教育連載コラム―未来への戦略-

「WCCE2022」日本開催決定の背景【後編】


前編では、世界で4年に一度開催される「WCCE (World Conference on Computers in Education) 」が2022年に日本で開催されるということについてご紹介しました

WCCE 2022 公式サイト
https://wcce2022.org/

齋藤先生が情報教育に興味を持ったきっかけ

齋藤俊則先生

上松:齋藤先生は慶応大学のSFCご出身ということですが、慶応大学を受験されたきっかけというのは何でしょうか?
齋藤:僕はSFCの2期生なんです。総合政策を扱っていて興味に近いと思ったのです。もともと文系なんですよ。
上松:私がまだ中学校の教員だった頃にお目にかかったんですよね。きっかけがメディアリテラシーの研究ですね。先生のご著書「メディア・リテラシー」も拝読させて頂きました。私が当時関心を持っていたメディア論の話ができる方がいてうれしかったのです。
実際、修士論文はそれをもとに書きました。記号論の話やデビッドバッキンガムの話だけでなく、スチュアートホールなどのカルチュラル・スタディーズの話に花が咲きましたよね。当時、研究室では原著でデビッドバッキンガムの輪読をしていました。
先生が大学に入られて情報教育の方向に向かわれたのはどういったきっかけだったのでしょうか。

齋藤:もともと法学に興味があったのですが、たまたま高校の時に記号論の本を読んでいて、慶応のSFCに入った後、修士から論文などで情報教育のことを書き始めたんです。
認知の視点と社会の両方の視野を入れたものですね。情報教育で自分が言っていたのは、コンピュータを扱うだけではナローな部分しかない。情報の中身や流通などの部分や、社会のコンテクストを視野に入れることが大事であると言っていたのです。情報の発信と消費の間の非対称性、言い換えれば情報の背後にある権力構造の問題をいかに学び手が意識できるかが、情報教育にとって大切であるということを考えていました。
上松:斎藤先生と私との共通の話題があの当時、とてもたくさんありましたね。
私もその後、イギリスに行き原書でスチュワートホールの本をたくさん読みたいと思って、まずはロンドンの本屋さんに行きました。店員がなかなか対応してくださらなかったので発音が悪いのかなと思いましたら、実際、ホールは当時、あまり出版はしていなかったようでした。
研究者の間ではたくさん読まれていたホールのカルチュラル・スタディーズもあの本がメインだったのでしょうか。いつか、また海外の論文の話で昔のように盛り上がりたいですね。今は付箋だらけで研究室に置いてあります。

「WCCE」の開催、企業にとってのメリットとは

上松:さて脱線してしまいましたが、WCCE開催について。教員以外にメリットはありますか?
齋藤:企業にとってのメリットは、教育の場にどういうニーズがあるのか、どういうことをすると教育の場で喜ばれるかの傾向がわかることです。日本だけのドメスティックな中にいるよりもアイデアが浮かぶでしょう。
海外の教育企業とも交わることができ、どんなプロダクトがあればハッピーなのか、ニーズの動向をリアルに見ることができて視野に入れることができる。具体的なヒントをもらえるネットワークも得ることができ、研究者や同業の企業との付き合いもあります。
日本からプロダクトを輸出しようという話もできますよね。
上松:そうですね。日本には教材をひとつとってみても素晴らしいものがたくさんあります。しかし日本語なので、海外で注目されないんです。これが英語に翻訳されたり海外で紹介されたりすれば良いのに、と思うことがよくあります。
確かに、日本に居ながらにして海外の企業とも話ができるし、ニーズがわかりますね。

齋藤:海外の教育政策についての情報交換ができるしネットワークもできます。ユネスコやEUの方々とつきあえるし、日本の教育政策は色々な国から見てどう評価されるのか、フィードバックとしては大事なのではと思います。
海外から入る情報を見つつ、失敗例などを含めてイノベーションのきっかけを得ることができるのではないでしょうか。
願わくば、日本が国際的に発信をして、「日本で生まれた研究や知恵は役立つ」というコミュニケーションが機能すればよいのではと思います。こういう分野で発言をしてプレゼンスを持たなければならないと思います。
上松:韓国では海外に研究授業を発信するという事例がありますね。日本は公立小学校の研究授業を学校現場から世界に発信するということはほとんどありませんし、研究授業はかなり前から優れたものがたくさんあるのに、それが紙ベースなのがもったいないですね。教務室に報告集などが置いてあって、宝なのに埃をかぶって山積みになっているところもあります。先生方の英知が集まっているのに残念ですね。
齋藤:教育の研究はドメスティックな課題解決が少なくありません。日本国内の教育動向にフォーカスが当てられるとは思いますが、やってみたことが日本の中で役立つだけではなく、皆の役に立つということもあると思います。

世界の教育者と交流できる「WCCE」

上松:どんな先生に参加してもらいたいですか。
齋藤:情報教育に携わっている小中高の先生に発表をしてもらいたいですね。しかし発表しなくても聞くだけでもたくさんの刺激が得られると思います。プレイベントで教員免許更新講習を開く予定ですが、その中に海外の先生と交流する企画を入れようと思っています。
上松:じっくりと、世界の教育者と日本で触れ合う機会もあるのですよね。
齋藤:はい、懇親の場もあり、とても良い機会になると思います。

上松:発表のためにはどんなことが必要ですか?
齋藤:ショートペーパーは6枚以内、デモを中心にやる場合は文章が短くてもOKです(2枚以内)。
大学の先生には教育の情報技術に関わる幅広い研究、技術を教育に使ったという話、学習データの活用、教育のシステム作りの観点で貢献したものなど。教育の本道を言うと、コンピュテーショナル・シンキングやカリキュラム体系などですね。教育の専門家からコンピュータやコンピュータサイエンスの専門家も入って、一同に会して対話の場を作りたいと思っています。
上松:それは楽しみです。これから色々と大変なことも多いかと思いますが、どんどん協力者を増やして、大成功になると良いですね。引き続き応援しています。

世界の方々が集まる4年に1度の大規模イベント「WCCE2022」開催国のトップとして、齋藤先生から色々な情報を伺いました。これまでもたくさんの方々がこのイベントに関わってきましたが、今後は全国の先生方、企業の方々、そして政府なども関わってどんどん輪が広まると良いと感じました。