海外トップ大学の授業が学べるAsuka Academy 第3回「アメリカ導入時の状況からみたオープンエデュケーション」(青木理事インタビュー)
海外トップ大学のオープン講座をネットで日本語で、無料で学べるAsuka Academy(アスカアカデミー)。このAsuka Academyに関わっている方々のインタビューを通して全6回構成でご紹介する。
第3回では青木理事にインタビューを行った。
オープンエデュケーションと放送大学
上松:放送大学とMOOCの授業、OCW(オープンコースウェア)など、なかなかすみ分けがわからないという人もいるのではないかと思うのですが、その点いかがでしょうか。
青木理事(以下、青木):そうですね。放送大学とAsuka Academy両方に関わりを持っている私としては、全ての人に高等教育の機会をという信条を持っています。
上松:素晴らしいですね。
青木:放送大学では、学部生でも卒業研究を履修して、教員の細かい指導のもとで研究を進めることができます。また、単位取得や学位修得の目的以外でも学びたいから放送大学に入学するというパターンも多いです。
上松:私も教員をしながら、放送大学の夏休みの集中授業で司書教諭科目履修生になり資格を取りました。当時は新潟に居たのですが、新潟の放送大学学習センターには授業を収録したビデオが大量に置いてあり、科目履修生でも自由に視聴できました。
青木:学習センターは全国にありますね。幕張には宿泊施設もあります。大学院課程では指導教員がつきます。修士課程では、科目履修生として必要単位を取得し、その上で全科履修生として入学してくる学生もいます。そうすると教員のきめ細かい指導のもとでみっちり2年間修士論文の執筆に専念できます。
上松:放送大学では多くの教員の動画があり、日本で最高レベルの先生の授業を受けることができると思っています。幕張で宿泊もしました。新潟では朝、放送大学学習センターに行き、1日中、ビデオを取り替えながら視聴し、レンタルして車の中でカセットテープを聴き、家ではまたビデオを見るという勉強漬けになった時期もありました。
特にメディア論の授業にハマったのですが、ビデオを視聴するだけで東京大学の学生ではない私が、東京大学で教えられていた水越伸先生の授業を受けることができるのですから、胸が熱くなるくらい感動しましたし、かなりお得な感じもありました。せっかく勉強したのだから大学の単位に全て互換されると良いな、とも感じました。
青木:単位を取るという点でも放送大学は良いですね。海外だとMOOCの講座を修了し、それを単位互換して大学の単位にすることができるんです。日本はまだそうなっていませんから。
上松:それは良いですね。私もボストンに居る時にハーバード大学とMIT、ボストン大学の単位互換の話を聞き、これから日本の大学でも進むのではと感じました。
オープンエデュケーションがスタートした時の反響
青木:そうだったんですね。それで、その当時のボストン大学の同僚は教材公開についてとても驚いていました。講義ノートや講義ビデオを公開してしまったら、大学に学生が来なくなってしまうのではないかと。
上松:当時ハーバード大学でも5%の教員が自分の授業をオープンにするなんて絶対反対と言っていましたから、大学にとっては結構大きな出来事でしたね。
青木:当時のMITの学長は「教育は学生とのインタラクションが大事」と言っていました。教材を提供することが教育なのではなく、個々の学生たちが講義の内容を理解できるようインタラクションを行い、それをどう証明してもらうかが大事ということでした。
教員の尽力するべきことは教材を作るところではないということがオープンエデュケーションのあるべき姿だという考えから来ているという話でした。私も学生は多様ですので、個々の学生のニーズに合わせて教材を活用するほうに注力するのが大事だと感じます。
セミナーに登壇する青木理事
個別最適化の必要性
上松:その当時のアメリカでは、教材は1つの大学で作るよりも色々使うことも大事だという考えからきていましたよね。素晴らしい教材さえあれば、良い教育を提供することができますね。合理的な考え方だと感じます。
青木:学生にどう理解してもらえるかを考えることは教員の大事な役目でありますね。米国で長年教えてきて痛感しましたし、様々な教員の声を聞くことができました。
上松:青木先生はいつ頃アメリカにいらっしゃったんですか。
