教育連載コラム―未来への戦略-

創作活動が楽しくなるICT教育の再考-その背景とは-【前編】

今回は、明治大学総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 准教授の五十嵐悠紀先生にインタビューをした。
リケジョという言葉があるように日本では理系の先生が少ない中、ICT教育でコンピュータを使うことが私たちにどう関わるのか、どうしてこの研究にたどり着いたのかも含めてお話を伺った。

クリエイティビティに触れた子供時代
上松:五十嵐先生、子どもの頃はどんなことがお好きだったんですか?
五十嵐:手を動かすことが好きでしたね。ピアノをずっと習っていたんですが、他には紙工作をしたり、型紙を買ってきてぬいぐるみを作ったり。テディベアの型紙を買ってきて作ったんですが、実はクマよりどちらかというとウサギのぬいぐるみの方が好きで。それで自分で耳を長くした型紙にアレンジして作ってみたのですが、縫ってひっくり返して綿を入れたらすごく細くなってしまって上手く行かなかった経験もありました。
上松:私も3歳くらいからピアノを習っていましたが、他にはあまり手を動かすことがなかったですね。結婚直後は主婦をしていたので料理以外には洋裁や編み物、パッチワークなども習いましたし、籐で籠や皿などを編んで、ピザを焼いて入れたりしていました。これは母親の影響があるかもしれません。
五十嵐:そう、家では母親の影響ってありますよね。母がよく裁縫をしていて、私の洋服を作ってくれたり、セーターを編んでくれたりしました。お人形の洋服などもよく作ってくれていました。

母手作りのお人形の洋服

母の手編みのセーターを着た子供時代

上松:昔はあまりキットが無かったですよね。そういった点ではクリエイティビティがなんにでも求められましたね。おもちゃでも。お父様の影響はありますか?
五十嵐:父は車の設計をするCADシステムの設計をしていたので、家でもパソコンでプログラミングなどをしていました。会社のファミリーデイに連れていってもらったこともあり、そこで実際のデザインやクレイモデル、衝突シミュレーションなどを見せてもらったことは今でも覚えています。
他には子どもの頃、祖父母の元へ帰省するタイミングで色々なところに連れていってもらって、地理の授業の時には「あ、ここは家族で行った場所だ」、という感じで、暗記ではなく思い出のイメージで覚えていました。

あと「女の子だから」などは言われずに、男女関係なく育てられたのも嬉しかったですね。中高の時も女子校だったので、女の子だからとか考えることがない環境にいました。

金閣寺の前で。拝観料を払ったときにもらえる御札が家に帰ってきたら3枚しかなく、写真を現像したら1枚落としていたお父さん、という思い出とともに「鹿苑寺金閣」を覚えた。

ひいおじいちゃんに教えてもらって作ったわらじ

上松:私も女性だからという育てられ方はしなかったですね、幸い。特に私の時代は大学進学の時に女性は短大か4年生でも家政学部などを勧める親が多かったのですが、父親は「好きな学部に行けばよい、自分の勉強したいことを深めるのが大学なのだから」、と言いました。しかし、中高からもそうだというのはびっくりです。
五十嵐:中高は鴎友学園でしたが、教科の枠を超えての学びを、という学校で、そういった教育は今から振り返ってもとてもよかったと思います。女子校ですが、生物ではウシガエルの解剖をしたり、物理ではハンダ付けをしてラジオも作りました。私は数学が好きだったので高校時代は数学の道に進みたいと思っていました。


情報科学、コンピュータグラフィックス(CG)を志したきっかけ
上松:でも実際は情報科学の世界に行かれましたよね。なぜでしょう。
五十嵐:オープンキャンパスがきっかけなんですよね。高校時代に、色々調べてお茶の水女子大学のオープンキャンパスにいきましたが、真っ先に理学部数学科、次に、物理学科、次に化学科を見ました。最後に同じ理学部の中にある情報科学科を見学に行きました。好きな数学も使えるし、コンピュータも使える、いろいろと横断した研究内容で自分に合っていると思いました。大学での学部選びはオープンキャンパスに行って正解でした。
学部ではコンピュータグラフィックスの研究室に所属し、その後、大学院は東京大学の情報理工学系研究科でユーザインタフェースの研究室に、博士課程は東京大学工学系研究科でCADの研究室に進みました。
上松:その後、筑波大学でのボスドクでも学振(日本学術振興会奨励研究)に採択されたりと順風満帆に見えるのですが、実際は、女子学生がとても少ない世界で、けっこう大変だったのではないでしょうか?

五十嵐:それが幸いなことに、女子中高、女子大学と進んできたので、情報系に女子学生が少ないという事実に気づかなかったんですよね。で、学会に発表に行ったら。あれ?女子ってここまで少ないの?って思いました。
上松:そうなんですね。しかし子供のころの体験が今に生きていますね。手芸の世界やビーズ、最近では伝統工芸の世界もコンピュータと親和性が高いというのは、手芸好きなおばあちゃんたちはびっくりするかもしれません。家庭科でも手芸をすることはあってもそれがどうコンピュータと結びついているのか、と思う人も少なくないですし。最近では決まったキットを使って手軽にするケースが多いですよね、でも皆、同じになってしまうんですよね。
五十嵐:そうなんです、だからうさぎの型紙がなくて耳を作ってなかなか上手くぬいぐるみが作れなかった経験が記憶にあったんですよね。それが今ではCGを使えば、縫ったあとの3次元のカタチを簡単にシミュレートできます。
上松:そうなんですよね、そこでどうカスタマイズできるのか、っていうのは楽しい創作活動に繋がっていきますよね。

図:ぬいぐるみデザインシステムでは、型紙デザインと縫い合わせたシミュレーションをコンピュータで行ってくれるので縫い目を試行錯誤したあとで、実際に縫うことができる。

参考書籍
縫うコンピュータグラフィックス: ぬいぐるみから学ぶ3DCGとシミュレーション(Amazon)
参考サイト
高校生のためのコンピュータサイエンスオンラインセッション2020 – キミのミライ発見