教育連載コラム―未来への戦略-

海外トップ大学の授業が学べるAsuka Academy 第6回「日本語の壁を取ればMOOCが日本を変える」(山本理事インタビュー)

海外トップ大学のオープン講座をネットで日本語で、無料で学べるAsuka Academy(アスカアカデミー)。このAsuka Academyに関わっている方々のインタビューを通して全6回構成でご紹介する。

オンライン教育黎明期の出会い

上松:Asuka Academyはオンラインで学ぶものですが、山本理事の会社、株式会社マークアイさんはオンラインでの業務状況、いかがですか。
山本理事(以下、山本):マークアイはこの2022年の4月から、今後のコロナの動向とは関係なく週に2日の在宅勤務ができる制度を導入しました。
上松:それはすごいですね。
山本:実はコロナの前から在宅勤務を取り入れようと考えて準備していたんです。それで、2020年にコロナの状況が急速に悪化した際、それに対応するためにリモートワークに一気にシフトすることができたんです。
マークアイでは、コロナ前から一部の部署でVDI(仮想デスクトップ:Virtual Desktop Infrastructure) を在宅環境で使うテストをしていました。そのような最中にコロナが起こったので、急いで全社員がVDIを使えるように手配しました。緊急事態宣言の発令に間に合ったのでホッとしました。
緊急事態宣言が出ているときは週1日の出社体制で乗り切りました。最初はうまく仕事が回るか心配でしたけれども、コロナに背中を押されて思い切って実行してみたら仕事に支障がないことがわかったので、制度化することにしました。

上松:そんな先見の明があったんですね。Asuka Academyがスタートした頃はコロナなど予想だにしませんでしたよね。
山本:そうですね。Asuka Academyの最初の理事長の福原先生には2000年頃に初めてお目にかかりました。当時私が勤めていた東進ハイスクールでEラーニングを立ち上げることになり、NTTのグループ会社で開発部門を担当されていた福原先生に相談するために伺ったのです。
ちょうどブロードバンドが普及し始めるところで、福原先生は「いよいよEラーニングが実現可能になってきた」とおっしゃっていました。

上松:福原先生は明治大学の紳士的な教授のイメージが強いのですが、意外にバリバリのやり手のビジネスマンだったんですね。
山本:そうです。洞察力と見識の深さで図抜けた方という印象でした。その後、福原先生が明治大学で主催されていたMOOCの勉強会に参加するようになりました。
上松:そういうご縁があったんですね。
山本:そうなんです。このMOOCをぜひ日本でもやりたいですね、ということで最終的にはJMOOCへ、そしてAsuka Academyへ、という流れになったんだとうかがっています。
上松:今から考えるとオンライン教育のパイオニアですね。
山本:はい、その当時はオンライン教育の黎明期で、日本でEdTechの言葉が使われるようになる直前だったんですよね。デジタルハリウッド大学大学院の佐藤昌宏先生が2012年にEdTech Japan Pitch Festivalを始められて、レアジョブやすららネットなどのEdTech企業がプレゼンをして、その後どんどん大きくなっていったんですよ。あのピッチフェスティバルはスプリングボードになったと思います。

Asuka AcademyとJMOOCはコインの裏表の最強コンテンツ

上松:Asuka Academyができて8年経ちましたね。
山本:そうですね。当時、「日本語の壁」ということが言われていました。その壁に穴をあけて日本語の壁を取っ払う翻訳コンテンツとしてのAsukaAcademyは本当に重要だと思いました。そして、日本のコンテンツを世界中に広めるJMOOC、この2つはコインの裏表の関係だったのではと私は思いました。
上松:なるほど、そうですね。当時の記憶が蘇ってきました。
山本:Asuka Academyが大きく進化をとげたのは、翻訳ボランティアの幅が広がって高校や大学の学びの中に取り入れられるようになったことですね。広尾学園が翻訳ボランティア参加したことがきっかけになったと思います。私は、学ぶことはインプットではなくアウトプットをしたことで完結すると思うんです。ただ英語を理解したということでなく、英語を使って自分が興味、関心をもったことを学ぶ。これほど力がつく学習方法はないでしょう。
それともう1つはアダプティブラーニングが実現する可能性が拡がると考えています。学習者の個々の進度に合わせてきめ細かく教材を提供していく。わからない時にそのままにしないで、小中高の関係なくいつでも遡れる学習の仕組みがオンラインで実現できないか、と当時、私も考えていたんです。MOOCがその扉を開く可能性があるのでは、と考えたんですよね。なので、私はそういった観点でAsuka Academyに参画させてもらえたのは嬉しいことでした。

