教育連載コラム―未来への戦略-

つくる楽しさと成功体験でクリエイターを育むアプリ「スプリンギン」開発に込めた想い(前編)

今回は株式会社しくみデザイン代表取締役であり、芸術工学博士である中村俊介さんにインタビューしました。
中村さんは自らクリエイターとして起業し、その経験からすべての人をクリエイターにしたいという思いで「スプリンギン(Springin’)」というアプリを開発、クリエイターの立場からプログラミング教育を実践している方です。

幼少期から創る体験の大切さ

上松:中村さんには色々とご縁がありますが、熱中小学校でお互い客員教員というご縁もありました。
中村さんは九州大学卒だそうで、私も出張で福岡などにはよく行きますが、ベンチャーの勢いが良い場所ですよね。九州大学、九州工業大学、北九州市立大学等々、プログラミングなどで市民にも色々と貢献しているという点でも素晴らしい場所だと感じています。
中村さん(以下、中村):いえいえ、実は大学は名古屋大学の建築学部ですし、出身も九州ではないのです。大学院から九州芸術工科大学に進学したことがきっかけで福岡に住み始めました。
芸術工学博士としてドクターを取得した年に九州大学と合併したので、最後の芸工大生なんです。
名古屋大学の指導教官から自分に向いているんじゃないかとアドバイスを受けて、この大学院に進学しました。
上松:そうなんですね。私も博士は教育学で多くはないのですが、博士で芸術工学とは激レアなイメージです。ではご出身は名古屋ですか。
中村:それが、名古屋でもないのです。親が転勤族だったので幼稚園は滋賀県の長浜市で、それから彦根市に引っ越しをしました。今思うと、クリエイター的な創ることが好きになったきっかけは幼稚園だったのかもしれません。
ちょうど僕が卒園する年に、幼稚園が老朽化したので取り壊すということになっていて、床や壁の好きなところに落書きや釘打ちなど好き勝手にさせてもらえたらしいんですよ。

幼稚園の中に釘打ちしておうちづくりをしている様子(6歳)

上松:好きなことをしてよいと言われると、クリエイティビティの遺伝子が刺激を受けて進化しそうですね。カスタマイズされた箱庭で安全な決まった玩具で遊ぶのとはケタ違いな体験ですね。MITの1階にも好きに落書きできる場所がありました。
中村:そして彦根市の引越し先が新興住宅地で、建てかけの家がたくさんあったため、そこらじゅうに端材があったんですね。親が子ども用の大工セットを買ってくれたので、建築中の家の大工さんから端材をもらって色々なものを創りました。
自分にとって創作活動は普通だったんです。
その後、親が群馬県に転勤になりまた引っ越しました。

上松:わ、また転勤されたんですね。小学生で転勤するのは大変だったと先日もインタビューで伺ったところです。日本の大企業は、家を建てると逆に辞めないだろうと思って逆に転勤させたりなんて噂を聞いたことがあるくらいですから。それってたとえ企業側にメリットがあるとしても、社員の幸せを考えると、巡り巡って企業にとっては良くないのではと思うこともあります。
家庭を大事にするフィンランドでそのような事例を話したらびっくりされました。子どもにとっても後々の影響は大きいですよね。
中村:自分にとっては方言やカルチャーの違いでけっこうびっくりすることもありました。住宅地から工場地帯という感じで町の環境も異なりましたし。ただ、わりと勉強は得意だったのでなんとかなりました。運動は苦手だったのでモテませんでしたけど(笑)。
そして、中学生の時に父親が会社の同僚からいらなくなったPC8001を貰ってきてくれたことで、コンピュータに興味を持ちました。
それで、自分のパソコンが欲しくて、パソコンとゲーム機の中間のような「MSX2+」を買ってもらいました。その頃は完全にオタクだったので、オタク友達とゲームの交換をしたりしていましたが、そうそう新しいゲームも買えないので、当時プログラミングコードがそのまま印刷されていた月刊誌の「マイコンBACICマガジン」や「MSX・FAN」を買ってきてそのまま写経のようにしてゲームをつくっていました。
もちろんプログラミングなんて全くわかっていませんでしたので、ただただそのまま写せばゲームができるという認識でしたが。

成功体験がモチベーションに繋がる

上松:ベーシックを小中学生で体験された方の中には今、第一線で活躍されている人が多いように思います。当時インターネットも使っていないので時間はあったと思います。
中村:はい、この「MSX・FUN」の雑誌は中学生でもお小遣いで買うことができたんですよね。で、その雑誌の中に1、2行のジョークプログラムなんかを紹介してくれるコーナーがあって、ちょっと試しに中学2年の時に2行だけのプログラムを書いて送ったんです。それがハガキに手書きで。
上松:確かにハガキで出すには鉛筆などで書くしかないですよね、コピペができないですからね。
中村:そうなんです。それでハガキを送ってみたら、なんと雑誌に掲載されたんですよ。それはものすごく嬉しい体験でした。僕にとっての最初の成功体験だったと思うんですよね。その体験がとても印象に強く残ったので、たくさんアワードを開こうと思うようになりました。
現在多くのアワードを実施したり審査員等を引き受けたりしているのは、この体験があるからです。
上松:素晴らしいですね。
中村:とにかくできるだけ多くの人に成功体験と実績を得て欲しいんです。そのためには、ツールだけ渡してもダメなのかな、と思います。
そこで、サポーター企業とコラボしたアワードを実施するしくみを考えました。後ほど詳しく説明しますが、僕たちが開発運営しているクリエイティブツール「スプリンギン」では、例えばANAのような大きな企業も参加していただいてアワードを実施しています。
クリエイターからするとANAから賞を貰った、という喜びにも繋がりますし、企業側には、通常とは桁違いのエンゲージメントを獲得できるというメリットがあります。
サポート頂ける企業は随時募集しています。