海外トップ大学の授業が学べるAsuka Academy 第1回「MOOCの進化とオンライン教材の今」(重田理事インタビュー)
海外トップ大学のオープン講座をネットで日本語で、無料で学べるAsuka Academy(アスカアカデミー)。このAsuka Academyに関わっている方々のインタビューを通して全6回構成でご紹介したい。
筆者は2013年5月設立準備開始から関わり、2014年4月1日のNPO法人Asuka Academyとしての立ち上げ時から現在まで理事を務めている。
第1回は重田理事、第2回は中村理事にお話を伺った。重田理事は北海道大学准教授であり、日本のMOOCやOERについて最前線のご研究をされている。
筆者もボストンでMOOC調査をした時に色々と情報交換をさせていただいた関係で、コロナ後の話も含め色々とお話を伺った。中村理事は立ち上げから故福原先生の片腕として事務局を支えている。
MOOC
MOOCとはMassive Open Online Courseの略で、直訳すれば「大規模公開オンライン講座」。インターネット上で、どこでも誰でも無料で受講できる授業のことを指します。(webページ「MOOCによって、「学ぶ」と「働く」が分けられなくなる時代がやって来ます | 2030年の「働く」を考える」より抜粋。閲覧日:2022.4.14, https://www.recruit-ms.co.jp/research/2030/opinion/detail18.html)
OER
オープン教育資源(OER)とは、パブリック・ドメインとなった、又はオープンライセンスの下で公開されている著作権のあるあらゆる形式及び媒体の学習、教育及び研究の資料であって、他の者による無料のアクセス、再使用、別の目的のための再利用、改訂及び再配布を認めるものをいう。(webページ「オープン教育資源(OER)に関する勧告:文部科学省」より抜粋。閲覧日:2022.4.14, https://www.mext.go.jp/unesco/009/1411026_00001.htm)
海外の受講年齢は若年層の傾向
上松:重田先生はMOOCについてもご著書を出版されていて(ネットで学ぶ世界の大学 MOOC入門)この分野の第一人者でいらっしゃいますが、ここ10年を振り返ってどんな変化が起こっていると思われますか?
重田理事(以下、重田): MOOCはコロナ禍をへて、再び受講者が増えてきています。傾向としては、海外では無料だけでなく有料の講座が増えてきたということですね。受講の時にコンテンツ料を支払う形や、サブスクみたいに月々支払う形もあります。また、無料で視聴できるけれども、修了証を取ったりテストを受けたりという時に支払いが発生する、要するに能力証明に課金をする形もあります。
上松:当時もそういった後課金はありましたが、サブスクなども出てきているのですね。
重田:私もCourseraというMOOCを有料で受講しました。
上松:MOOCのマッシブな、オープンで無料なオンラインコースでは無くなってきたんですね。
重田:昨年、大手のMOOCプロバイダであるedxは2Uというオンライン教育企業に買収されました。企業に買収されるということはそれなりの市場価値を持つと言えます。MOOCプロバイダは多くの講座と受講者を抱えています。
当初MOOCは高等教育のビジネスモデルを変えるのではと恐れられていましたが、結果的にはそうではなく、最初は無料で講座を開講することで成長し、現在はそれらを有料で提供し、持続的に運営を続けています。
上松:日本の、無料で誰しもが学べるJMOOCとは様相が異なってきたのですね。アカデミックコモンズとどう差別化するのでしょうか。MOOCやOERの違いについて聞かれることがありますね。
重田:OERは寄付財団や政府などの財政的な下支えがあり、学習者には課金しません。MOOCは学習者に小額の課金をしたり、MOOCを学生や従業員の育成に用いる大学や企業等に有償で提供することで、BtoCまたはBtoBのビジネスを行っています。また、OERは教育機会の均等化に貢献するという社会的価値が重視される一方、MOOCは学習者に能力証明を与えることで人材育成や雇用の流動化に貢献しているともいえるでしょう。日本のMOOCは海外と比べてシニア層の受講者数が多く、教養を身につける機会として活用されているという特徴もありますね。
