教育連載コラム―未来への戦略-

メタバースが変える医療 ー時間と空間を越えた新フェイズへー【第3回】

帝京大学杉本真樹先生へのインタビュー、第3回です。
第2回では医療の革新的な3次元の世界の話をお伺いしました。今回はそのデータの多さが制するAIの時代で作業効率が上がり、医師の負担軽減にも繋がっていくことになるプロセスについてお伺いしました。

医療分野もデータの量が制する時代へ

上松:これまでお話を伺ってきて私が思うことは、アメリカに行かれてからなおのこと、日本と米国の文化の違いを感じられたのではないかということです。日本では実力よりも学歴や学閥、そして誰もが平等に下積みをするようなイメージがあります。すみません、医療の世界を知らないので推測にしか過ぎませんが。
杉本:能ある鷹は爪を隠すと言われていますが、それはアメリカでは「できない理由がある」と思われてしまいます。テクノロジーはあるけれども何に使えば良いかわからないという時期に自分がアピールすると、「こんな使い方ができるよ」と色々な事例を様々な方々からフィードバックとして得られ、自分の研究を出せば出すほど思いもよらない良い方向に拡がるのです。実力があればどこの大学出身など関係ないという事を体感しました。
上松:アメリカは実力社会、能力主義ですね。
杉本:スタンフォード大学に日本人会というのがあります。そちらにはアメリカではバイオデザインをしているあの池野先生もいらっしゃいました。
他には顕微鏡でみる病理のプレパラートに患者さんの病理組織をスライスして写真を撮って記録する装置(ハード)を何百枚、何千枚も作れるようデジタル化して、サーバで管理する医師がいました。その方は起業もされており、大きな影響を受けました。
他にも睡眠学の第一人者でナルコレプシー研究の西野精治先生とか色々な方がいらっしゃいましたね。
上松:そのシステムはすごいですね。どんなことを言われたのでしょうか。
杉本:「まだ臨床をやっているのですか」と言われました。「あなたが8時間手術をやっても1人しか救えないけれども、8時間で100人の医師にその技術を伝えたらもっと多くの人の命が救えるのではないでしょうか」ということです。
上松:それはもっともなことですね。
杉本:「きみはそっちの方だよ、臨床をやっている場合ではない」とまで言われて。その会社はAIがありその全てが教授データとなっているのですが、莫大で追従ができない量となりました。今では全米中がそのデータを使ってるのです。今の時代はデータは量があるのが勝ちなんです。AIなんてまだ誰も言っていない時代でしたが、今の時代を見越していて、自分のことも見越されたのかもしれません。
上松:さすがアメリカですね。どうして日本に戻って来られたんでしょう。
杉本:僕も、当時AIは無かったけれども「レントゲンを3次元にしてデジタル化してアーカイブ」したいと思っていたんです。海外ではあまりレントゲンを撮りませんでした。治療費も高いし放射線を浴びることを極端に嫌がる方もいます。日本は健康保険も完備していますからね。
上松:私は転んで首を痛めてCTスキャンを何回も撮ったのですが大丈夫でしょうか。
杉本:日本は放射線量の管理がしっかりしているので大丈夫ですよ。そういったこともあって、レントゲンのデータを取る土壌が必要ということで日本に戻ってきたのです。

上松:帰国された直後にお目にかかりましたね。当時、私も大学の教員ではなかった身分で、杉本先生はどこの大学に行かれるのかな、と思っていました(笑)。
杉本:神戸大学が決まっていたんです。
上松:そうだったのですね。
杉本:神戸大学の消化器内科は内視鏡で癌を取ることにおいては日本で一番の大学でしたが、外科がいないので、大学で講演をしたらぴったりだということで自分に声がかかりました。UCLAで内視鏡センター長をされていた先生も同席されたのですが、彼も「真樹、神戸大学が一番良いよ。君を伸ばすのは神戸大学だよ。ダビンチというロボットや動物実験施設があって、ポストも医療産業特区で資金も潤沢にある。なぜ行かないの?」と言われて、それはそうだな、と思いました。でもすぐに返事をしなかったのです。
上松:なぜでしょうか。
杉本:そこは消化器内科所属だったのです。でも、それから深く考えたのは「自分が外科にこだわっている」ということに気がつきました。殻を破る時だな、と考え方を変えてオファーを受け取り行くことになりました。途中からは人材育成にもかかわり8年間勤務しました。
生命医学人材養成プロジェクトに携わることになり、医師を養成し、多くの医師をスタンフォードやアップル、ダビンチの会社に送りました。「医師は臨床だけをやっていてはダメだ」と言って送りました。
上松:その後に帝京大学に戻られたのでしょうか。よく戻ってこられましたね。退職のいきさつを伺った時には、日本の医学界で働けなくならないかとヒヤヒヤしましたが良かったです。