青木:1986年から2003年まで居ました。教材を自前で作るよりも、良い教材を活かしながら教えることは大事だと感じました。かかえこみで教員が全部作る必要はないと思います。もっと色々流通させるべきですね。日本の文化だとけっこう抱え込んでしまう部分がありますね。
上松:いきなり休講になって、1時間目から6時間目まで全て手作りしている先生がいらっしゃいました。日本の場合はそれを素晴らしいという風潮がありますね。もちろん私はそれができる先生は素晴らしいと思いますが、反面、例えば公開されているクオリティの高い教材を使い、学習者の理解が進むことを一番に考えることは必要だと感じます。また、データドリブンでどういった教育をさせるかは考える必要があるとは思います。ただ、人が介入しないのはどうかな、とは思うのですが。
果たしてその分析があっているのかとも思ってしまいます。その点いかがでしょうか。
青木:AIでアシスト出来る部分はありますが、それに頼りすぎてはいけないですね。
ただ、教材をどう系統的に学ぶか、個別最適化には使えますね。表面的に教材の順番を変える、教材を選ぶとかだけでは、個別最適化とは言えないと思います。小中校大と系統的にやることが大事です。
肝心なことは、生涯に渡って個人の好奇心を伸ばしていく個別最適化ができ、その最適化を上手に生かせる教育が欲しいですね。アスカアカデミーの教材があることで、こういうことを知りたいと検索したら、その知りたいことが出てくるAIの仕組みがあったら良いと思います。
幅広い知識と教養を持つことが必要な時代
上松:これから多くの教材や色々なメディアを視聴することで、幅広い知識と教養を得ることができそうですね。最近ではウクライナ情勢の報道を目の当たりにして、なぜと思うことが多かったです。
青木:実は非常勤で教えている神田外語大学で、ハンガリーとの交流授業を12年間やっているのです。今年はウクライナ情勢の話も出ました。西側諸国の経済制裁についての感想は様々あり驚いた点もありました。ご存じのようにハンガリーには複雑な歴史があり、ドイツにも侵略されていた時代があるためこれらの歴史的な背景も理解する必要があると感じました。
上松:書店によってロシアの歴史を勉強する人も増えてきているそうですね。ロシア側からみた論理や中国との関係性が欧州には各国の事情を知る上では大事なのですね。が、各国のメディア報道が違うとメディアの受け手の考え方にも影響が出ることがわかったと感じます。
青木:情報をどう受け取るかは学生同士のコミュニケーションからみえてきたものがありました。1つの国のメディアだけで物事を判断するという時代ではないですね。今は色々な情報技術で世界の情報にアクセスできますから。
上松:まさに先生のご専門の分野ですね。情報通信技術から得た知識を教育に反映し、私たちの生活にどのように生かせるのかが大事ですね。
青木 久美子 氏 プロフィール
米国ウィスコンシン大学で修士課程、米国ハワイ大学で博士課程を修了後、ロチェスター工科大学で3年、ボストン大学で5年半、教鞭をとる。その後、2004年に帰国してメディア教育開発センターでeラーニングや教育におけるICT活用の調査研究を、2009年からは放送大学にて、学部科目「日常生活のデジタルメディア」、大学院科目「eラーニングの理論と実践」「情報とコミュニケーション」を担当。放送大学におけるオンライン教育の推進や、同時双方向Web授業(ライブWeb授業)の推進役を務める。
Asuka Academy 理事
【会長】大久保昇(株式会社内田洋行 代表取締役社長)
【理事長】岸田徹(株式会社ネットラーニング 代表取締役会長)
【理事】青木久美子(放送大学 教授)
【理事】上松恵理子(武蔵野学院大学准教授)
【理事】加來賢一(株式会社クリエイティヴ・リンク ディレクター)
【理事】重田勝介(北海道大学情報基盤センター 准教授、OE Japan 代表幹事)
【理事】深澤良彰(早稲田大学 理工学術院 教授、大学ICT推進協議会 会長、JMOOC 副理事長)
【理事】堀田一芙(株式会社内田洋行 顧問、株式会社オフィスコロボックル 代表取締役社長)
【理事】村上憲郎(株式会社村上憲郎事務所 代表取締役 (元Google Japan 代表取締役社長))
【理事】山本忠宏(株式会社マークアイ取締役 COO)
【事務局長、常務理事】中村久哉(株式会社ネットラーニング 品質管理部 部長)
【監事】岸田敢(株式会社ネットラーニングホールディングス 代表取締役会長兼社長)
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