上松:私の知り合いにも定年されて趣味的に哲学を受けようという人もいます。日本の場合、就職に有利というのはまだないのでしょうか。
重田:仮に今後、日本の雇用習慣において職務の具体的内容(ジョブ・ディスクリプション)が明確化されるようになると、MOOCで得られた能力証明をうまく活用する事例が増えてくるかもしれません。
オンライン授業にも使われているMOOC
上松:これだけ多くの授業を見ることができるので授業研究にも使われてると良いですよね。塾に行けないケースや家を出れない子どもたち。学校でいじめにあった人たちの教育機会を提供しているんですよね。
重田:国内外で、MOOCを教材としてうまく活用してオンライン授業を行った事例が多々あります。
私が所属する北海道大学でも、コロナ禍以前に制作したOERやMOOCを使った先生方がおられました。
初等中等教育向けの教材は十分とは言えませんね。昔はNICER(教育情報ナショナルセンター)があったのですが、2011年に運用が終了してしまいました。
上松:NICERが無くなった時には暗澹たる気持ちになりました。それは困りますよね。
海外だと自治体レベルでNICERがしっかりあって図書館でもリポジトリが一番と考えている所もありますね。ボストンもそうでした。
Asuka Academy
重田:Asuka AcademyはNPOとして社会貢献活動を行う団体で、我が国において教育の機会均等とインクルーシブな社会を実現するために、非常に重要な役割を果たしており、社会的意義も大きいと思います。
国内の初等中等教育においても、オンライン教育を活用している事例が増えています。私が関わっている取り組みでは、北海道内の道立高校が文部科学省の研究開発学校の指定を受け、教師の数が少ない高校において多様な授業を受講できるようにするため、遠隔授業を定常的に実施しています。北海道のような広域性の強い地域では、生まれた地域に囚われず多様な教育機会を確保することが課題になっています。オンライン教育はこのような課題の解決になりうると思います。
上松:学習効果はいかがでしょうか。
重田:対面授業と遠隔授業を、学習内容の理解度や生徒の自己調整学習の定着度の観点から比較する調査を継続的に行っていて、結果、遠隔授業の学習効果は対面授業に遜色ないという結果が得られています。
上松:最後に一言、Asuka Academyについてお願いします。
重田:Asuka Academyを支えているのは多くの翻訳ボランティアです。より多くの方にボランティアとして参加していただき、活動を盛り上げていただきたいですね。
重田勝介氏 プロフィール
北海道大学情報基盤センター准教授,同大学高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター副センター長。博士(人間科学)。高等教育におけるICT活用教育の調査分析や,オープン教育資源(OER)や学習履歴データを活用した教育改善に関する研究に従事する。
オープンエデュケーション・ジャパン代表幹事。日本教育工学会理事。AXIES ICT利活用調査部会主査。
Asuka Academy 理事
【会長】大久保昇(株式会社内田洋行 代表取締役社長)
【理事長】岸田徹(株式会社ネットラーニング 代表取締役会長)
【理事】青木久美子(放送大学 教授)
【理事】上松恵理子(武蔵野学院大学准教授)
【理事】加來賢一(株式会社クリエイティヴ・リンク ディレクター)
【理事】重田勝介(北海道大学情報基盤センター 准教授、OE Japan 代表幹事)
【理事】深澤良彰(早稲田大学 理工学術院 教授、大学ICT推進協議会 会長、JMOOC 副理事長)
【理事】堀田一芙(株式会社内田洋行 顧問、株式会社オフィスコロボックル 代表取締役社長)
【理事】村上憲郎(株式会社村上憲郎事務所 代表取締役 (元Google Japan 代表取締役社長))
【理事】山本忠宏(株式会社マークアイ取締役 COO)
【事務局長、常務理事】中村久哉(株式会社ネットラーニング 品質管理部 部長)
【監事】岸田敢(株式会社ネットラーニングホールディングス 代表取締役会長兼社長)
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