教育連載コラム―未来への戦略-

「学歴よりもスキルと学習歴」の時代へ ~IT人材育成モデル「P-TECH」とは~【前編】

今回の当コラムでは、官民連携で展開するIT人材育成のための新しい教育モデル「P-TECH」について紹介する。P-TECHとは、Pathways in Technology Early College High Schoolsの略称である。
P-TECHは、教育委員会や各企業などのステークホルダーと確実な連携を取り、共創して進めていくプロジェクトだ。具体的には高校3年間、短大2年間の高校と大学を結びつけ、5年間一環してやり続けるプロジェクトである。

学歴よりもスキルの時代

P-TECHは5年間の一環教育で日本の高専に近いイメージだが、海外の場合、高校が4年間の場合は6年間というケースもある。目的は「IT人材育成」がメインであり、4年制の大学では育成が難しいIT人材を育てあげることである。これからのIT人材には「大学の学位や学歴で仕事をするのではなく、スキルで働く」という考え方が存在することになるだろう。
今の学びは重要ではなく、新しい技術が出てくるため、常に学び続ける人材を育てることが大事だという考え方を持つ企業も増えつつある。

実際に海外でも、大学4年間で学んだことより、技術に興味を持ってずっと学び続けてくれる人材を育てようという動きがあり、P-TECHもその世界的な取り組みの1つである。

2011年にアメリカで始まったこの取り組みは、現在28カ国240校以上の規模となり、600社を超える企業パートナーが150,000人の学生をサポートしている。
ここでは5年制の学校での学びと官民連携がキーワードであり、企業が実際の運営に対してパートナーシップをもって協力し支援していることが特徴だ。

高校生にはITエンジニアに会う機会があまりない。そして企業がどうやって仕事をしているのがわからない、というのが現状だが、P-TECHではメンターになる人と繋がり、様々な社会交流プログラムを行うことが可能となっている。彼らにとって、課題意識や学びの動機付けを行っていくことは良い経験となるだろう。
学校と社会の繋がりをしっかり結ぶというイメージで、工業高校のIT関連コースを中心に教師が授業を行っている。

世界で600社のIT企業が参入しているが、どの企業も「学び続けることの大切さ」を重要視している点が共通項といえるだろう。

日本のケースでは、神奈川県立産業技術短期大学校の例がある。短大の2年間と結びつけて5年間、高専の学び方に近いもので、一環してプログラミングなどのスキルを習得できるものとなっている。
そのほか、神奈川県立神奈川工業高等学校、東京都立町田工業高等学校、日本工学院八王子専門学校とも連携している。
また、茨城県では県の行政が入っており、地元課題の意識付けが行われている。梨農家のIoTに関する話を紹介し合うといった例もあるようだ。常陽銀行や鹿島アントラーズ等も連携しており、茨城県について県全体で高校1年生のうちから課題意識を持たせる取り組みである。

こういった取り組みにより、地域社会で役に立つことを考えたり、お年寄りへの支援をはじめ、どのような貢献ができるかなど目的を持って勉強することができるのではないだろうか。

授業で単なるプログラミングをピンポイントでやらされているだけでは、何のためにやっているのかわからない。P-TECHのように、色々な面からITの必要性について考えていくというプロジェクトは今後益々重要になってくるだろう。

後編ではP-TECHのメリットについて紹介する。