならないでしょう。ですから教育もこれまでのやり方では、使えない人間ばかりを作ることになります。
上松:まさにその通りですね。また、教育もこれまでの指導方法だけでなく、教育のICT化やDX化も必要ですよね。「デジタル武装で、地域を元気に」というツイートも見ましたが、そういった観点も必要ですね。
渋谷:しかし教育をアップデートしようにも時間かかりますし、教えることができる人がいないという問題もあります。実は今、高専の客員教授をやっていて起業についても教えています。高専にはすごい人材が集まってきています。しかし、起業した経験がない先生には教えることができないケースもありますね。例えば、古い教材をそのまま使っているケースが多く、今であればアプリ開発とかを習いたいはずだと思います。
上松:既存の教育システムと教員ですと、新しい内容を教えるのはなかなか難しいですよね。
渋谷 修太 氏 プロフィール
1988年生。新潟県出身。国立長岡工業高等専門学校卒業後、筑波大学理工学群社会工学類へ編入学。グリー株式会社を経て、2011年11月フラー株式会社を創業、代表取締役に就任。2016年には、世界有数の経済誌であるForbesにより30歳未満の重要人物「30アンダー30」に選出される。 2020年6月、故郷の新潟へUターン移住。2020年9月、新潟ベンチャー協会代表理事に選任。2020年10月、長岡高専客員教授に就任。ユメは世界一ヒトを惹きつける会社を創ること。