教育連載コラム―未来への戦略-

こどもたちが集うプログラミングコミュニティ【後編】

「CoderDojo Kashiwa」の様子

「本とレゴとコンピュータ」の幼少期

上松:今、色々なところでプログラミング教育を実践され脚光を浴びている宮島さんですが、どんな幼少期を過ごされたかを聞かせていただけますか。ICTの話とは関係なく、教育学者として気になっているところです。
宮島:幼稚園の頃から、アドラー心理学をベースにしたカリキュラムでレゴブロックを教えてもらえるスクールに月に2回~4回ほど、中3まで通っていました。柏から新浦安まで片道50分くらい。10年以上ですね。これが原体験です。
上松:それはご両親も大変でしたね。何か教育方針などはありましたか?
宮島:教育方針というか、実際、家には「本とレゴとコンピュータ」しかなかったんです。家庭用ゲーム機とかマンガはほとんど無かったですしテレビも観ませんでした。
上松:「家庭用ゲーム機とマンガとテレビ」って欠かせないくらいですよね。本はコンピュータ関連の本ですか?

宮島:いえ、それこそ小さい頃なので絵本とかもありましたし、子どもの読む小説とかもありましたし、とにかく本は家に大量にありました。
上松:私も本をとにかく読めと言われて、読書量はすごかったです。高校3年生までは本は好きなだけ買うことができました。当時「つけ」ということができたので、父の名前を本屋さんでいえば買うことができました。小学生の時は自分の部屋にある本に、日本十進分類法に基づいて自分で小さな紙に番号をつけて、本の背表紙の下にセロテープを貼って順番に並べていました。インターネットはなかったし、昔はテレビのチャンネル権が親にあってあまり見せてもらえなかったのと、一人っ子だったので本を読むしかなかったんです。

自由な校風だった中学生~高校生時代。高校1年生で立ち上げた「CoderDojo Kashiwa」

宮島:中学校は目白にある学習院中等科に通っていました。
上松:私は車で良く通ります。高等科の桜がとてもきれいですよね。
宮島:学習院の院章が桜なんですよ。学習院では校章のことを院章と言うんですが。学習院は中学校から高校までは男女別学なので、僕は男子校出身です。男子部の高等科はけっこう自由な校風でとても良かったです。もう中学校から12年同じキャンパスにいます。
上松:私はステレオタイプのイメージを持っていましたね。高校が自由な校風だから良かったんですね。
宮島:はい、あまり人のことには干渉しなくて好きなことができたんです。それで高校1年生のときにCoderDojo Kashiwaを立ち上げたんです。
上松:高校生が立ち上げるっていうのはすごいですね。
宮島:はい、地元の小学校の同級生と一緒に立ち上げました。その背景として、中学3年生の頃、アメリカのボストンにあるMIT(マサチューセッツ工科大学)で開催されたScratchのカンファレンスに行ったことがあります。中等科から高等科に進学するときには受験がなかったので、中学3年生の夏休みという時期でも参加することができたと記憶しています。そこで、CoderDojo Tokyo(現 CoderDojo 下北沢)を立ち上げた方から話を聞き、自分も申請したんです。いま思えば、この中学3年生の夏休みが転機だったと思います。
上松:アイルランドにあるCoderDojo Foundationに申請するのは大変なのですか?
宮島:今ではコミュニティ有志の方々のご協力のおかげで申請フォームが日本語化されていますし、CoderDojoの憲章や、ルールも明確になっています。CoderDojoはフランチャイズではないので、憲章やその他のルールに同意さえすれば立ち上げることはできます。特徴的なのは料金を徴収しないことです。教室をやっている感覚はない。子どもから大人まで世代を超えて好きな人が集まるというイメージです。
CoderDojoは学習塾とは違って、公園のような場所だと思っています。テーマパークのようにデザインされた楽しさとは違う楽しさがある場所です。なので、カリキュラムに沿って学ぶ教室とは本質的にコンフリクトしないと思っています。どちらも楽しいよね、というスタンスです。
こういった背景から、高校1年生の頃にCoderDojoを作ったんです。

コロナ禍で CoderDojoをどう開催していくかは重要な課題です。例えば、CoderDojo Foundationは、全世界的にZoomのアカウントを提供して、オンライン開催のための環境を整えていたりします。しかし、個々のCoderDojoの運営は独立しているので、必ずしもオンラインでやらなければならないか、というとそうではありません。
日本国内には2021年4月現在、222以上のCoderDojoがあります。これほど大きなコミュニティになると、どんなことが起こっているか把握するのが難しくなってきます。コミュニティの取り組みとしてDojo Letterというメルマガもあります。国内の情報をまとめて発信する取り組みです。
CoderDojoが始まったアイルランドでは街を歩くと、ここにも、ここにもってあるんですよ。
上松:さすが、アイルランドは多いですね!
宮島:実は日本は、それより多くあるんですよ。地域で自分の意思で自発的に始めることが大事。1つ1つは独立しています。

これからの目標について

上松:最後に、今年の目標を教えて頂けますか。
宮島:今年は修士論文を書きたいですね。学校におけるコンピュータの創造的な活用を質的に調査するような研究をしています。プログラミング教育やICT教育全般に言えることですが、ほとんどの論文や書籍がツールの紹介に終わっており、より本質的な子どもたちの学びがどう変化したか、LX(Learning Experience = 学びの質)はどう高まっているのかを言わなければ、学校に浸透していくことはまずないと考えています。だからこそ、「創造的な使われ方」をしている授業を見てそこで起こっている、学びの事実からICT活用の利点を描ければと思っています。
また、会社の取り組みで言えば、プログラミング教育やICT教育を推進したい自治体や学校との協力をしっかりやっていったり、子どもをターゲットにした商品開発やイベントなどを企画されている企業さんとのコラボをやっていきたいです。

宮島さんからは、新しい教育の価値を生み出していくエネルギーを感じました。高校1年生でCoderDojoを立ち上げ、高校2年生の冬に会社を立ち上げた宮島さん。TEDxKidsに登壇し注目されてから、どんどんパワーアップされていて、益々今後の活動やイベントが楽しみです。

宮島 衣瑛(みやじま きりえ)氏プロフィール
株式会社 Innovation Power 代表取締役社長 CEO
一般社団法人 CoderDojo Japan 理事
CoderDojo Kashiwa Champion
学習院大学大学院人文科学研究科教育学専攻 M2
1997年5月生まれ。2013年5月から地元である千葉県柏市で小中学生向けのプログラミング道場、CoderDojo Kashiwaを主催・運営。プログラミング教育を始めとするICT教育全般について、全国各地で実践研究を行っている。教育分野のR&D(研究開発)を行っている株式会社 Innovation Power のCEO。2017年4月より柏市教育委員会とプログラミング教育に関するプロジェクトをスタート。市内すべての小学校で実施するプログラミング学習のカリキュラム作成やフォローアップを担当。2017年11月より一般社団法人CoderDojo Japan理事。大学院ではコンピュータを基盤とした教育について研究している。
(株式会社Innovation Power 公式サイト https://innovation-power.jp/ceo.php より抜粋。閲覧日:2021年5月28日)