上松:アダプティブラーニングを実現するためには学習データは大事ですよね。先生方が気付かないこともデータを分析すると見えてくるように思うんですよね。
山本:当時、JMOOCは単に日本の学びを世界に発信するだけでなく、「学習者の学習履歴は日本で保存しなければならない」という考えがあったんですよね。そういった危機感というか。
Asuka Academyは素材提供だけでなく、データで色々と効果的な学習ができる方向に進化すると良いですね。例えばコンテンツを小中高大とカテゴリーに分けて学びやすくするとか。
上松:Amazonみたいに、これを勉強したら、これを学習すれば効果的でさらに知識がアップします、みたいなのが出ると面白いですよね。海外ではアダプティブラーニングをしている国はけっこうあるんですよ。以前訪問したデンマークなどもそうでした。卒業試験にもありましたし。
山本:そうなんですよね。最後に、日本で翻訳ボランティアの地図(図)これがボランティアのマークでいっぱいになったらすごいことだと思います。それもAsuka Academyの魅力ですね。

上松:そうですね、早く地図がマークでいっぱいになってほしいですね。そして日本の教育がグレードアップし世界に貢献できるようになれば素晴らしいことだと思います。
最後に、故福原先生に感謝してこのインタビューを終えたいと思います。
山本理事、どうもありがとうございました!

山本理事、中村理事とともに
(株式会社ネットラーニングの懇親会にて)

謝辞:世界のオープンエデュケーションの第一人者であり、Asuka Academy 設立から2019年まで理事長としてご指導いただき、Asuka Academyの発展に多大なご尽力をいただいた故福原美三先生に感謝申し上げます。
山本 忠宏 氏 プロフィール
株式会社マークアイ 取締役
野村證券にて海外部門の勤務を経て、東進ハイスクールを運営する株式会社ナガセでコンテンツの企画制作に携わる。

連載:海外トップ大学の授業が学べるAsuka Academy
第1回「MOOCの進化とオンライン教材の今」(重田理事インタビュー)
第2回「スキルアップへの活用とは」(中村理事インタビュー)
第3回「アメリカ導入時の状況からみたオープンエデュケーション」(青木理事インタビュー)
第4回「データドリブンの時代が来た」(深澤理事インタビュー)
第5回「翻訳プロジェクトを通じた未来人材の育成」(田名部教授インタビュー)
第6回「日本語の壁を取ればMOOCが日本を変える」(山本理事インタビュー)【本記事】
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Asuka Academy 理事
【会長】大久保昇(株式会社内田洋行 代表取締役社長)
【理事長】岸田徹(株式会社ネットラーニング 代表取締役会長)
【理事】青木久美子(放送大学 教授)
【理事】上松恵理子(武蔵野学院大学准教授)
【理事】加來賢一(株式会社クリエイティヴ・リンク ディレクター)
【理事】重田勝介(北海道大学情報基盤センター 准教授、OE Japan 代表幹事)
【理事】深澤良彰(早稲田大学 理工学術院 教授、大学ICT推進協議会 会長、JMOOC 副理事長)
【理事】堀田一芙(株式会社内田洋行 顧問、株式会社オフィスコロボックル 代表取締役社長)
【理事】村上憲郎(株式会社村上憲郎事務所 代表取締役 (元Google Japan 代表取締役社長))
【理事】山本忠宏(株式会社マークアイ取締役 COO)
【事務局長、常務理事】中村久哉(株式会社ネットラーニング 品質管理部 部長)
【監事】岸田敢(株式会社ネットラーニングホールディングス 代表取締役会長兼社長)
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