杉本:日本で医学部を作らない時期もあったのですが、その当時は、東北医科薬科大学、国際医療福祉大学(千葉)などの医学部ができた頃で、たまたま後者の立ち上げを手伝って欲しいと言われて移動しました。理由は成田で世界最先端のシミュレーションセンターを立ち上げるからということでした。そこではカリキュラムを英語で作るなど、立ち上げまでの2年で色々と協力できたと思います。
上松:成田とこちらを往復する生活がスタートしたのですね。
杉本:東京に居ながら成田に通うことは認めてもらえなかったので、成田には企業がなかなか来てくれないしどうしようと思っていました。その頃、帝京大学医学部の卒業生代表の講演をした時に「帝京大学50周年を節目に大学を盛り上げたい」という話を伺い、沖永学長から声がかかりました。沖永前学長先生のお子様が今の学長です。
実はお父様の沖永前学長が膵臓癌になった時に私が手術をしました。その時にご家族として現沖永学長に手術の経緯をご説明をしていた御縁もあったので、長く外に出ていた自分もそろそろ母校に貢献したいなと思ったのです。

時間と空間を越えるメタバースの利用

上松:これからいろいろと楽しみですね。海外では5Gの話も出ています。私もマイクロソフトのシアトル本社で5Gの体験をしたのですが、これから5Gはどう展開して行くのでしょうか。
杉本:テラヘルツ(1兆ヘルツ:1.0テラヘルツ)だと帯域は狭いのですがヘリくらいだったらほぼ8Kくらいの映像が撮れるだろうと思いました。京都で8K×8Kの2眼の立体の実証実験をやった際はビルとビルの間で飛ばしていて、その間でたまたま工事をしていてクレーンが入ってしまい、そこでちょっと切れることがわかりました。リアルでやれる証明はできたけれども、やはりそういった課題がありますね。
上松:これから杉本先生はどんな方向で行かれるのでしょうか。
杉本:うちのホロアイズという会社では、1人の患者さんを1対1で治すだけでなく多くのバリエーションのあるデータを共有することができます。でも個人情報を消さないといけないので、ポリゴンという特徴点だけの座標を共有しています。これは特許です。そのデータをためていくと教師データとしてビッグデータになると思います。
現在ではAIが見ている教師データは2次元画像だけなのですが、Zの座標を入れることによって後々は立体の形状認識ができるようになります。3次元は2次元の連続、動画は1次元の連続なので。もうマイクロソフトではメッシュというサービスでローンチしています。臓器や癌や血管、フルボディのデータは機械学習のデータになって定期予報ができるのですよね。

ポリゴン化してデータを見れば、将来的には手術にまで繋げられるのではないかと思います。さらに将来はロボット化されると思います。患者のレントゲンだけでなく、例えば、天皇陛下の手術をされた先生の手の動きと音声データが3次元の座標と時系列でたまっていれば、ゴーグルを被るだけで音声解説を聞きながらその先生の動きを追体験することができます。
上松:二人羽織のようですね。お医師さんになるまでの課程で早めに体験できると良いですね。
杉本:時間と空間を越えるのがメタバースなんですよね。アインシュタインの相対性理論で、4次元とは3次元に時間を足したものです。メタバースは4次元だと思っています。まだ時間を先に行くことはできないけれども、遡ることはできるのですね。脳がいかに時間認識と空間認識をすることができるか、それがあれば過去を再現できますし、それを鍛えることが重要だと思います。
上松:教育の世界にとても関わることですね。

“教育連載コラム―未来への戦略-” への18件の返信

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